技術解説

射出成形部品の着色方法を徹底解説!~製品価値を高める最適な選択とは~

射出成形部品の着色方法を徹底解説!~製品価値を高める最適な選択とは~

私たちの身の回りには、家電製品、自動車部品、日用品、事務用品、医療機器など、射出成形によって作られたプラスチック部品が溢れています。これらの製品の多くは、何らかの色で彩られています。射出成形部品における「着色」は、単に製品を美しく見せるだけでなく、製品の識別性を高めたり、ブランドイメージを表現したり、時には特定の機能(例:光の透過制御、警告色の表示)を付与するなど、非常に重要な役割を担っています。

着色方法の選択は、最終製品の品質、コスト、外観、さらには機能性にも大きな影響を与えます。例えば、色の均一性や再現性、耐候性、耐摩耗性といった品質面、材料費や加工費といったコスト面、そしてデザイナーが意図した通りの色や質感が表現できるかといった外観面など、考慮すべき点は多岐にわたります。本コラムでは、射出成形部品の代表的な着色方法を解説し、それぞれの特徴、メリット・デメリットを比較することで、最適な着色方法を選定するための指針を提示します。

材料着色(内部着色)

材料着色とは、プラスチック樹脂そのものに色材を混ぜ込み、成形と同時に部品を着色する方法です。成形後の塗装などとは異なり、部品の内部まで均一に着色されるため、表面が摩耗しても色が失われる心配が少ないという大きなメリットがあります。主に以下の4つの方法があります。

着色ペレット(着色コンパウンド)

着色ペレットは、樹脂メーカーやコンパウンドメーカーが、ベースとなる樹脂にあらかじめ顔料や染料を均一に練り込んでペレット状にしたものです。「カラーコンパウンド」とも呼ばれます。成形メーカーは、この着色ペレットをそのまま射出成形機に投入するだけで、目的の色の成形品を得ることができます。

特徴とメリット

① 色の均一性・再現性が高い: 専門メーカーが管理された環境で練り込むため、顔料の分散が非常に良好で、色ムラが起きにくく、ロット間の色ブレも少ないのが最大の特長です。常に安定した色品質が求められる製品に適しています。

② 取り扱いが容易: 成形現場での着色剤の計量や混合といった手間が不要で、コンタミネーション(異物混入)のリスクも低減できます。

③ 品質管理の簡素化: 色に関する品質管理は、主に材料メーカー側で行われるため、成形メーカーの負担が軽減されます。

デメリットと注意点

① コスト: ナチュラルペレット(無着色の樹脂)に比べて高価になる傾向があります。特に少量生産の場合、割高感が出やすいです。

② 在庫リスクとMOQ(最小発注数量): 色ごとに専用のペレットが必要となるため、多色展開する製品の場合、各色のペレットを在庫として抱える必要があり、管理コストやスペースの負担が増大します。また、材料メーカーが設定するMOQが比較的大きく、少量生産には不向きな場合があります。近年、このMOQが引き上げられる傾向も見られます。

③ リードタイム: 特注色の場合、色合わせや生産に時間がかかり、リードタイムが長くなることがあります。

マスターバッチ

マスターバッチは、高濃度の顔料や染料を特定の樹脂(キャリア樹脂)に練り込み、ペレット状にしたものです。これを、着色されていないナチュラルペレットと一定の割合(通常1~5%程度)で混合し、射出成形機に投入することで成形品に着色します。

特徴とメリット

コストパフォーマンスが高い: ナチュラルペレットは比較的安価に入手できるため、着色ペレットを使用するよりもトータルコストを抑えられる場合が多く、特に中~大量生産でメリットを発揮します。

② 色の濃淡調整が容易: マスターバッチの添加量を調整することで、色の濃淡をある程度コントロールできます。

③ 在庫管理の効率化: ベースとなるナチュラルペレットは共通で、色の種類だけマスターバッチを在庫すれば良いため、着色ペレットに比べて在庫スペースや管理コストを削減できます。急な色変更にも対応しやすいです。

④ 少量生産・多品種生産に適している: 比較的小ロットから対応可能で、多色展開の製品にも柔軟に対応できます。

⑤ 分散性が高く色ムラが少ない: 高濃度の顔料がキャリア樹脂中に良好に分散されているため、適切に混合すれば色ムラは比較的少ないです。

デメリットと注意点

① 混合の手間と均一性: ナチュラルペレットとマスターバッチを均一に混合する手間が必要です。混合が不十分だと色ムラやスジ(ストリーク)の原因となります。タンブラーミキサーや計量混合機の使用が推奨されます。

② キャリア樹脂との相性: マスターバッチのキャリア樹脂と、ベースとなるナチュラルペレットの樹脂との相溶性が重要です。相性が悪いと、物性低下や外観不良を引き起こす可能性があります。原則として、同種または相溶性の高い樹脂を選定する必要があります。

③ 色ブレのリスク: 混合比率の管理や混合状態によって、わずかな色ブレが生じる可能性があります。

ドライカラー

ドライカラーは、粉末状の顔料や染料そのものです。これをナチュラルペレットに直接ふりかけ、タンブラーミキサーなどで混合(ドライブレンド)して着色します。

特徴とメリット

① コストが最も安い: 着色剤の中では最も安価であり、コスト削減効果が大きいです。

② 少量からの着色が可能: 必要な量だけを都度混合できるため、極少量の試作などにも対応しやすいです。

デメリットと注意点

① 粉の飛散と作業環境: 粉末であるため、取り扱い時に飛散しやすく、作業環境を汚染しやすいです。作業者の健康への配慮や、集塵設備の導入が必要となる場合があります。

② 色残りによる清掃の手間が大きい: 成形機や混合機に粉末が付着しやすく、色替え(段取り替え)の際には入念な清掃が必要です。清掃が不十分だと、次の成形品に前の色が混入するコンタミネーションのリスクが高まります。

③ 色ムラ・色ブレのリスク: 粉末をペレット表面に均一に付着させ、成形機内で均一に溶融・分散させるのが難しく、色ムラやスジが発生しやすい傾向があります。静電気による付着ムラも問題となることがあります。

④ 色調管理の難しさ 安定した色調を得るには、作業者の熟練度や厳密な管理が求められます。

リキッドカラー

リキッドカラーは、液体状のキャリアに顔料や染料を高濃度に分散させた着色剤です。専用のポンプや供給装置を使用し、成形機のホッパー手前や可塑化シリンダーに直接注入してナチュラルペレットと混合・着色します。

特徴とメリット

① コストが安い: ドライカラーに次いで安価な場合が多く、マスターバッチよりもコストメリットが出ることがあります。

② 少量からの色調整が可能: 供給量を精密に制御することで、色の濃淡調整が容易です。

③ 分散性が良い場合がある: 液体であるため、成形機内での分散性が比較的良好で、色ムラが少ないとされる場合があります。

④ 色替えが比較的容易: 密閉系で供給されるため、ドライカラーに比べて飛散が少なく、色替え時の清掃も比較的容易な場合があります(ただし、装置内の洗浄は必要)。

デメリットと注意点

① 専用設備が必要: 精密な供給ポンプや攪拌装置など、専用の設備投資が必要です。

② 清掃の手間: 装置やチューブ内に液体が残りやすく、色替え時の清掃には手間と時間がかかります。洗浄液が必要な場合もあります。

③ 取り扱いの難しさ: 液体の粘度管理や、漏れ・汚染のリスクがあります。

④ キャリアとの相性: 液状キャリアとベース樹脂との相性によっては、物性低下やガス発生、シルバーストリークなどの成形不良を引き起こす可能性があります。

外部着色(成形後の表面処理)

外部着色は、無着色または淡色の樹脂で成形した部品の表面に、後から色を付けたり加飾したりする方法です。材料内部着色では難しい多彩な表現や、特定の機能を付与することが可能です。

塗装

成形品が完成した後、その表面にスプレーガンやディッピング(浸漬)、ハケ塗りなどで塗料を塗布する方法です。

特徴とメリット

① 多彩な色や質感の表現が可能: ソリッドカラーはもちろん、メタリック、パール、蛍光色、マット調、光沢調、さらには触感塗料(ソフトフィール)など、非常に幅広い色と質感を表現できます。

② 小ロットやデザイン変更への柔軟性が高い: 成形品自体は共通で、塗装色を変えるだけでバリエーション展開が可能です。試作品や限定品など、小ロット生産にも向いています。

③ 部分的な着色やマスキングも可能: 特定の部分だけを着色したり、複数の色を塗り分けたりすることもできます。

④ 機能性付与: 耐摩耗性向上、耐薬品性向上、UVカット、導電性付与など、特定の機能を持つ塗料を選択することも可能です。

デメリットと注意点

⓵ コスト増: 成形工程に加えて塗装工程が増えるため、材料費、設備費、人件費がかさみ、トータルコストは高くなります。

② 塗装剥がれ・傷のリスク: 使用状況や経年変化により、塗膜が剥がれたり、傷がついたりする可能性があります。密着性を高めるための下地処理(プライマー塗布など)が重要です。

③ 環境対応: 塗料に含まれるVOC(揮発性有機化合物)の排出規制や、作業者の健康への配慮が必要です。水性塗料や粉体塗装など、環境負荷の低い塗料への移行も進んでいます。

④ リードタイムの増加: 塗装工程および乾燥工程が必要なため、生産リードタイムが長くなります。

印刷

成形品の表面に、文字、記号、ロゴ、模様などを印刷する方法です。製品への情報表示や意匠性向上に用いられます。

主な印刷方式

⓵ シルクスクリーン印刷: 版にインクを乗せ、スキージで押し出して印刷。曲面への対応は限定的だが、インク膜厚を厚くでき、隠蔽性や耐久性に優れる。

② パッド印刷: シリコンパッドにインクを転写し、スタンプのように対象物に押し付けて印刷。凹凸面や曲面にも比較的対応しやすい。

③ インクジェット印刷: 微細なインク滴を直接吹き付けて印刷。版が不要で、多色フルカラー印刷や小ロット、オンデマンド生産に適している。曲面追従性は向上しているが限界もある。

④ ホットスタンプ(箔押し): 色や金属光沢のある箔を熱と圧力で転写。高級感のある表現が可能。

⑤ レーザーマーキング: レーザー光を照射し、樹脂表面を改質・変色・彫刻することでマーキング。インク不要で耐久性が高い。

特徴とメリット

⓵ デザイン性向上: 製品の付加価値を高める意匠を施すことができます。

② 情報表示: 製品名、型番、操作説明、警告表示など、必要な情報を明確に表示できます。

デメリットと注意点

① 耐久性: 印刷の種類やインク、使用環境によっては、摩擦や薬品で剥がれたり薄れたりする可能性があります。オーバーコートで保護する場合もあります。

② コスト: 版代(シルク、パッド、ホットスタンプ)、設備費、工程増によりコストがかかります。

③ 形状の制約: 印刷方式によって、対応できる形状に制約があります。

3. 着色方法の選択指針

ここまで見てきたように、各着色方法には一長一短があります。製品に最適な着色方法を選ぶためには、様々な要素を総合的に比較検討する必要があります。以下の表は、各方法の主な特徴をまとめたものです。

着色方法主な特徴コスト色の均一性小ロット対応段取り替えその他特記事項
着色ペレット色安定性◎、色ムラ少、在庫リスク・MOQ注意大量生産、色品質最優先
マスターバッチ分散性高、コスパ良、色の濃淡調整可中~大量生産、多色展開、コストと品質のバランス
ドライカラー安価、粉末飛散・清掃手間大、色ムラ・環境注意△~○コスト最優先、作業環境管理が重要
リキッドカラー安価、専用設備・清掃手間、色調整可コスト重視、設備投資と運用ノウハウが必要
塗装多彩な色・質感、部分着色可、剥がれ・環境注意かなり高デザイン性重視、小ロット多品種、機能性付与
印刷文字・模様付与、情報表示、方式多様、耐久性注意○~◎製品への情報付加、意匠性向上

(記号:◎ 非常に良い/容易、○ 良い/比較的容易、△ 注意が必要/やや手間、― 評価対象外)

この表はあくまで一般的な傾向を示すものであり、具体的な樹脂の種類、顔料の種類、生産量、要求品質、利用可能な設備などによって、最適な選択は変わってきます。

まとめ・選択時のポイント

射出成形部品の着色方法を選定する際には、以下のポイントを総合的に考慮することが重要です。

⓵ 製品の用途と要求品質

– どのような環境で使用されるか?(屋内/屋外、温度、湿度、紫外線量など)

– 求められる色の精度、均一性、再現性はどの程度か?

– 耐候性、耐摩耗性、耐薬品性などの耐久性は必要か?

② 外観・デザイン

– どのような色調、質感が求められるか?(ソリッド、メタリック、パール、透明性など)

– 特定の部分のみに着色が必要か? 文字やロゴを入れる必要があるか?

③ コスト

– 材料費、加工費、設備費、人件費など、トータルコストでどこまで許容できるか?

– 初期費用(金型、版代、色合わせ費用など)とランニングコストのバランスは?

④ 生産ロット規模と生産形態

– 試作段階か、少量生産か、大量生産か?

– 多品種少量生産か、少品種大量生産か?

– リードタイムの制約は?

⑤ 色数と色替えの頻度

– 製品ラインナップとして何色必要か?

– 頻繁に色替えを行う必要があるか? その際の清掃の手間やコストは?

⑥ 環境対応・安全性

– 使用する顔料や溶剤、添加剤は、各種法規制(RoHS指令、REACH規則、食品衛生法など)に適合しているか?

– VOC排出量や廃棄物処理など、環境負荷はどの程度か? 作業者の安全は確保できるか?

一般的に、材料内部着色は、部品全体を均一に着色でき、色剥がれの心配がないため、耐久性が求められる製品や大量生産品、色安定性を重視する場合に適しています。中でも、着色ペレットは最も手軽で高品質ですがコストとMOQが課題となる場合があり、マスターバッチはコストと品質、柔軟性のバランスが良い選択肢と言えます。ドライカラーやリキッドカラーはコストメリットが大きいものの、管理や設備に注意が必要です。

一方、外部着色は、材料内部着色では表現が難しい多彩な色や質感、特定の機能を付加したい場合や、小ロット多品種生産、後加工でデザイン性を高めたい場合に有効です。塗装や印刷など、それぞれ得意とする表現や特性が異なります。

最終的には、これらの要素を総合的に評価し、各着色方法のメリット・デメリットを深く理解した上で、製品コンセプトや事業戦略に最も合致する方法を選定することが、製品価値を最大化する鍵となります。迷った場合は、材料メーカー、成形メーカー、塗装・印刷などの加工業者といった専門家とよく相談し、試作や評価を通じて最適な解を見つけ出すことが重要です。

特に材料内部着色の中でも、コストやMOQ(最小発注数量)の観点から「マスターバッチ」の活用が近年ますます注目されています。これについては、改めて詳しくご紹介する予定です。本コラムが、皆様の製品開発における最適な着色方法の選定の一助となれば幸いです。

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