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PP(ポリプロピレン)の特性と設計・射出成形でのポイント

PP(ポリプロピレン)の特性と設計・射出成形でのポイント

PP(ポリプロピレン)は、汎用プラスチックの中で剛性・耐薬品性・成形性・コストのバランスが優れており、射出成形用途で広く使用される材料です。特に、その軽量性と耐薬品性、そして良好な流動性は、多くの成形品で採用される決定的な理由となります。電気電子機器、計測器、一般産業機器などの部品において、PPは常に検討すべき重要な選択肢です。本稿では、PPの特性と、射出成形における実務的な使い方や注意点について、府中プラの視点から詳しく解説します。 

PP の基本特性 

PPの分子構造と特徴 

PPの最大の特徴は、規則正しい立体規則性(アイソタクチック構造)を持つことによる高い結晶性です。この結晶構造が、PPの機械的強度や耐薬品性の基盤となります。 
また、PPの比重は約0.90であり、汎用プラスチックの中ではポリメチルペンテンに次いで軽く、実用的なエンプラを含めても最軽量クラスに位置します。部品の軽量化が求められる場合、この低比重は大きなアドバンテージです。 
一方で、結晶化挙動は成形プロセスと最終的な物性に強く影響します。冷却固化の過程で結晶化が進むため、寸法変化や収縮の管理が成形の鍵となります。 

PPの代表的な物性(剛性・耐薬品性・耐熱性) 

PPは常温において、実用十分な剛性と軽量性のバランスを保っています。ABS樹脂などと比較すると表面硬度は劣りますが、繰り返し疲労には強い特性を持ちます。耐薬品性に関しては、多くの酸・アルカリ・無機薬品に対して極めて安定しており、吸水性もほとんどありません。これが、水回りや薬液を使用する環境でPPが選ばれる理由です。 
ただし、熱変形温度(HDT)は比較的低く、耐熱性には限界があります。高温環境下で使用する部品を選定する際には、この熱的限界を十分に考慮する必要があります。 

無添加 PP とコンパウンド PP の違い 

PPは単体で使用されるだけでなく、フィラー(充填材)を配合したコンパウンド材料としても多用されます。タルクを充填することで剛性と寸法安定性を向上させたり、GF(ガラス繊維)を強化することで強度と耐熱性を大幅に高めたりすることが可能です。これらのコンパウンド技術により、本来のPPの特性を補い、エンプラに近い性能を持たせることができます。使用環境や要求スペックに応じて、適切なグレードを採用することで用途の広がりが得られます。 

PP の機械的特性と設計時の着目点 

剛性・強度の特徴と限界 

PPは非常に軽量ですが、引張強度や曲げ弾性率といった機械的強度は、ABSやPC(ポリカーボネート)と比較すると劣ります。したがって、高負荷がかかる構造体よりも、カバー類や内部シャーシ、スペーサーなど、比較的低荷重の構造部品での利用が中心となります。設計時には、肉厚を適切に設定するか、リブ構造で剛性を補う工夫が必要です。 

クリープ(長期変形)への注意 

結晶性樹脂であるPPは、非晶性樹脂に比べてクリープ(一定の荷重がかかり続けることで、時間とともに変形が進む現象)が発生しやすい傾向にあります。特に、スナップフィットや圧入部品のように、常に応力がかかった状態で固定される部分では注意が必要です。また、ヒンジ(蝶番)構造はPPの得意分野ですが、常に力が加わるような設計にすると、経時変化で変形し、機能が損なわれるリスクがあります。 

衝撃特性(特に低温衝撃) 

室温環境下では、PPは粘り強く、良好な衝撃強度を示します。しかし、ガラス転移点が比較的高いため、低温環境になると脆化が進み、衝撃に対して割れやすくなる性質があります。寒冷地で使用される機器や、冷凍環境で使用される部品に採用する場合は、耐衝撃グレードやエラストマー変性グレードを選定するなど、低温特性への配慮が不可欠です。 

耐薬品性・耐環境性の特徴 

一般薬品への耐性(酸・アルカリ・水溶液) 

PPは分子構造内に加水分解を起こす結合を持たないため、酸やアルカリ、塩類水溶液に対して非常に高い安定性を持ちます。洗剤や漂白剤、バッテリー液などが付着する可能性のある部品には最適です。この特性は、多くのエンプラよりも優れている場合があります。 

有機溶剤には弱い領域 

一方で、無極性ポリマーであるため、似た構造を持つ無極性の有機溶剤には膨潤・溶解しやすい弱点があります。具体的には、トルエンなどの芳香族炭化水素や、ガソリン、一部の塩素系溶剤には侵されやすいです。また、高温下では耐性が低下するため、化学薬品用途や洗浄工程がある部品では、必ず実際の使用環境での事前確認が必要です。 

耐候性(紫外線)への注意 

PPのもう一つの弱点は、紫外線による劣化(光酸化劣化)を受けやすいことです。屋外で直射日光にさらされると、表面にクラック(ひび割れ)が生じたり、著しく強度が低下したりします(チョーキング現象)。屋外用途で使用する場合は、カーボンブラックの添加や、紫外線吸収剤・光安定剤(HALS)を配合した耐候性グレードの選択が不可欠です。 

熱的特性(耐熱性・結晶化挙動と影響) 

耐熱性の基本(HDT・連続使用温度) 

一般的なホモポリマーのPPでも、低荷重下での熱変形温度(HDT)は90℃~100℃程度、高荷重(1.8MPa)では60℃前後となります。これは、ABSやPBTなどのエンプラと比較して低い数値です。高温環境では軟化して変形しやすくなるため、製品の最高使用温度や保管温度が材料の限界を超えないか、慎重な判断が求められます。 

結晶化速度と収縮率 

PPは結晶化速度が速い材料です。これは金型内で素早く固化することを意味し、成形サイクルを短縮できるため、経済的な生産が可能です。反面、結晶化に伴う体積収縮が大きく、成形収縮率は10/1000~20/1000程度と大きくなります。この収縮により、成形品に反りや変形が発生しやすい傾向があります。特に平板形状や肉厚差がある製品では、反りの制御が技術的な課題となります。 

耐熱グレードの活用 

耐熱性が不足する場合、前述のタルク強化やGF強化グレードを使用することで、HDTを130℃~140℃付近まで引き上げることが可能です。これにより、発熱するRF機器の内部部品や、電気機器の筐体の一部などで採用されるケースもあります。コストを抑えつつ耐熱性を確保する手段として有効です。 

射出成形性と金型設計での実務的ポイント 

流動性が高く複雑形状に適する 

PPは溶融時の粘度が低く、流動性に優れています。そのため、薄肉の製品や、リブ・ボスが多数存在する複雑な形状でも、金型の隅々まで樹脂を充填しやすいというメリットがあります。大型の製品や、流動長が厳しい薄肉製品において、成形機への負荷を抑えつつ良品を得るために、この流動性の良さは大きな武器となります。 

結晶性特有の収縮と反り対策 

成形実務において最も注意すべきは、結晶化による大きな収縮とそれに伴う反りです。 
金型設計の段階で、製品の離型をスムーズにするための十分な逃げ勾配が必要です。また、金型の冷却バランスが悪いと、冷却速度の差によって収縮差が生じ、大きな反りの原因となります。設計段階で肉厚をできる限り均一にし、肉厚差を小さくすることが、反りリスクを低減させる最良の策です。 

ヒケ・反り・ボイド対策(成形不良を防ぐために) 

流動性が良い反面、保圧が不足すると厚肉部に「ヒケ(表面の窪み)」や「ボイド(内部の空洞)」が発生しやすくなります。これらは、樹脂が固化する際の体積収縮分を十分に補填できない場合に起こります。ゲート位置の最適化や、適切な保圧条件の設定が重要ですが、根本的には「肉盗み」を行って厚肉部をなくすような設計変更が最も効果的です。 

用途と適用領域 

電気・電子機器の構造部品 

電気絶縁性が良く、安価で軽量であるため、電気・電子機器のさまざまな部品に使用されます。外装部品としては、意匠性よりも実用性が重視される背面カバーや底板などに使われます。内部機構部品としては、その適度な柔軟性を活かし、スナップフィットによる嵌合が必要な部品に多用されます。 

流体関連部品・薬液接触部品(軽度) 

優れた耐薬品性と耐水性を活かし、ポンプのカバーやインペラー、各種容器部品に使用されます。特に水回りの機器や、弱酸・弱アルカリ程度の薬液に触れる部品に適しています。ただし、前述の通り強力な酸化剤や特定の溶剤には不向きであるため、使用する薬液の種類に応じた適合確認が必要です。 

産業機器の軽量構造部品 

産業機器分野では、金属部品の樹脂化による軽量化を目的として、治具や保護カバー類に採用されます。摺動特性(滑りやすさ)はPOMなどに劣るため、軸受などの摺動部品としてではなく、あくまで一般的な構造用途や、接触保護を目的とした部品として使用されます。 

PPから上位材料へ置換する判断基準 

剛性不足・寸法精度が必要な場合 

PPでは剛性が足りない、あるいは収縮が大きく寸法精度が出せない場合は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)への変更を検討します。コストを抑えたい場合は、PPのタルク充填グレードやGF強化グレードへの切り替えで対応できることもあります。府中プラでは、要求される精度とコストのバランスを見て最適な提案を行います。 

耐熱性が不足している場合 

使用環境温度がPPの限界を超える場合は、PBTやPA(ポリアミド/ナイロン)への変更が必要です。特にPAは耐熱性と強度が優れていますが、吸水による寸法変化があるため、用途に応じて使い分けます。長期使用温度やHDTの数値を基準に判断します。 

耐薬品性は良好だが強薬品に接触する場合 

PPは耐薬品性が良好ですが、それでも対応できない有機溶剤や特殊な薬液に接触する場合は、POM(ポリアセタール)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)の使用を検討します。PPSは耐薬品性と耐熱性が極めて高いスーパーエンプラですが、コストも高くなります。PPSUやPEIなどのさらに高機能な樹脂もありますが、通常はコスト的に採用が難しいため、必要性が極めて高い場合のみ例外的に検討します。 

まとめ 

PPは、汎用樹脂の中で射出成形性、軽量性、耐薬品性、コスト面のバランスが最も優れた材料の一つです。幅広い用途に対応できる一方で、結晶性樹脂特有の収縮・反りの制御、耐熱性の限界、低温時の衝撃特性など、設計・成形時に注意すべき点も多く存在します。府中プラでは、長年にわたりPPを用いた多様な製品の量産実績があります。材料グレードの選定から、反りを抑える金型設計、そして安定した品質を実現する成形条件の最適化まで、一貫した支援が可能です。PPの選定や成形で課題をお持ちの場合は、ぜひ府中プラへご相談ください。 

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