PFASフリーへ!PEEK樹脂で実現するポンプ部品のPFA・PTFE代替
PFASをめぐる環境対応が進むなか、ポンプやバルブ、流量計などの流体制御機器でも、PFA・PTFEをフッ素を含まない材料へ置き換えられないかという検討が増えています。
府中プラでは、前回のコラム「『PEEKは高いから無理』と諦めない ─ PFAS対策でPTFE・PFA代替を再検討する」で、材料単価だけで判断するとPEEK化の可能性を狭めてしまうこと、部品コスト全体で見れば代替が成立する領域があることをお伝えしました。本コラムはその続編として、流体制御機器の部品を対象に、PFASフリー化を具体的にどう進めるかご提案します。
なお、府中プラは2026年10月、中国でPEEK樹脂の研究開発から製造・販売までを一貫して手掛けるメーカー、中研股份との業務連携を発表しました。本コラムでは、同社のPEEK樹脂を取り上げながら、府中プラが材料選定、部品形状、射出成形の観点から、流体制御機器における代替の可能性を検討します。
ポンプ・流体制御機器の部品別に見るPFA・PTFE代替
PFA・PTFEからPEEKへの代替で最初に確認したいのは、「現行材料が何か」ではなく「その部品が何をしているか」です。同じポンプの中でも、回転する部品、摺動する部品、シール面を形成する部品、薬液を流す部品では必要な性能が異なります。部品単位で要求特性を切り分けることで、PFA・PTFEでなければ成立しない領域と、PEEKの強度・剛性・耐クリープ性を活かせる領域が分かれます。
PFASフリー化は、機器全体を一度に置き換える必要はありません。要求特性を整理すれば、PEEKで置き換えられる部品から着手できます。以下では代表的な6つの部品を取り上げ、どこからPEEK化を始められるかをご説明します。
インペラ・ギア ― 耐薬品性と強度・剛性・摺動性が必要

インペラやギアは、薬液への耐性だけでなく、回転時の荷重に耐える強度・剛性、寸法安定性が必要です。特にインペラでは、羽根の変形や寸法変化が流量・効率に影響するため、耐薬品性だけで材料を選ぶことはできません。ギアでは歯面の摩耗や摺動条件も加わります。使用する薬液、濃度、液温に対してPEEKの耐性を確認できれば、PFA・PTFEより高い機械特性を設計に活かせる可能性があります。高い剛性が必要な場合はGF・CF強化PEEKも候補になりますが、接液条件や繊維配向、摩耗相手材まで考慮した評価が必要です。
ブッシュ・軸受 ― 剛性・摺動性・耐摩耗性・耐クリープ性が必要

ブッシュや軸受では、PTFEの低摩擦性が魅力である一方、長期荷重によるクリープや変形が設計上の課題になる場合があります。PEEKは強度・剛性・耐クリープ性に優れるため、軸の支持精度や寸法維持が重要な用途では代替候補になります。ただし、「PTFEより摩擦係数が高いから使えない」「PEEKなら強いから使える」という二択では判断できません。相手材、面圧、摺動速度、潤滑の有無、温度、必要寿命などのPV条件を整理し、摩耗量と発熱まで考慮して評価することが重要です。摺動用途ではCFを配合したPEEKも選択肢になります。
バルブシート・バルブディスク ― 耐薬品性とシール面の寸法安定性が必要

バルブシートやバルブディスクは薬液に直接触れるため、まず耐薬品性の確認が必要です。そのうえで見逃せないのが、シール面の寸法安定性です。温度や圧力、締結荷重によってシール面が変形すると、微小な漏れにつながる可能性があります。PEEKはPFA・PTFEと比べて高い剛性と耐クリープ性を持つため、形状保持が重要な部品ではメリットを活かせます。一方、PTFEの柔軟性やなじみ性そのものをシール機能として利用しているソフトシール部は、同じ形状のままでは置き換えられません。この場合でも、シール部はフッ素樹脂を残し、ディスク本体やシートリテーナなど形状保持が求められる部位をPEEK化するという切り分けが可能です。部品単位ではなく機能単位で分けることで、着手できる範囲が見えてきます。
スラストワッシャー・バックアップリング ― 面圧下での耐クリープ性と低摩擦性が必要

スラストワッシャーやバックアップリングは、限られた面積で荷重を受けながら、摺動やシール補助の役割を担います。PTFEは低摩擦性に優れますが、高い面圧が長時間加わる条件ではクリープ変形を考慮する必要があります。PEEKは高温下でも剛性を維持しやすく、耐クリープ性にも優れるため、寸法変化を抑えたい用途では有力な候補です。ただし、ワッシャーでは摩擦・摩耗、バックアップリングでは相手シール材との組み合わせが性能を左右します。荷重、温度、摺動速度、相手材を整理し、必要に応じて摺動グレードを含めて選定します。
ケーシングライナー・流路部品 ― 耐薬品性と耐摩耗性、薄肉部の寸法精度が必要

ケーシングライナーや流路部品では、接触する薬液への耐性が代替判断の出発点です。さらに、流体中に粒子を含む場合はエロージョンや摩耗、複雑な流路や薄肉形状では射出成形時の充填性や寸法精度も重要になります。PFAは優れた耐薬品性を持ちますが、実際の使用薬液・濃度・温度を限定して評価すると、PEEKで要求を満たせるケースがあります。PEEKの高い機械特性を活かせれば、肉厚や補強形状を見直し、部品の一体化にもつなげられます。材料変更だけでなく、流路形状と成形性を同時に検討することがポイントです。
センサーハウジング・流量計部品 ― 耐薬品性と高い寸法精度、耐熱性が必要

センサーハウジングや流量計部品では、接液部の耐薬品性に加えて、センサー位置や流路寸法を維持する高い寸法精度が求められます。温度変化や締結による変形が測定精度に影響する用途では、PEEKの剛性、耐熱性、耐クリープ性を活かしやすい領域です。金属端子とのインサート成形や複数部品の一体化を検討できる点も、射出成形用PEEKの特徴です。一方で、薬液が直接接触する場合は、種類・濃度・温度・接触時間を確認したうえで、実使用条件に即した評価が必要です。
設計・材料の最適化によるPEEK代替
PFA・PTFEからPEEKへの代替で避けたいのが、既存図面の形状を変えずに材料名だけを置き換えることです。PFA、PTFE、PEEKでは弾性率、強度、クリープ、熱膨張、成形収縮が大きく異なります。PEEKの高い強度・剛性を前提に、肉厚、リブ、ボス、コーナーR、締結部などを見直すことで、代替可能性を広げられます。

府中プラは、3,000型を超える金型受注実績で培った知見をもとに、部品形状そのものからご提案します。フッ素樹脂の圧縮成形や切削加工を前提に設計された形状は、射出成形ではそのまま成立しないことがあります。抜き勾配、パーティングライン、ゲート位置、アンダーカット処理を織り込んだ形状に組み替えることで、量産が可能になります。複数部品を一体化して部品点数を減らす、インサート成形で金属部品と組み合わせるといったご提案も、この段階で行います。
材料面では、GF・CF強化材における繊維配向の異方性や反り、ウェルド、金型摩耗への対応が必要です。当社はGF70%の高充填グレードをはじめ難易度の高い成形に対応しており、PEEKについても自社工場の全成形機が樹脂温度380℃以上、金型温度160℃以上の仕様を備え、50〜360トンの範囲で成形実績があります。ゲート・ランナー設計、金型材質、温調、成形条件までを一体で検討し、試作から安定量産までを見据えたPEEK化をご提案します。
PFA・PTFE代替で注目したいPEEK樹脂のグレード選定と代表物性
PEEK樹脂による代替では、グレードごとの物性だけでなく、量産時の材料安定性や供給体制も判断材料になります。
中研股份のPEEK樹脂は、重合からコンパウンドまでを自社で手掛けています。府中プラでは実際に入荷したZYPEEKを用いて、成形性と代表物性の確認を進めており、量産を前提とした材料評価を社内で行える体制を整えています。
ZYPEEKは、非強化、GF30%、CF30%をはじめとするグレードをラインアップしています。非強化グレードは靭性を活かした接液・精密部品、GF30%強化グレードは強度・剛性が必要な構造部品、CF30%強化グレードはさらに高い剛性や摺動特性が求められる部品など、要求特性に応じた選定が可能です。
府中プラは、国内の設計者が抱える課題の把握から、要求仕様の整理、グレード選定の検討、金型設計と成形条件の作り込みまでを、成形メーカーの立場からご支援します。
ZYPEEK 代表物性
| 項目 | 330G 非強化 | 330GL30 GF30% | 330CA30 CF30% |
| 引張強度 | 110MPa | 185MPa | 250MPa |
| 破断伸び | 25% | 2.5% | 1.5% |
| 曲げ強度 | 175MPa | 275MPa | 360MPa |
| 曲げ弾性率 | 4.3GPa | 11.5GPa | 21GPa |
| 融点 | 343℃ | 343℃ | 343℃ |
| HDT(1.8MPa) | 156℃ | 335℃ | 339℃ |
| 密度 | 1.30g/cm³ | 1.52g/cm³ | 1.40g/cm³ |
※上記数値は材料メーカー(中研股份)公表の代表値であり、保証値ではありません。
まとめ
PFA・PTFEからPEEKへの代替は、「フッ素樹脂の代わりになる材料を探す」だけでは進みません。インペラ、ギア、ブッシュ、軸受、バルブ部品、流路部品など、それぞれの役割から耐薬品性、荷重、摺動、寸法精度、温度条件を分解することが出発点です。そのうえでPEEKの強度・剛性・耐クリープ性を活かし、部品形状や金型、射出成形条件まで見直すことで、機器全体ではなく着手できる部品からPFASフリー化を進められます。
府中プラでは、中研股份のZYPEEKを含め、使用環境と要求性能から材料・設計・成形を一体で検討します。現在PFA・PTFEを使用しているポンプ・流体制御部品でPFASフリー化をご検討の際は、部品図面と使用条件をお送りいただけましたら、代替可否の見極めからご相談を承ります。




