技術解説

LCP活用の用途事例 ─ 半導体パッケージ・FA機器・精密センサー部品への展開 

LCP活用の用途事例 ─ 半導体パッケージ・FA機器・精密センサー部品への展開 

LCP(液晶ポリマー)は、その卓越した特性から「スーパーエンプラ」と称される高機能材料の一つです。特に「極めて低い線膨張係数「高流動性」「優れた電気特性」といったユニークな組み合わせは、今日の高度な技術分野、とりわけ半導体、産業機器、そして計測センサーといった精密性が求められる領域において、非常に重要な意味を持ちます。これらの特性が、製品の小型化、高性能化、高信頼性化を可能にし、従来の材料では対応が困難であった課題を解決する手段として注目されています。本コラムでは、LCPがその真価を発揮し、現在そして将来にわたって活用が期待される代表的な用途領域について、府中プラの視点から詳しく整理し、ご紹介いたします。 

半導体分野での応用 

半導体パッケージ材料としてのLCP 

半導体分野において、LCPは次世代パッケージ材料として大きな期待が寄せられています。その理由として、まず「低誘電率・低誘電正接」に起因する優れた高周波特性が挙げられます。高速信号の伝送において、信号損失を最小限に抑えることは極めて重要であり、LCPはこの要求に応えることができます。次に、「極めて低い線膨張係数」は、半導体パッケージ設計における大きな課題の一つである、シリコン基板やセラミックスとの熱膨張差を抑制する上で極めて有効です。これにより、温度変化による応力発生や信頼性の低下を防ぐことが可能となります。さらに、LCPの「薄肉での射出成形が可能」という特性は、微細化が進む半導体パッケージにおいて、設計の自由度を大幅に高めることに貢献します。 

代表的な用途例 

LCPが半導体分野で具体的に活用されている例としては、まずBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Scale Package)といった先端パッケージのキャリア材料が挙げられます。これらのパッケージは、高性能化と小型化が同時に求められるため、LCPの特性が不可欠です。また、半導体の性能評価を行うための「半導体テストソケット」や、複数のチップや基板間を電気的に接続する「インターポーザ」においても、LCPはその精密な寸法安定性と電気特性が評価され、採用が進んでいます。これらの部品は、微細なピッチでの接点形成や高周波信号の正確な伝送が求められるため、LCPの優れた性能が大きく寄与しています。 

FA(ファクトリーオートメーション)機器への展開 

高精度絶縁部品 

FA(ファクトリーオートメーション)機器は、産業の自動化を支える重要なシステムであり、その構成部品には高い信頼性と精度が求められます。LCPは、その優れた「寸法安定性」により、位置精度が厳しく要求されるセンサーやアクチュエータの絶縁保持部品として非常に適しています。工場環境では、繰り返し動作や温度サイクルに晒されることが多いため、部品の寸法変動はシステムの精度に直結します。LCPは、このような過酷な環境下においても安定した寸法を維持できるため、FA機器の長期的な信頼性向上に貢献します。 

高温環境下での利用 

産業機器の分野では、高温環境下で使用される部品も少なくありません。LCPは、その高い耐熱性から、はんだリフロー工程や、制御装置内部の高温になる配線環境に耐えうる材料として注目されています。特に、機器の小型化に伴い、部品間の距離が短くなり、放熱設計がより複雑になる中で、LCPは薄肉部品としても高い耐熱性を維持できるため、制御装置内部の薄肉絶縁部品やコネクタハウジングなどへの採用余地が大きく広がっています。 

精密センサー部品での活用 

小型化・薄肉化が求められるセンサー筐体 

現代のセンサーは、その設置場所の制約から、ますます小型化・薄肉化が求められています。LCPの「高流動性」は、この要求にまさに合致しており、肉厚が0.3~0.4mmの極めて薄い部品であっても精密に成形することが可能です。これにより、センサーの筐体設計において、これまで困難であった小型化や複雑な形状の実現が可能となります。また、IoTデバイスの普及に伴い、高周波信号を扱うセンサーが増加していますが、LCPは「低誘電率」特性により、信号の損失を低減し、高精度なセンシングを可能にします。 

振動・衝撃下での安定性 

センサーは、測定環境において振動や衝撃に晒されることも少なくありません。このような環境下で安定した性能を維持するためには、材料の機械的安定性が非常に重要となります。LCPは「低吸水性」であり、湿度環境下においても寸法変化が少ないため、測定精度への影響を最小限に抑えることができます。さらに、LCPは高い機械的安定性を有しており、繰り返し精度が厳しく要求されるセンシング部品において、長期にわたる信頼性の確保に貢献します。 

LCP用途の拡張可能性 

LCPの持つ高周波特性は、既存の分野だけでなく、今後急速に発展する新しい技術領域においても大きな可能性を秘めています。例えば、5G通信機器やIoT関連デバイスは、高速・大容量のデータ通信を可能にするために、高周波対応の部品が不可欠です。LCPは、その低誘電率・低誘電正接特性により、アンテナ部品や高周波コネクタ、基板材料などへの応用が期待されています。将来的には、FA(ファクトリーオートメーション)の進化と半導体技術の高度化、そして通信技術の融合が進む中で、LCPはこれらの分野をつなぐキーマテリアルとして、さらに新しい応用展開が期待できるでしょう。 

まとめ 

LCP(液晶ポリマー)は、「半導体パッケージ」、「FA機器」、「精密センサー」といった、極めて高い精度と信頼性が求められる分野において、その独自の特性が強く求められている材料です。従来の汎用材料や他のエンプラでは対応が困難であった課題を解決する手段として、LCPは大きな可能性を秘めています。自動車部品や汎用コネクタのように、すでに多くの競合材料が存在する市場とは異なり、産業機器や半導体関連の分野においては、LCPの特性を活かした差別化や新規開拓の余地が非常に大きいと言えるでしょう。LCPのポテンシャルを最大限に引き出すためには、設計者が材料選定の段階でLCPの特性を正しく理解し、その強みを最大限に活かす設計を行うことが、これら先端分野での活用を成功させる鍵となります。府中プラは、LCPが未来の技術革新に貢献する重要な素材であると考えています。 

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