技術解説

LCPと他スーパーエンプラの比較 ─ PEEK・PPS・PEIとの使い分け

LCPと他スーパーエンプラの比較 ─ PEEK・PPS・PEIとの使い分け

現代の高度な産業分野において、製品の高性能化、小型化、高信頼性化を支える上で、エンプラの中でも特に優れた特性を持つ「スーパーエンプラ」が不可欠な存在となっています。LCP(液晶ポリマー)をはじめ、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)といった材料は、それぞれが独自の強みを持つ高機能材料であり、スーパーエンプラ市場において競合しつつも、それぞれの得意分野で棲み分けがなされています。設計者の皆様にとっては、それぞれの材料特性を深く理解し、「どの材料をどのような用途に採用すべきか」を適切に判断する場面が数多く存在することと存じます。本コラムでは、代表的なスーパーエンプラであるPEEK、PPS、PEIとLCPとの違いを詳細に比較し、それぞれの材料の使い分けにおける重要な勘所を、府中プラの視点から整理してご説明いたします。

4種のスーパーエンプラの基本特性 

まずは、今回比較対象とする4種類のスーパーエンプラの基本的な特性を整理いたします。 

LCP(液晶ポリマー) 

LCPは、その独特な分子構造に起因する「分子配向による極めて低い線膨張係数」、「高流動性」、「低誘電率・低誘電正接」を主要な特徴とします。これらの特性は、特に精密な寸法安定性や高周波特性が求められる電子部品分野で大きな優位性をもたらします。一方で、分子配向がもたらす「強い異方性」や、成形時に「外観不良」が発生しやすいリスク、さらには「衝撃強度の限界」といった課題も抱えています。 

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) 

PEEKは、エンプラの中でも特に優れた「高強度・高靭性」を持ち、250℃級の連続使用温度に耐える「高耐熱性」を誇ります。これらの特性から、金属代替や高荷重がかかる構造部材として広く利用されています。しかし、他のエンプラと比較して「高コスト」であることや、溶融温度が高く「成形性がLCPより難しい」点が課題として挙げられます。 

PPS(ポリフェニレンサルファイド) 

PPSは、「優れた耐薬品性」と「高い耐熱性」を併せ持ち、さらに「電気特性も安定」しているという特長があります。電気部品や自動車部品などで幅広く使用されています。しかし、材料そのものに「脆さ」があり、衝撃がかかる用途には不向きな場合があります。また、結晶性樹脂であるため「寸法安定性はLCPに劣る」傾向があります。 

PEI(ポリエーテルイミド) 

PEIは、「非晶性」でありながら「高い耐熱性」と「良好な寸法安定性」を両立している点が大きな特長です。ナチュラル色は薄い褐色の透明で、透明色、不透明色の着色が可能です。光学部品や視認性が求められる用途にも多くの採用実績があります。 

耐熱性の比較 

スーパーエンプラの選定において、耐熱性は重要な指標の一つです。 

  • LCP:ガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)ともに高く、250℃前後のリフロー工程のような短時間の高温暴露にも耐えることができます。電子部品の製造プロセスにおいて特に有利です。 
  • PEEK:スーパーエンプラの中でも最高クラスの耐熱性を有しており、長期的な高温環境下での使用において優れた性能を発揮します。連続使用温度は250℃にも達します。 
  • PPS:180~200℃程度の比較的高い温度での長期使用において、優れた耐久性を示します。 
  • PEI:非晶性樹脂でありながら、ガラス転移温度が約215℃と高く、200℃近くまでその特性を安定して維持できます。 

耐熱性用途の中でも、「リフロー工程を伴う電子部品にはLCP」、「高荷重環境下での長期使用にはPEEK」といった使い分けが整理できます。 

機械的特性の比較 

強度や靭性といった機械的特性も、材料選定における重要な要素です。 

  • LCP:分子配向による繊維補強効果により、流動方向には高い強度を示しますが、異方性が顕著であり、方向によって強度が大きく異なります。衝撃強度には限界があります。 
  • PEEK:引張強度、衝撃強度、疲労強度ともにトップクラスの性能を誇り、高荷重がかかる機構部品として非常に優れています。 
  • PPS:高剛性ではありますが、脆さがあり、衝撃が加わる用途には不向きな場合があります。ガラス繊維などで強化することで改善されます。 
  • PEI:高剛性でありながら比較的良好な靭性を持ちますが、吸湿すると靭性が低下するリスクがあるため注意が必要です。 

機構部品として高い機械的強度が必要な場合はPEEK、精密な寸法精度と微細部品の成形が求められる場合にはLCPが優位性を持ちます。 

寸法安定性・収縮挙動の比較 

精密部品においては、寸法安定性が極めて重要です。 

  • LCP:線膨張係数(CTE)が極端に低く、金属やセラミックスに近い値を持ちます。この特性により、異なる材料との接合部での熱応力発生を抑制し、高い寸法安定性を実現します。しかし、異方収縮には注意が必要です。 
  • PEEK:寸法安定性は良好であり、低吸水性も相まって環境変化に強い特性を持ちます。ただし、CTEはLCPより高い傾向があります。 
  • PPS:結晶性樹脂であるため、成形収縮が比較的大きく、また結晶化度によって変動しやすいため、LCPと比較すると反りや寸法ばらつきが出やすい傾向があります。 
  • PEI:非晶性樹脂であるため、成形収縮が小さく、比較的均一な収縮挙動を示します。 

電気特性・高周波特性の比較 

電子部品や通信機器においては、電気特性が重要な選定基準となります。 

  • LCP:極めて低い誘電率と誘電正接を持つため、高周波領域での信号損失が非常に少なく、5G通信機器や半導体実装、高周波コネクタといった用途に極めて有利です。 
  • PEEK:電気特性は安定しており、高い絶縁性を有しますが、高周波用途においてはLCPほどの低誘電率・低誘電正接は持ちません。 
  • PPS:優れた耐電圧性と絶縁性を持ちますが、誘電率はLCPより高く、超高周波用途ではLCPが優位に立ちます。 
  • PEI:非晶性樹脂ゆえに電気特性は安定していますが、電子通信用途、特に高周波領域ではLCPが優位です。 

成形性・加工性の比較 

成形性と加工性は、量産性やコストに直結する要素です。 

  • LCP:高流動性を持ち、極めて薄肉の部品にも容易に充填できるため、成形性は非常に良好です。ただし、前述の通り、ウェルドラインやバリの発生、外観不良が出やすいという課題があります。 
  • PEEK:高い溶融温度が必要であり、金型温度も高めに設定する必要があるため、成形難易度は他のスーパーエンプラと比較して高い傾向にあります。 
  • PPS:比較的成形しやすい材料ですが、脆さが残るため、取り扱いには注意が必要です。 
  • PEI:非晶性樹脂であるため、成形収縮が小さく、良好な外観を得やすいという利点があります。しかし、高い成形温度を必要とします。 

まとめ 

LCP、PEEK、PPS、PEIといったスーパーエンプラは、それぞれが異なる優れた特性を持ち、特定の用途において最適な選択肢となり得ます。 

  • LCP:「薄肉・精密な寸法精度・高周波特性」が要求される分野において、独自のポジションを占めます。特に電子部品や通信機器の小型化、高性能化に貢献します。 
  • PEEK:「高荷重・高耐熱が必要な機構部品」として、その高い強度と耐熱性を活かします。金属代替の用途で広く採用されます。 
  • PPS:「耐薬品性・電気特性に優れる」という強みを持ちますが、脆さがあるため、衝撃がかかる用途では補強材の検討などが必要です。 
  • PEI:「透明性や良好な外観」に強みがあり、非晶性でありながら「高い耐熱性と寸法安定性」を両立します。 

設計者の皆様は、製品に求められる具体的な用途要求、すなわち「耐熱性」、「寸法精度」、「電気特性」、「機械強度」といった複数の要素を基準に、マトリクス比較を行うことで、最適な材料を選択することが極めて重要です。府中プラは、これらのスーパーエンプラの特性を深く理解し、お客様の製品開発に最適なソリューションを提供できるよう努めてまいります。 

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