技術解説

射出成形部品の試作で失敗しない!簡易金型・量産型の使い分け実践ガイド

射出成形部品の試作で失敗しない!簡易金型・量産型の使い分け実践ガイド

エンプラ部品の設計において、「試作」を単なる形状確認の工程だと捉えていませんか?試作は、最終製品の成否を左右する極めて重要な開発工程です。寸法精度、嵌合性、耐久性といった、設計者が本当に検証したい目的によって、最適な試作手段は自ずと異なります。

本コラムでは、射出成形部品の試作の代表的な選択肢である「簡易金型」と「量産型」を取り上げ、それぞれの意義と、目的別の正しい使い分けについて、成形のプロの視点から解説します。 

なぜエンプラ部品には“試作”が欠かせないのか 

金属や切削加工品と異なり、エンプラの射出成形品には、その製造プロセスに起因する特有の課題が存在します。これらは3D-CADの画面上や図面上では決して可視化されず、実際に成形品を手に取って初めて明らかになる現象ばかりです。 

量産成功を左右するエンプラ特有の現象 

エンプラは、加熱して溶融させた樹脂を金型に射出し、冷却・固化させて製品形状を得ます。この一連のプロセスにおいて、以下のような現象が必ず発生し、製品の品質に大きな影響を与えます。 

収縮・反り 

溶融した樹脂が冷え固まる際に体積が収縮するのは避けられません。この収縮率が製品の肉厚や形状によって不均一になることで、意図しない「反り」が発生します。 

ガス発生 

樹脂が加熱される際に発生するガスや、金型キャビティ内に元々存在する空気が、成形時に圧縮されます。このガスを適切に排出できないと、ショートショット(充填不足)やガス焼けといった不良の原因となります。 

流動性 

複雑な形状や薄肉の製品では、樹脂が金型の隅々まで行き渡るかが課題となります。流動性が悪いと、ウェルドラインが目立ったり、強度不足を引き起こしたりします。 

これらの現象は、使用するエンプラの種類(結晶性/非晶性、フィラーの有無など)や製品設計、金型設計、成形条件が複雑に絡み合って発生します。量産を成功させるためには、試作段階でこれらの現象を実際に確認し、対策を講じておくことが不可欠なのです。 

実物でしか検証できない性能評価 

さらに、部品が製品として機能するために求められる性能評価も、試作の重要な目的です。 

組付け精度 

複数の部品を組み合わせるアッセンブリ品において、嵌合の感触や勘合力、組み付け後のガタつきなどは、実物でなければ評価できません。 

耐熱性・耐薬品性 

高温環境下での変形や、特定の薬品に接触した際の膨潤・クラックの有無などは、実際の製品形状で、実際の使用環境を模擬した試験を行って初めて確認できる評価ポイントです。 

机上の計算やシミュレーション技術がどれだけ進化しても、こうした物理的な現象や化学的な変化を100%予測することは困難です。実際の成形品で初めて、設計の妥当性を真に検証できるのです。 

簡易金型による試作のメリットと注意点 

開発の初期段階で有効な選択肢となるのが「簡易金型」による試作です。その名の通り、量産金型に比べて構造を簡略化した金型で、主にアルミ合金などで製作されます。 

コストを抑え、スピーディな評価サイクルを実現 

簡易金型の最大のメリットは、コストとスピードにあります。鋼材で作られる量産金型に比べ、切削加工性に優れるアルミなどを使用するため、金型製作費を大幅に抑制できます。また、製作期間も短縮できるため、開発を迅速に進められます。 

再現性に存在する限界 

一方で、簡易金型には明確な注意点が存在します。それは、量産品との完全な同等性は担保できないという点です。その理由は、量産金型との材質や構造の違いに起因します。 

アルミと鋼材では熱伝導率が異なります。これにより、金型内の樹脂の冷却速度が変わり、結果として製品の収縮率や反りの出方が量産品と異なる場合があります。 

コストダウンのために冷却回路やガスベントが簡素化されていることが多く、量産金型と同じ成形条件(射出圧力・速度、保圧など)を再現できないケースがあります。 

このため、簡易金型で「寸法精度が公差内に入った」「反りがなかった」としても、それが量産で保証されるわけではありません。寸法や反り、ヒケといった、成形条件に大きく左右される項目の厳密な評価には不向きです。 

当社としては、簡易金型は「初期段階における形状や外観の確認、基本的な成立性の検証」といった目的に限定すれば、非常に有用な手段であると考えています。目的を理解し、割り切って使うことが重要です。 

量産型による試作の価値 ― 本番を見据えた真の検証 

開発がある程度進み、設計の確度が高まってきた段階で真価を発揮するのが、「量産型」を用いた試作です。これは、実際に量産で使用する金型そのものを使って試作成形を行うことを指します。 

量産品と限りなく同等レベルでの検証 

量産型試作の最大の価値は、その信頼性の高さにあります。量産と同じ鋼材、同じ冷却回路、同じ製品構造を持つ金型を使用し、量産で想定される成形条件で試作を行うため、得られる成形品は寸法精度、品質の安定性、機械的強度、表面の質感に至るまで、市場に投入される製品と限りなく近いレベルにあります。厳しい公差が求められる精密機構部品、リークが許されない流体関連部品の様な高い信頼性が求められる部品においては、量産型による試作が最適な選択、あるいは唯一の選択肢となります。 

これらの部品では、コンマミリ単位の寸法精度や、材料が持つ本来の性能(耐熱性、耐薬品性、強度など)が完全に発揮されているかを、量産と同じ条件で検証する必要があります。 

開発資産となる金型修正の蓄積 

試作段階で見つかった僅かな反りやヒケに対し、金型を部分的に切削・溶接して修正を加えていくプロセスは、量産金型の完成度を高めるための貴重なステップです。このトライ&エラーの蓄積は、そのまま量産時の品質安定性に直結します。試作で問題を出し切り、金型を成熟させていく。このプロセスそのものが、製品の品質を作り込む活動なのです。 

結果としてトータルコストとリードタイムを短縮する選択 

初期投資は簡易金型に比べて高額になります。しかし、「簡易金型で試作→問題発覚→設計変更→量産金型製作→再度問題発覚→金型修正」という手戻りのループに陥るリスクを考えれば、最初から量産型で試作を行う方が、結果的にトータルコストを下げ、開発リードタイムを短縮するケースは少なくありません。まさに「急がば回れ」のアプローチと言えるでしょう。 

どちらを選ぶべきか?判断基準と設計者への提言 

ここまで簡易金型と量産型、それぞれの特徴を解説してきましたが、重要なのは、これらを「簡易金型 vs 量産型」という対立構造で捉えないことです。両者はどちらが優れているというものではなく、製品開発のフェーズや目的、評価したい内容に応じて戦略的に使い分けるべきものです。では、設計者の皆様は、具体的にどのような基準で判断すればよいのでしょうか。ここでは、判断の拠り所となるいくつかの観点を整理します。 

判断基準の整理 

① 評価したい項目で選ぶ 

  • 簡易金型が適する場合 

    製品の全体的な形状、デザインの確認 

    基本的な嵌合の可否、干渉チェック 

    展示会用のモックアップ製作 

  • 量産型が適する場合 

    μm(マイクロメートル)単位の寸法精度、幾何公差の検証 

    材料が持つ本来の機械的強度、耐久性の厳密な評価 

    耐熱性、耐薬品性、耐候性などの長期信頼性試験 

    量産時の成形サイクルや品質の安定性(ばらつき)の確認 

② 製品の要求仕様で選ぶ 

  • 簡易金型が適する場合 

    雑貨、一般家電の外観カバーなど、比較的公差が緩やかな部品 

  • 量産型が適する場合 

    精密な動作が求められる機構部品(歯車、軸受など) 

    高い信頼性が要求される医療機器、流体制御関連の部品 

    ガラス繊維などで強化されたエンプラで、反りの管理が非常にシビアな部品 

③ 開発フェーズで選ぶ 

  • 構想・設計の初期段階 → 複数案の比較検討や、そもそもその形状が成立するかの確認には簡易金型が有効です。 
  • 設計FIX後、量産移行前の最終検証 → 量産品質を保証するための最終確認として量産型での試作が不可欠です。 

設計者の皆様への提言:『何を知りたいか』を明確に 

様々な判断基準を挙げましたが、最も重要なことは、設計者である皆様ご自身が「この試作を通じて、どのような情報を得たいのか」を明確にすることに尽きます。 

例えば、「新製品のケース部品が、相手部品と干渉なく組み付くかを知りたい」という目的であれば、簡易金型で十分かもしれません。しかし、「その嵌合部が、1万回の着脱に耐える強度を持つかを知りたい」のであれば、量産品と同等の物性を持つ量産型試作品で評価する必要があります。 

試作を依頼される際に、ぜひこの「知りたいこと」を具体的にリストにしてみてください。当社のような成形のプロフェッショナルは、そのリストを拝見することで、材料の特性、成形性、金型構造に関する知見を総動員し、「その目的ならば、簡易金型で十分ですが、こちらの冷却は工夫しましょう」「その精度を出すためには、量産型での作り込みが必須です」といった、最適な試作方法をご提案できます。 

試作の価値を最大化する鍵は、設計者と成形メーカーとの間の、目的意識の共有にあるのです。 

試作で終わらせない ― 量産を見据えた一貫支援の重要性 

試作品が完成し、評価を終えたら、それで終わりではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。試作で得られた知見をいかにして安定した量産につなげるか。ここに、成形メーカーが初期段階から関与する大きな価値があります。 

量産トラブルを未然に防ぐ対策 

設計データをお預かりし、ただ言われた通りに試作品を製作する。これでは成形メーカーの価値は半減してしまいます。理想的なのは、試作の段階から当社のような成形メーカーがパートナーとして開発に参加し、量産を見据えた視点から設計をレビューすることです。 

例えば、設計者の方が意図したリブ形状が、エンプラ成形においては深刻な「ヒケ」の原因になるかもしれません。あるいは、美しいデザインを実現するためのシャープなエッジが、金型からの離型性を著しく悪化させるかもしれません。私たちは、こうした量産時の潜在的なリスクを試作段階で指摘し、「ヒケを抑えるために肉厚をこう変更しませんか」「抜き勾配をここに付け加えさせてください」といった具体的な改善提案を行います。 

このような開発初期段階での問題点の洗い出しと対策は、後工程での大幅な金型修正や、量産開始後のトラブル発生といった致命的なリスクを未然に防ぎ、結果的に開発全体の効率を飛躍的に高めます。 

試作の失敗は「生きたノウハウ」になる 

試作では、バリ、反り、ウェルドライン、ガス焼けといった、様々な不良現象に直面することがあります。しかし、これらは決して「失敗」ではありません。むしろ、その製品を安定して生産するための「生きたノウハウの宝庫」です。 

「なぜこの箇所にバリが出たのか?」「どの成形条件を変更すれば反りが改善したのか?」「金型のどこを修正すればガス焼けが消えるのか?」 
こうした課題への対応履歴一つひとつが、その製品固有の製造ノウハウとして蓄積されます。このノウハウこそが、量産段階における品質の安定化や、万が一トラブルが発生した際の迅速な原因究明に不可欠な資産となるのです。 

当社は「試作はゴールではなく、安定した量産に向けたスタートラインである」と捉えています。試作で得た知見を余すことなく量産用の金型設計や成形条件の最適化、さらには品質保証体制の構築にまで反映させる。この一気通貫の支援体制こそが、お客様に真の価値を提供できると確信しています。設計者の皆様には、試作方法の選択という初期の意思決定が、製品寿命や品質保証、ひいては企業のコスト競争力にまで影響を及ぼすという事実を、ぜひ知っておいていただきたいのです。 

まとめ 

エンプラ部品の試作は「作って終わり」ではなく、設計を検証し、量産を成功に導くための重要なプロセスです。 

成功の鍵は、「どの方法が良いか」ではなく「何を検証したいか」という目的を明確にすることにあります。形状確認が目的なら簡易金型、精度や強度の保証が目的なら量産型、というように目的起点で手段を選べば、開発の質とスピードは飛躍的に向上します。 

当社は、お客様の目的に応じて最適な試作プランをご提案できるパートナーです。材料選定から金型設計、そして量産まで、一貫して貴社のものづくりを支援します。試作を検討される際、ぜひ当社にお声がけください。 

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