技術解説

射出成形部品設計者のための金型完全解説(第5回):これが金型づくりの舞台裏~種類と製作フロー徹底解説~ 

射出成形部品設計者のための金型完全解説(第5回):これが金型づくりの舞台裏~種類と製作フロー徹底解説~ 

「射出成形部品設計者のための金型完全解説」シリーズも、いよいよ最終回を迎えました。これまでの回では、金型の全体像から始まり、製品設計における金型視点の重要性、具体的な形状設計のポイント、そして金型の基本構造や流路システムについて解説してきました。製品の品質、コスト、生産性を左右する金型への理解を深めていただけたことと思います。 
シリーズ最終回となるこの第5回では、射出成形金型がいかに多様であるかを示す様々な金型の種類とその特徴、そして、設計図面から実際の金型がどのようにして作り上げられていくのか、その一般的な製作プロセスについて解説します。これにより、設計者の皆様が金型という「ものづくり」の現場をより具体的にイメージし、日々の業務に活かしていただけることを目指します。 

様々な金型の種類とその特徴 

射出成形金型は、生産する製品の形状、数量、機能、そして使用する成形方法などに応じて、実に多種多様なものが存在します。ここでは、代表的な金型の種類とその特徴について見ていきましょう。 

単発型と複数個取り型(マルチキャビティ型):生産性と金型設計のポイント 

金型は、1回の成形サイクルで生産できる製品の個数によって分類されます。 
「単発型(シングルキャビティ型)」は、その名の通り、1回の成形で1つの製品を作り出す金型です。主に、試作品の製作や、生産量が比較的少ない製品、あるいは製品サイズが非常に大きく、1つの金型に1つしか製品形状を配置できないような大型の製品などに用いられます。金型構造が比較的シンプルであるため、金型製作コストも抑えやすく、開発期間も短縮しやすいというメリットがあります。 

一方、「複数個取り型(マルチキャビティ型)」は、1回の成形で複数の製品を同時に作り出すことができる金型です。同じ製品を複数個取る場合もあれば、例えば左右一対の部品のように、組み立てることで一つのユニットになる異なる種類の製品を同時に取る場合(このような金型を「ファミリーモールド」と呼ぶこともあります)もあります。複数個取り型の最大のメリットは、量産性に優れ、製品一個あたりの生産コストを大幅に低減できる点です。しかしながら、金型構造は単発型に比べて複雑になり、キャビティの数が増えるほど金型サイズも大きくなり、製作コストも高くなる傾向があります。また、設計上の重要なポイントとして、各キャビティへ均等に溶融樹脂を充填させるためのランナーバランスの精密な調整や、各キャビティの冷却効率を均一に保つための冷却回路設計がより高度に求められます。これらのバランスが悪いと、キャビティ間で製品の品質にばらつきが生じる原因となります。 

どちらの型を選ぶかは、総生産予定数量、製品の価格、納期、そして初期投資可能な金型コストなどを総合的に判断して決定されます。 

インサート金型:異材一体成形の技術と金型構造の概要 

「インサート金型」は、プラスチック以外の異種材料部品(例えば、金属製のネジ、ナット、端子、シャフト、あるいはセラミック部品など)をあらかじめ金型内の特定の位置にセットし、その周囲に溶融プラスチックを射出充填することで、異種材料部品とプラスチックを一体化させる成形方法(インサート成形)に用いられる金型です。 
この金型の特徴は、インサート部品を正確な位置に、かつ射出圧力で動かないように確実に保持するための機構(例えば、位置決めピン、マグネット、あるいはロボットによる供給・保持機構など)が必要となる点です。また、インサート部品と溶融樹脂の密着性を高めるための工夫や、インサート部品が射出時の熱や圧力で変形しないような配慮も求められます。インサート成形により、製品に新たな機能(例えば、電気的接続性、機械的強度向上、ネジ締結機能など)を付与したり、組み立て工程を削減したりすることが可能になります。設計者は、インサート部品の形状や材質、そして金型内での保持方法などを考慮して製品設計を行う必要があります。 

多色成形金型(二色成形など):概要と特徴 

「多色成形金型(一般的には二色成形金型や三色成形金型などがあります)」は、異なる色や異なる材質のプラスチックを、一つの製品として一体的に成形するための特殊な金型です。この成形方法(多色成形、または二色成形)は、主に専用の多色成形機と組み合わせて使用されます。 
代表的な二色成形では、まず1次側の金型で第一の樹脂(または色)を成形し、その後、金型の一部(多くはコア側)を回転またはスライドさせるなどして1次成形品を2次側のキャビティへ移動させ、そこで第二の樹脂(または色)を射出充填し一体化させます。これにより、例えば硬質樹脂と軟質樹脂を組み合わせることでグリップ感を向上させたり、透明樹脂と不透明樹脂を組み合わせて意匠性を高めたり、あるいはキーボードのキーキャップのように摩耗しても文字が消えない製品を作ることが可能になります。 
多色成形金型は、複数のキャビティ・コアセットや、それらを精密に移動・位置決めするための機構を持つため、構造が非常に複雑で、高い設計技術と製作精度が要求され、金型コストも高価になります。製品設計においては、異なる樹脂同士の相性(接着性)や、各色の境界線のデザインなどを考慮する必要があります。 

加飾金型(IMD/IMLなど):概要と特徴 

「加飾金型」は、射出成形と同時に製品表面に模様や文字、絵柄、あるいは特定の質感などを付与する「成形同時加飾技術」に用いられる金型です。これにより、塗装や印刷、ラベル貼りといった成形後の二次加工工程を削減し、生産効率の向上とコストダウン、さらにはより高度な意匠性の実現が可能になります。 
代表的な成形同時加飾技術とそれに用いられる金型には、以下のようなものがあります。 
「IMD(インモールドデコレーション)」は、絵柄や模様が印刷された特殊なフィルムを金型内に送り込み、射出成形時の樹脂の熱と圧力によってフィルム上のインキ層を製品表面に転写させる技術です。主に、比較的浅い曲面や平面部分への加飾に適しています。 
「IML(インモールドラベリング)」は、あらかじめ印刷されたラベル状のフィルムを金型キャビティ面に挿入し、そこに樹脂を射出することでフィルムと製品を一体化させる技術です。ラベルは製品と強固に密着するため、剥がれにくく耐久性に優れており、容器や家電製品の外装などに広く用いられています。 
これらの加飾金型では、フィルムやラベルを正確に位置決めして保持する機構や、フィルムのシワや破れを防ぐための工夫、そしてフィルムと樹脂の密着性を高めるための金型設計上の配慮が必要となります。 

金型製作の一般的な流れ 

金型は、製品図面という二次元または三次元の情報から、実際に手に取れる立体的な製品を生み出すための精密な道具です。その製作には、多くの工程と高度な技術が必要とされます。ここでは、金型が設計されてから実際に試作成形が行われるまでの一般的な流れを解説します。 

金型設計からトライまでの主要工程(材料手配、加工、組立、調整など) 

金型製作のプロセスは、大きく分けて以下のステップで進められます。 

① 金型設計 
まず、製品図面(3Dモデルデータや2D図面)、成形材料の仕様、目標とする生産数量、要求される品質基準などに基づいて、金型の詳細な設計が行われます。この段階で、金型の構造(2プレートか3プレートかなど)、パーティングラインの位置、ゲート方式、ランナーレイアウト、冷却回路の配置、突き出し方法、そして必要であればスライドコアなどの特殊機構の設計などが決定されます。近年では、3D CADを用いた設計が主流であり、CAE(Computer Aided Engineering)による樹脂流動解析や冷却解析、構造解析などを活用して、設計段階での問題点の洗い出しや最適化が行われることも一般的です。 

② 材料手配 
金型設計が完了すると、その設計に基づいて金型に使用する鋼材や部品が手配されます。金型の主要部分(キャビティやコアなど)には、耐摩耗性、靭性、加工性、鏡面性などに優れた特殊な鋼材(例えば、プリハードン鋼、焼入れ鋼、ステンレス鋼など)が選定されます。モールドベースと呼ばれる金型の骨格部分には、標準化された規格品が用いられることもあります。 

③ 機械加工 
手配された鋼材は、設計図面に従って様々な工作機械を用いて精密に加工されます。主な加工方法としては、材料を回転工具で削り出す「切削加工(マシニングセンタ、NCフライス盤など)」、電極と被加工物の間で放電を起こして金属を除去する「放電加工(形彫り放電加工機、ワイヤ放電加工機など)」、砥石を用いて高精度な仕上げを行う「研削加工」などがあります。これらの加工は、ミクロン単位(1/1000 mm)の精度が要求される非常に精密な作業です。 

④ 研磨・仕上げ 
機械加工された金型部品、特に製品の形状を直接転写するキャビティやコアの表面は、要求される表面粗さや光沢度に応じて、手作業や専用の機械による研磨・仕上げが行われます。鏡のような高い光沢(鏡面仕上げ)や、均一な梨地模様(シボ加工)など、製品の外観品質を決定づける重要な工程です。 

⑤ 組立・調整 
加工・仕上げされた多数の金型部品が、設計図通りに正確に組み付けられます。各部品の嵌め合いや摺動部のクリアランス調整、スライドコアやエジェクタピンといった可動部分のスムーズな動作確認、そして金型が閉じた際のパーティングラインの密着性(「当たり」とも言います)の確認など、細部にわたる調整が行われます。 

⑥ トライ(試作成形) 
完成した金型は、実際の射出成形機に取り付けられ、試作成形(トライショット)が行われます。まず、標準的な成形条件(樹脂温度、射出圧力、保圧、冷却時間など)で成形を行い、得られた成形品を詳細に測定・評価します。寸法精度、外観品質(ヒケ、ソリ、バリ、ウェルドラインなど)、充填状態などを確認し、もし問題があれば、金型の修正(例えば、部分的な切削や溶接による肉盛り修正など)や、成形条件の再調整を行います。このトライと修正を繰り返し、量産可能な品質の製品が得られる状態へと金型を仕上げていきます。 

金型材料の選定に関する基本的な考え方 

金型に使用される材料、特に製品形状を形成するキャビティやコアの材料選定は、金型の性能、寿命、そしてコストに大きな影響を与えます。選定にあたっては、以下のような点を総合的に考慮します。 

① 機械的性質 

硬さ(耐摩耗性)、靭性(割れにくさ)、耐食性(錆びにくさ)などが重要です。例えば、ガラス繊維入りのような摩耗性の高い樹脂を成形する場合や、長期間の使用が想定される場合には、より硬度が高く耐摩耗性に優れた鋼材(焼入れ鋼など)が選ばれます。 

② 加工性 

金型材料が、切削加工や放電加工といった機械加工を行いやすいかどうかも重要な要素です。加工性が良い材料は、金型製作期間の短縮やコストダウンに繋がります。 

③ 熱処理特性 

焼入れ・焼戻しといった熱処理によって所望の硬さや靭性を得られるか、また熱処理による寸法変化が少ないかなども考慮されます。 

④ 表面処理との適合性 

窒化処理や各種コーティングといった表面処理を施す場合、その処理との相性が良い材料を選ぶ必要があります。 

⑤ 鏡面性・シボ加工性 

製品に高い光沢が求められる場合は鏡面仕上げ性に優れた材料、シボ模様を施す場合はシボ加工性に適した材料が選ばれます。 

⑥ コスト 

高性能な材料は一般的に高価になるため、金型の要求仕様とコストのバランスを考慮して選定されます。 

一般的には、生産数量が少ない試作用金型や少量生産用金型には、比較的安価で加工性の良いプリハードン鋼やアルミニウム合金などが用いられることがあります。一方、大量生産用金型や高い耐久性が求められる金型には、焼入れ鋼や特殊ステンレス鋼などが使用されます。 

金型製作における主要な加工技術の概要 

前述の通り、金型製作には様々な精密加工技術が用いられますが、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。 

① 切削加工 

マシニングセンタやNCフライス盤といったコンピュータ制御の工作機械を用いて、ドリルやエンドミルといった回転工具で金属材料を削り取り、目的の形状を作り出す加工方法です。3次元の複雑な形状も高精度に加工できます。 

② 放電加工 

電極と被加工物との間にパルス的な放電を発生させ、その熱エネルギーで金属を溶融・除去する加工方法です。非常に硬い材料や、切削加工では難しい微細で複雑な形状(例えば、細いリブやシャープな角など)の加工に適しています。電極の形状を転写する「形彫り放電加工」と、ワイヤ状の電極で糸鋸のように切り抜く「ワイヤ放電加工」があります。 

③ 研削加工 

高速回転する砥石(といし)を用いて、被加工物の表面をわずかずつ削り取り、高い寸法精度と滑らかな表面を得る加工方法です。主に、焼入れ後の硬い材料の仕上げ加工や、平面度・平行度といった幾何公差が厳しい部分の加工に用いられます。 

④ レーザー加工 

高エネルギーのレーザー光を照射し、材料を溶融・蒸発させることで切断やマーキング、微細な表面処理などを行う加工技術です。近年では、金属粉末をレーザーで溶融・積層して三次元形状を作り上げる金属3Dプリンター(積層造形)も、金型部品の一部製作や補修などに活用され始めています。 

これらの加工技術が、金型設計者の意図を具現化し、精密な金型部品を生み出しています。 

まとめ(第5回) 

「射出成形部品設計者のための金型完全解説」シリーズは、今回をもって終了となります。第5回では、多種多様な金型の種類とその特徴、そして金型が設計図から実際の形になるまでの製作プロセスについて解説しました。 
本シリーズを通じて、射出成形部品の設計に携わる皆様が、金型という存在をより身近に感じ、その重要性や奥深さの一端に触れることができたのであれば幸いです。金型は、製品の品質、コスト、生産性を左右するだけでなく、ものづくりの可能性を広げるための重要な鍵でもあります。ここで得た知識が、皆様の今後の設計業務において、より良い製品開発、そして金型メーカーとのより円滑なコミュニケーションに繋がり、創造的なアイデアの実現に役立つことを心より願っております。 

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