技術解説

ソリ(反り)を防ぐには?設計・成形・材料から考える射出成形ソリ対策の実務ポイント

ソリ(反り)を防ぐには?設計・成形・材料から考える射出成形ソリ対策の実務ポイント
「ソリ」解説シリーズ第2回

射出成形における「ソリ」は、後工程での嵌合不良や、市場に出た後でのクレームに直結しかねない重大なトラブルです。この問題を未然に防ぐためには、単一の対策に頼るのではなく、「製品設計」「金型設計」「成形条件」「材料選定」という、ものづくりに関わる全ての段階からの複合的なアプローチが不可欠となります。府中プラは、これらの要因を総合的に最適化することこそが、ソリ対策の王道であると考えます。本コラムでは、それぞれの段階で実践できる具体的な対策ポイントを、実務的な観点から解説します。 

ソリ対策の基本的な考え方 

ソリ対策に取り組む上で、まず認識すべきは、その目標設定です。特にガラス繊維入り樹脂や結晶性樹脂を用いる場合、ソリの発生を完全にゼロにすることは物理的に極めて困難です。そのため、府中プラでは「ソリを完全に防ぐ」ことよりも、「製品機能や組み立てに影響を及ぼさない許容範囲内に抑制する」ことを現実的な目標と考えます。
ソリの原因は、前述の通り多岐にわたります。したがって、ある一つの対策だけで解決しようとすると、他の特性を犠牲にしたり、新たな問題を引き起こしたりする可能性があります。原因に応じて、複数の対策をバランス良く組み合わせる多面的なアプローチこそが、効果的なソリ対策の基本姿勢となります。

成形条件の最適化による対策 

成形現場で調整可能な成形条件の最適化は、ソリ対策において最も直接的な手段の一つです。 

充填速度の調整 

溶融樹脂を金型に充填する速度は、分子やガラス繊維の配向に大きく影響します。充填速度が速すぎると、流れ方向への配向が強まり、異方性収縮によるソリを助長します。対策としては、過度な流動配向を抑制するため、可能な範囲で充填速度を遅く設定することが有効です。ただし、速度を落としすぎるとショートショットやウェルドラインの強度低下につながるため、バランスの見極めが重要です。 

保圧時間と圧力の最適化 

保圧工程は、金型内で冷え固まる際の樹脂の体積収縮を、後から樹脂を補填することで補う重要な工程です。保圧の圧力が不足していたり、時間が短すぎたりすると、収縮を十分に補いきれず、ヒケやソリの原因となります。特に肉厚部と薄肉部の収縮差を均一化するため、ゲートが固化するまで適切に圧力を加え続けることが変形抑制につながります。 

冷却時間の確保 

金型内での冷却時間が不十分なまま製品を離型すると、内部に多くの熱を持った状態で解放されるため、その後の不均一な冷却によって大きなソリが発生します。内部応力を十分に緩和させ、離型時の変形リスクを低減するためには、適切な冷却時間を確保することが基本です。ただし、これは生産サイクルタイムの延長に直結するため、生産効率とのトレードオフを考慮した上で、製品品質が担保される最短時間を見出す必要があります。 

金型設計による対策 

恒久的なソリ対策として、金型の設計段階での作り込みは極めて重要です。 

冷却回路の最適化 

ソリの大きな原因である冷却の不均一性を解消するため、冷却回路の設計は最も重要な要素の一つです。製品の形状に合わせて、固定側と可動側の冷却能力が均一になるよう、回路を対称に配置することが理想です。また、冷却水の流量や温度を適切に管理し、金型全体の温度分布を均一に保つことが、安定した品質の鍵となります。 

ゲート配置の工夫 

ゲートの位置や数は、金型内の樹脂の流れ方、ひいては圧力分布と繊維配向を決定づけます。ソリを抑制するためには、可能な限り均一な充填パターンを実現できるゲート位置を選定することが肝要です。例えば、長尺の製品では複数のゲートを設けて充填距離を短くしたり、円盤状の製品では中央にゲートを配置して放射状に均一な流れを作ったりするなどの工夫が求められます。

離型構造の適正化 

成形品を金型から突き出す際の変形を防ぐこともソリ対策の一環です。突き出しピン(エジェクターピン)は、リブやボスといった剛性の高い部分に、バランス良く配置する必要があります。これにより、突き出し時に製品へかかる力を分散させ、局所的な応力集中による変形を防ぎます。また、十分な抜き勾配を確保し、スムーズな離型を促すことも、不要な応力を与えないために重要です。金型表面の摩耗や汚れも離型抵抗を増大させるため、定期的なメンテナンスが欠かせません。 

材料選定による対策 

使用する樹脂材料の見直しも、ソリ対策における有効なアプローチです。 

樹脂タイプの変更 

ソリの発生しやすさは、樹脂の種類に大きく依存します。結晶性樹脂(PA,POM, PBTなど)は収縮が大きくソリやすいのに対し、非晶性樹脂(PSU,PC, PMMAなど)は収縮が小さく、寸法安定性に優れます。製品に求められる特性(耐熱性、耐薬品性など)が許容する範囲で、より低収縮な非晶性樹脂への変更を検討することは有効な選択肢です。 

グレードの選定 

同じ種類の樹脂でも、グレードによって特性は異なります。メーカーからは、標準グレードに比べて収縮率を低減させた「低ソリグレード」や「低収縮グレード」が提供されています。また、ガラス繊維の配向を抑制するために、球状フィラーや鉱物フィラーを配合したグレードを選定することも、異方性収縮の緩和に効果的です。 

材料の適切な管理 

特に吸湿性の高い樹脂(ポリアミドなど)の場合、材料の予備乾燥が不十分だと、成形時に水分がガス化して流動性を不安定にさせ、ソリのばらつきを招くことがあります。メーカーが推奨する条件で材料を適切に乾燥させることは、安定した成形とソリ低減の基本的ながら非常に重要な管理項目です。 

設計段階でできる工夫 

最も上流である製品の設計段階でソリを考慮に入れることが、最も効果的かつ低コストな対策となり得ます。 

リブ配置と肉厚のバランス設計 

製品の強度を確保するためのリブは、配置を誤ると局所的なヒケやソリの原因となります。リブの肉厚を基本肉厚の50~60%程度に抑え、急激な肉厚変化を避けることが基本です。また、リブを格子状に配置するなど、製品全体の剛性を均等に高めることで、大きな変形を抑制することができます。製品全体の肉厚を可能な限り均一にすることも、収縮差を小さくするための基本原則です。 

非対称形状への配慮 

コの字型やL字型といった非対称な形状は、構造的にソリが発生しやすいです。設計段階でこのような形状が避けられない場合は、変形することを見越して、あらかじめ逆方向に反らせた形状(逆ソリ)を金型に織り込むといった対策も検討されます。 

ソリを吸収できる嵌合設計 

ソリの発生を完全に抑えられない場合、アッセンブリの段階でその変形を吸収できるような設計を取り入れることも有効な手段です。例えば、柔軟性のあるスナップフィット構造を採用したり、位置決めのためのガイドを設けたりすることで、多少のソリがあっても問題なく組み立てられるように工夫します。 

CAE・試作を活用した予防的設計 

現代のものづくりにおいては、CAEの活用が、ソリ対策の精度を飛躍的に向上させます。 

ソリ予測シミュレーション 

CAEによる流動解析ソフトウェアを用いることで、量産用の金型を製作する前に、コンピュータ上でソリの発生傾向を予測することが可能です。これにより、変形が大きくなる箇所や変形の方向を「見える化」し、ゲート位置の最適化や肉厚の調整といった対策を、設計の早い段階で効率的に検討できます。 

試作による検証と補正設計 

シミュレーションは万能ではなく、最終的には試作成形による実物の検証が不可欠です。試作品の寸法を精密に測定し、CAEの予測結果と比較することで、その後の対策の精度を高めることができます。この試作と測定のサイクルを通じて、金型形状の修正や成形条件の最終的な追い込みを行います。 

まとめ 

射出成形におけるソリは、多様な要因が複雑に絡み合って発生する根深い問題です。その対策は、一つの側面に特化するのではなく、製品設計から材料選定、金型設計、そして成形条件設定に至るまで、プロセス全体を俯瞰した最適化を目指す必要があります。府中プラは、「製品設計の工夫」、「金型設計の最適化」、「材料の適切な選定」、「成形条件の適正化」という四つの側面から総合的にアプローチすることこそが、高品質な製品を安定的に生み出すための鍵であると確信しています。
府中プラでは、こうした成形不良を未然に防ぐためのCAE解析サービスや、長年の経験に基づいた金型設計と製品設計支援をさせていただいております。ソリをはじめとする成形トラブルでお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。 

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