技術解説

飲料水接触規制の最新動向と設計の要点 — EUポジティブリスト/KTW-BWGL/ACS/REG4/NSF 61

飲料水接触規制の最新動向と設計の要点 — EUポジティブリスト/KTW-BWGL/ACS/REG4/NSF 61

飲料水接触材料に関する規制は、公衆衛生保護の観点から常に更新されています。特に2025年以降、国際的な規制環境は大きな転換期を迎え、水回り機器の設計・開発に携わる皆様にとって、最新情報のキャッチアップは喫緊の課題となっています。府中プラは、この変動期における設計者の皆様の円滑な開発を支援するため、主要な規制の動向とその設計への影響をコンパクトに整理しました

2025–2027にかけての主要トピック 

2025年から2027年にかけて、飲料水接触規制は以下のような動きがあると言われています。 

  • EUポジティブリストへの移行:飲料水指令((EU) 2020/2184)に基づき、一連の実施決定および委任規則(例:(EU) 2024/365、2024/367–371 等)により欧州ポジティブリストが制定され、各国制度からの段階的移行が進行しています。 
  • 中国GB/T改訂:中国の国家標準GB/T 17219は2026年に改訂版が施行され、新たな評価項目や許容基準が導入されます。特に材料の浸出評価において、より厳格な要件が課される可能性があります。 
  • REG4ガイダンス更新:英国のRegulation 4に関するガイダンスが更新され、製品の市場投入に必要な承認プロセスが明確化されます。これはブレグジット後の英国市場への適合戦略に影響を与えます。 
  • NSF改訂など:米国・カナダのNSF/ANSI/CAN 61についても、定期的な改訂が行われ、新たな化学物質の評価基準や試験方法が追加される可能性があります。 

量産計画・設計検証への影響 

これらの規制改訂は、水回り機器の量産計画および設計検証に直接的な影響を与えます。 

  • 必要となるエビデンスの増加:特にEUポジティブリストへの移行に伴い、材料の組成情報、製造プロセス、試験データなど、これまで以上に詳細なエビデンスの提出が求められます。サプライチェーン全体での情報共有体制の構築が不可欠です。 
  • 試験機関の選定と試験期間の確保:新たな評価項目や試験方法に対応するため、認定試験機関の選定と、それに伴う試験期間の確保が重要になります。設計段階での事前の情報収集と計画が、開発期間の長期化を防ぐ鍵となります。 
  • 材料選定とサプライヤー評価の厳格化:規制適合を確実にするため、使用する材料の選定基準がより厳格になり、サプライヤーに対する適合性情報の提供要求も増加します。 

各国の飲料水接触規制の状況 

国・地域  主要規制・標準評価の要点特記事項
米国・カナダ    NSF/ANSI/CAN 61, NSF 372 溶出(健康影響)、鉛フリー 第三者認証が一般的 
EU 飲料水指令((EU) 2020/2184), 欧州ポジティブリスト 各国規制から統一リストへ移行 各国の移行スケジュール・経過措置に留意 
ドイツ KTW-BWGL 有機材料の溶出、微生物増殖 ドイツ市場の主要要件 
フランス ACS 有機材料の溶出、臭味・着色 有効期限5年、更新必要 
英国 Regulation 4, BS 6920 材料および製品の承認 Regulation 4 は給水設備規制。適合証拠は BS 6920 等。UKCA表示とは別枠で運用。 
日本 JWWA 浸出、臭味・着色 公的機関による検査 
中国 GB/T 17219-2025 浸出、微生物増殖 2026年3月1日施行。1998版を全面置換。 
豪州・NZ AS/NZS 4020, WaterMark 溶出、微生物増殖      WaterMarkは“対象品目”に必須(Schedule of Products)。飲料水接触の材料評価はAS/NZS 4020:2018が参照される。 

米国・カナダ(NSF/ANSI/CAN 61/NSF 372) 

NSF/ANSI/CAN 61は、飲料水と接触する材料および製品の健康影響評価に関する北米の主要な規格です。主に有害物質の溶出を評価し、許容レベルを下回ることを求めています。NSF 372は、特に鉛フリー要件に特化した規格であり、SDWA(米・飲料水安全法)で鉛含有率を0.25%に制限しています。これらの規格への適合は、第三者認証機関による試験と認証を通じて行われるのが一般的です。米国の「鉛フリー」は加重平均0.25%、はんだ・フラックスは0.2%(SDWA §1417/EPA解説)。評価方法はNSF/ANSI/CAN 372が示します。 

EU(飲料水指令と欧州ポジティブリスト移行の位置づけ) 

EUの飲料水指令((EU) 2020/2184)は、飲料水の水質基準を定めており、これに適合するための材料要件として欧州統一ポジティブリスト制度が導入されます。これは、これまで各加盟国が個別に定めていた国内規制(例:ドイツのKTW、フランスのACS)が、段階的に欧州レベルの統一リストに置き換わることを意味します。材料の適合性評価は、統一された試験方法と評価基準に基づいて行われるようになります。 

ドイツ(KTW-BWGL:評価枠組みと改訂スケジュール) 

ドイツのKTW-BWGLは、飲料水と接触する有機材料に対する最も厳格な評価枠組みの一つです。微生物増殖性試験や広範な溶出試験が含まれます。有機材料については、リスト化された開始物質・添加剤等に基づく評価が中心です。EUユニオンリスト導入に伴い、整合・移行措置に留意が必要です。 

フランス(ACS:有効期限と更新の考え方) 

フランスのACSは、飲料水と接触する材料および製品がフランスの規制に適合していることを示す衛生適合証明書です。材料の溶出試験に加え、臭味・着色に関する評価も含まれます。ACS の有効期間は原則5年で、更新時は変更有無の確認と必要に応じた再試験(臭味・着色・微生物・溶出)を行います。 

英国(Regulation 4/BS 6920:材料承認と製品承認の関係) 

英国の適合は Regulation 4(給水設備規制)に基づきます。最終製品の承認が必要となる場合が多く、その適合証拠として BS 6920 の試験成績等を用います。UKCA 表示とは別枠で運用されます。 

日本(JWWA:浸出・臭味・着色の評価枠組み) 

日本のJWWA(日本水道協会)規格は、給水装置に使用される材料および製品が、浸出、臭味、着色などの観点から飲料水に悪影響を与えないことを評価します。具体的には、所定の条件下で材料を浸漬させ、浸出液中の有害物質濃度、臭気、色度を測定し、水道法の水質基準およびJWWAの自主基準に適合することを確認します。 

中国(GB/T 17219-2025:施行時期と移行) 

中国の国家標準 GB/T 17219 は、飲料水接触材料・製品の安全性評価に関する規格です。GB/T 17219-2025 は 2025年8月29日に公布され、2026年3月1日に施行(1998版を全面置換)される見通しです。改訂内容の前倒し反映や再評価が必要となる可能性があります。 

豪州・NZ(AS/NZS 4020とWaterMarkの関係) 

豪州・NZ では、WaterMark の対象品目リスト(Schedule of Products)に該当する配管・排水製品は WaterMark 認証が必須です。飲料水接触の材料評価は AS/NZS 4020:2018 が参照されます。 

各国共通の評価の観点 

多くの国・地域で共通して見られる飲料水接触材料の評価の観点は以下の通りです。 

溶出(健康影響)/臭味・着色/微生物増殖性/重金属(無鉛) 

  • 溶出(健康影響):材料から飲料水中に溶出する可能性のある有害物質(重金属、有機化合物など)の濃度が、所定の基準値を超えないことを確認します。これが最も基本的な評価項目であり、規制適合の核となります。 
  • 臭味・着色:材料から溶出する成分が、飲料水の臭気や色度に悪影響を与えないことを確認します。これは、感覚的な品質を保証するために重要です。 
  • 微生物増殖性:材料表面が微生物の増殖を促進しないことを確認します。特にプラスチックなどの有機材料において、微生物膜(バイオフィルム)の形成を抑制する設計が求められます。 
  • 重金属(無鉛):特に鉛、カドミウム、ヒ素などの重金属の溶出に対する規制は厳しく、多くの場合、材料中の含有量も制限されます(例:鉛フリー要件)。 

「材料OK≠製品OK」になる典型例 

材料単体で上記の評価観点に適合していても、最終製品としては不適合となるケースが頻繁に見られます。これは設計段階で特に注意すべき点です。 

  • 表面積比:最終製品の形状によっては、飲料水と接触する材料の表面積が大幅に増加し、結果として溶出量が増加する可能性があります。試験片と最終製品の表面積比を考慮した設計が必要です。 
  • 後加工:材料の射出成形後に、切削加工や研磨などの後加工を行うと、材料の表面状態が変化し、溶出特性に影響を与えることがあります。また、洗浄剤や潤滑剤の残留も問題となることがあります。 
  • 配合差:同じ樹脂の種類であっても、グレード間の添加剤(着色剤、安定剤、可塑剤など)の配合差によって、溶出特性が大きく異なることがあります。 
  • 成形条件:射出成形時の温度、圧力、冷却速度などの成形条件が、材料の結晶性や表面粗さに影響を与え、結果として溶出特性に影響を与えることがあります。 

追加試験が必要になるトリガー 

特定の設計変更や使用条件の変更は、追加の適合性試験を必要とするトリガーとなります。 

  • 色変更:同じ材料であっても、異なる着色剤を使用した場合、着色剤からの溶出物が問題となる可能性があるため、追加試験が必要となることがあります。 
  • 改質:材料の物性向上のために、改質剤やフィラーなどを添加した場合、これらの成分からの溶出を評価するために追加試験が必要となります。 
  • 温度域:飲料水が接触する温度域が変更された場合(例:冷水用から温水用へ)、高温での溶出特性が異なるため、その温度域での追加試験が求められます。 

“FWAグレード”という近道 

国際的な飲料水接触規制への適合は複雑であり、設計者にとって大きな負担となりがちです。そこで注目されるのが、あらかじめ飲料水・食品接触用途に特化して開発された「FWAグレード」と呼ばれる材料群です。 

定義と狙い 

FWAグレードとは、”Food and Water Application”グレードの略であり、食品接触用途および飲料水接触用途への適用を主眼として開発された材料ポートフォリオを指します。これらの材料は、初期段階から厳しい溶出基準や衛生要件をクリアするように設計されており、設計者の材料選定プロセスを簡素化し、規制適合への「近道」を提供することを狙いとしています。 

代表例とグレード別データシート確認の重要性 

府中プラでは、多様な水回り機器の要求に応えるため、FWAグレード群を調達します。これらのグレードは、優れた機械的特性と透明性を両立させながら、飲料水接触規制への適合性を考慮して配合されています。 

ただし、FWAグレードであっても、個々のグレードによって適合可能な規制や試験結果は異なります。そのため、必ずグレード別のデータシートを確認し、ターゲットとする国・地域の規制要件と照らし合わせることが極めて重要です。データシートには、溶出試験の結果や、特定の規制(例:NSF 61、KTW-BWGL)への適合状況が記載されています。 

国横断の“自動適合”ではないことには要注意 

FWAグレードは、規制適合への有効なアプローチですが、「FWAグレード=国横断の自動適合」ではないという点を明確に理解する必要があります。FWAグレードはあくまで「適合しやすい材料」であり、最終製品としての規制適合は、その製品の設計、製造プロセス、使用条件、そして接触する表面積比など、様々な要因によって決まります。 

したがって、FWAグレードを選定した場合でも、最終製品としてターゲット市場の規制要件を満たしているか、必要に応じて追加の試験や評価を行うことが不可欠です。 

まとめ 

2025年以降の飲料水接触規制は、国際的な統一化と厳格化の傾向を強めています。特にEUポジティブリストへの移行や中国GB/Tの改訂は、水回り機器の設計・開発に携わる皆様にとって、喫緊の課題です。材料選定においては、単に材料単体の適合性だけでなく、最終製品としての評価観点、特に表面積比や後加工、成形条件による影響を十分に考慮する必要があります。 

主要規制公式サイト一覧 

本コラムは、2025年10月時点の公知情報および当社の技術的見解に基づく一般解説であり、法的助言を構成するものではありません。規制・基準の内容は予告なく変更される場合があります。記載の正確性・完全性について当社は保証せず、本コラムの利用に関連してお客様または第三者に生じたいかなる損害についても当社は一切の責任を負いません。個別案件に応じて最新の公式情報をご確認ください。 

関連コラム

関連情報