技術解説

医療機器設計に最適なPEI(ウルテム)とは:耐滅菌性・透明性・信頼性を支える理由 

医療機器設計に最適なPEI(ウルテム)とは:耐滅菌性・透明性・信頼性を支える理由 

医療機器の設計において、材料選定は製品の安全性と機能性を左右する重要なプロセスです。特に「滅菌への耐性」「視認性を高める透明性」「長期にわたる信頼性」という三つの条件を同時に満たすことは、設計者にとって常に大きな課題でした。近年、これらの厳しい要求を高いレベルで充足できる材料として、PEI(ポリエーテルイミド、製品名Ultem™)が注目を集めています。府中プラは、射出成形メーカーの立場から、PEIがなぜ医療機器設計に不可欠な材料として選ばれるのか、その背景と透明性がもたらす価値について解説します。 

医療分野におけるPEI(ウルテム)採用の拡大背景 

医療技術の進歩と医療制度の変化に伴い、医療機器に求められる材料特性も多様化、高度化しています。特に「再使用可能な医療機器」の増加は、材料の高耐久性を強く要求する要因となっています。 

医療機器の多様化・再使用化による高耐久材料の必要性 

手術器具、診断装置、透析器、内視鏡など、医療機器の種類は増え続けています。使い捨てが主流であった時代から、コスト削減や環境負荷低減の観点から、繰り返し使用される再使用医療機器の比率が高まっています。これらの機器は、使用のたびに厳しい滅菌プロセスを経る必要があり、材料には極めて高い耐久性が求められます。繰り返し滅菌に耐え、物性変化や劣化が少ない材料でなければ、機器の安全性と信頼性を長期にわたって維持できません。PEIは、この高耐久性の要求に応える有力な選択肢として、その採用を広げています。 

高温滅菌プロセスに耐えうる高Tg材料への移行 

医療現場で主流の滅菌方法は、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)です。これは通常121℃~134℃の高温に晒されるため、材料には高いガラス転移温度(Tg)が求められます。汎用プラスチックではこの温度に耐えられず、変形や劣化を起こしてしまいます。PEIは高いガラス転移温度(約217℃)を持つため、オートクレーブ滅菌を含む各種高温滅菌プロセス後も、形状や物性を安定して保持できます。SABIC社の製品資料によれば、ULTEM™ HU1004樹脂は134℃の蒸気滅菌においてもPPSUと同等の耐久性を示しており、2000サイクルに及ぶオートクレーブ試験でも機械的強度や靭性が高く維持されることが確認されています。[1]この特性が、再使用可能な医療機器の部品材料としてPEIが選ばれる大きな理由の一つです。 

金属・ガラス・PVC代替の流れとPEI(ウルテム)の位置づけ 

従来の医療機器では、金属やガラスが多用されてきました。しかし、金属は軽量化や設計の自由度に制約があり、加工コストも高い傾向にあります。ガラスは透明性に優れるものの、破損のリスクが避けられません。また、ポリ塩化ビニル(PVC)は柔軟性や加工性に優れますが、可塑剤の使用や廃棄時の環境負荷が懸念され、代替材料への移行が進んでいます。PEIは、これらの材料が抱える課題を解決し、軽量化、設計自由度の向上、加工性の良さ、そして優れた耐熱性・透明性・耐久性を兼ね備えることで、多くの医療機器において金属、ガラス、PVCの代替材料として重要な位置を占めています。 

グローバル規格(FDA・ISO10993)対応 

医療機器の材料には、厳格な法規制や国際規格への適合が求められます。特に米国FDA(食品医薬品局)の要求事項や、ISO10993(医療機器の生物学的評価)シリーズは、グローバル市場で製品を展開する上で不可欠です。PEIは、多くの医療グレードがこれら主要な規制や規格に適合しており、生体適合性に関する豊富なデータも提供されています。そのため、材料選定の段階から法規制への対応を見据えることができ、開発期間の短縮や承認プロセスの円滑化に貢献します。 

可視化と透明性がもたらす設計自由度 

医療現場では、機器内部の状況や流体の流れを目視で確認する必要がある場面が多々あります。PEIの持つ高透明性は、設計に新たな自由度と機能性をもたらします。 

PEI(ウルテム)の非晶性構造がもたらす高透明性と光透過特性 

PEIは、非晶性の構造を持つため、優れた高透明性を発揮します。結晶性樹脂が結晶領域と非結晶領域の屈折率差により光を散乱させるのに対し、非晶性樹脂は均一な構造を持つため光の透過性が非常に高いです。PEIは、可視光域において高い光透過率を維持し、クリアな視認性を実現します。この特性は、流体観察窓、ポンプハウジング、チューブ接続部、内視鏡部品など、機器の内部状況や流体の動きを外部から確認する必要がある部品設計において極めて重要です。 

医療現場での視認性・清浄性(流体観察窓、チューブ接続部など) 

医療従事者は、機器の使用中に異常がないか、流体が適切に流れているかなどを迅速に判断する必要があります。PEIの高い透明度は、流体の混濁、気泡の発生、凝固、あるいは薬剤の着色などをクリアに視認することを可能にします。これにより、医療ミスのリスクを低減し、患者の安全性を高めることに貢献します。また、透明であることで、機器内部の清浄性を確認しやすく、洗浄残渣の有無などのチェックも容易になり、再使用医療機器の衛生管理を効率化します。 

滅菌後でも変色・白濁しにくい 

医療機器の透明部品において、繰り返し滅菌後の変色や白濁は大きな問題となります。特に高圧蒸気滅菌は高温で行われるため、材料によっては劣化による色調変化や透明度の低下が起こりやすいです。PPSU(ポリフェニルサルホン)も透明性の高いスーパーエンプラですが、繰り返しオートクレーブ滅菌に晒されると、PEIと比較してわずかながら黄変や白濁が見られることがあります。PEIは、その分子構造の安定性により、γ線滅菌、EOG滅菌、そして高圧蒸気滅菌を含む多様な滅菌プロセス後も、変色や白濁が非常に少なく、高い透明性を長期間維持します。特に過酸化水素プラズマ滅菌においては、PEI(ULTEM™ HU1004)がPPSUを大きく上回る色安定性を示しています。STERRAD NXおよびAMSCO V-PROシステムで300回の滅菌サイクル後も、ΔE値が概ね5程度と極めて小さく、視認性を損なわないことが実証されています。[2]この特性は、機器の美観だけでなく、医療従事者の視認性を損なわない点で評価されています。 

PMMAやPCと比較した耐熱・耐薬品性の優位性 

透明なプラスチックとしてはPMMA(アクリル樹脂)やPC(ポリカーボネート)も一般的ですが、これらはPEIと比較して耐熱性や耐薬品性に劣ります。PMMAは耐熱性が低くオートクレーブ滅菌には不向きであり、PCも高温滅菌では劣化やひび割れを起こす可能性があります。また、多くの消毒液や洗浄剤に対して耐性がないため、医療現場での使用には制約があります。PEIは、PMMAやPCをはるかに上回る耐熱性(約217℃のTg)と、広範な薬品に対する優れた耐性を持ちます。これにより、高温滅菌や厳しい洗浄環境下でも、透明性を保ちつつ物性劣化を防ぎ、長期的な信頼性を確保できます。 

府中プラのPEI成形実績 

まとめ 

PEI(ウルテム)は、医療機器設計において、再使用化への対応、高温滅菌への耐性、そして金属・ガラス・PVC代替のニーズに応える主力材料として、その採用を拡大しています。特にその非晶性構造がもたらす高い透明性は、機器内部の視認性向上と衛生管理の効率化に貢献し、医療現場の安全性を高めます。繰り返し滅菌後も変色や白濁が少なく、PMMAやPCを上回る耐熱性・耐薬品性を兼ね備えるPEIは、透明性と機能性が同時に求められる医療機器部品において、設計者に大きな自由度と信頼性を提供します。 

参考文献 

[1][2]ULTEM™ HU1004 resin A high performance resin blend for multiple sterilization environments 

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