技術解説

高周波対応材料としてのLCP ─ 5G通信機器・半導体分野で採用が進む理由 

高周波対応材料としてのLCP ─ 5G通信機器・半導体分野で採用が進む理由 

現代社会において、情報通信技術の発展は目覚ましく、5G通信の普及やIoTデバイスの拡大により、これまで以上に高速・大容量のデータ伝送が求められています。これに伴い、電子部品や通信機器には、高周波領域での信号損失を極限まで低減することが強く要求されるようになりました。このような技術的課題に対し、LCP(液晶ポリマー)は、その特異な電気特性により、次世代の高周波対応材料として大きな注目を集めています。LCPが「高周波対応材料」として、特に5G通信機器や半導体分野で採用が進む背景には、他のエンプラでは得られない独自のメリットが存在します。本コラムでは、LCPの電気特性に焦点を当て、高周波領域での優位性とその具体的な応用について、府中プラの視点から詳細にご説明いたします。 

高周波領域におけるLCPの優位性 

低誘電率・低誘電正接がもたらすメリット 

高周波信号を扱う上で最も重要な材料特性の一つが、「誘電率」と「誘電正接」です。誘電率が低い材料ほど、信号伝送速度が速くなり、また誘電正接が低い材料ほど、信号伝送時の損失(熱変換されるエネルギー)が少なくなります。LCPは、これらの誘電特性において他の多くのエンプラと比較して極めて優れた値を示します。特に、非常に高い周波数帯域においても誘電率・誘電正接が安定している点がLCPの大きな特長です。これにより、5Gのような高速通信環境下で、信号の遅延や減衰を最小限に抑え、高精度なデータ伝送を実現することが可能となります。これは、通信品質の向上、さらには消費電力の削減にも直接的に貢献する重要なメリットです。 

周波数安定性がもたらす高信頼性 

LCPのもう一つの重要な電気特性は、誘電率・誘電正接が周波数に対して安定している点です。多くの材料では、周波数が高くなるにつれて誘電率や誘電正接が大きく変動し、信号品質の劣化を招くことがあります。しかし、LCPは、ギガヘルツ(GHz)帯域といった非常に高い周波数領域においても、その電気特性がほとんど変化しません。この周波数安定性は、広帯域にわたる信号伝送が必要とされる5G通信システムや、複数の異なる周波数を使用する複合デバイスにおいて、極めて高い信頼性と安定した性能を発揮するために不可欠な要素となります。 

5G通信機器での採用事例 

アンテナ部品・コネクタへの適用 

5G通信機器において、LCPは特に「アンテナ部品」と「コネクタ」においてその真価を発揮しています。アンテナは電波の送受信を担う重要な部品であり、信号損失が少ない材料で構成されることが求められます。LCPを用いることで、アンテナ効率の向上と、5Gで採用されるミリ波帯域での安定した性能を実現できます。また、高速信号伝送を担うコネクタにおいても、LCPの低誘電率・低誘電正接は、信号の減衰を抑え、安定した接続品質を提供するために不可欠です。LCPの高流動性は、コネクタの小型化や多ピン化にも貢献し、限られたスペースに高密度な回路を実装することを可能にします。 

高周波モジュール・基板材料への応用 

5G基地局や端末内部の高周波モジュール、さらにはフレキシブルプリント基板(FPC)といった分野でもLCPの採用が進んでいます。LCPは、誘電特性の安定性に加えて、優れた寸法安定性と耐熱性を持つため、精密な回路形成が要求される基板材料として適しています。特に、フレキシブル基板においては、LCPフィルムがその柔軟性と高周波特性を両立させることで、曲面への実装や小型化に貢献しています。これにより、5Gデバイスの設計自由度が向上し、より高性能でコンパクトな製品の開発が可能となります。 

半導体分野での高周波対応 

パッケージング材料としての活用 

半導体パッケージは、チップを外部環境から保護し、電気的に接続するための重要な部品です。LCPは、その優れた電気特性と「極めて低い線膨張係数」により、半導体パッケージ材料として注目されています。低誘電率・低誘電正接は、高性能化する半導体の高速信号伝送において信号劣化を抑制し、チップの性能を最大限に引き出します。また、線膨張係数がシリコンチップやセラミックス基板に近いことから、温度変化による熱応力発生を緩和し、パッケージの信頼性を向上させます。これにより、BGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Scale Package)のような先進的なパッケージング技術において、LCPは不可欠な材料となっています。 

テストソケット・インターポーザへの展開 

半導体の製造工程における性能評価に用いられる「テストソケット」や、複数のチップや基板間を接続する「インターポーザ」においても、LCPの特性は非常に重要です。これらの部品は、微細なピッチでの高密度な電気的接続と、テスト信号の正確な伝送が求められます。LCPは、優れた寸法安定性と高周波特性により、テストソケットの接触信頼性を高め、インターポーザにおける高速信号の整合性を確保します。これにより、半導体の高精度な評価と、複数の素子を統合したシステム構築を可能にしています。 

高周波対応におけるLCPの展望 

LCPの高周波特性は、5G通信機器や半導体分野に留まらず、IoTデバイス、車載レーダー(当社は受注不可)、さらには将来の6G通信技術など、様々な領域での応用が期待されています。これらの分野では、さらなる高周波化、高速化、小型化が求められており、LCPの持つ低誘電率、低誘電正接、周波数安定性、そして低線膨張係数といった複合的な特性が、技術革新の鍵となるでしょう。府中プラは、LCPが今後の情報通信社会の発展を支える基幹材料の一つとして、その重要性をさらに高めていくと確信しております。 

 

本コラムでは、LCP(液晶ポリマー)が「高周波対応材料」として、特に5G通信機器や半導体分野で広く採用が進む理由について、その優れた電気特性を中心に解説いたしました。LCPの「低誘電率・低誘電正接」は、高速信号伝送における信号損失を最小限に抑え、さらに「周波数安定性」は高周波領域での信頼性を保証します。これらの特性は、アンテナ、コネクタ、高周波モジュール、そして半導体パッケージやテストソケットといった多岐にわたる部品において、高精度かつ高信頼性の実現に貢献しています。今後、データ通信量の爆発的な増加が見込まれる中で、LCPの果たす役割はますます大きくなるでしょう。設計者の皆様が、高周波対応材料を選定する際に、LCPのユニークな特性を深く理解し、その可能性を最大限に引き出すことが、次世代の革新的な製品開発につながると、府中プラは考えています。 

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