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PBT(ポリブチレンテレフタレート)の特性と設計・射出成形でのポイント 

PBT(ポリブチレンテレフタレート)の特性と設計・射出成形でのポイント 

PBT(ポリブチレンテレフタレート)は、結晶性エンプラの代表格であり、成形性、寸法安定性、電気特性、耐薬品性のバランスが極めて優れた材料です。特に、吸水による寸法変化や物性低下が少ないという点は、同じく汎用エンプラであるPA(ポリアミド)と比較した際の最大の優位性となります。この特性により、電気・電子部品のコネクタやケース、産業機器の精密機構部品など、高い信頼性が求められる分野で広く採用されています。本コラムでは、射出成形用途に限定し、PBTの特性、実務的な使いどころ、そして設計・金型・成形において注意すべきポイントについて、府中プラの視点から詳しく解説します。 

PBT の基本特性(結晶性樹脂としての特徴) 

化学構造と結晶性がもたらす特性 

PBTは、分子鎖が規則正しく並ぶ「結晶性樹脂」に分類されます。その中でも特に結晶化速度が速いことが特徴です。結晶化が速いということは、金型内で溶融樹脂が急速に固化することを意味します。これにより、成形サイクル(ハイサイクル)を短縮でき、生産性に優れた材料といえます。 
また、一般的に結晶性樹脂は成形収縮率が大きい傾向にありますが、PBTは比較的収縮が小さく、安定しています。さらに、分子構造中にエステル結合を持ちますが、吸水性が非常に低いため、吸湿による寸法膨張がほとんどありません。これが、精密部品でPBTが重宝される最大の理由です。 

GF強化・ミネラル強化による特性変化 

PBTは単体(ニートレジン)で使用されることもありますが、多くの射出成形用途では、ガラス繊維(GF)などの強化材を配合したコンパウンドとして使用されます。GFを配合することで、引張強度、曲げ弾性率(剛性)、熱変形温度が飛躍的に向上します。例えば、GF30%配合グレードは、金属部品の代替として十分な強度を持ちます。 
一方で、GF配合は「反り」の原因となる異方性を生じさせます。これを抑制するために、球状や板状のミネラルフィラー(無機充填材)を配合した「低反りグレード」も存在します。用途に応じて、剛性を取るか、平面度(寸法の正確さ)を取るか、適切な強化材の選定が重要です。 

PBTの強み・弱みの位置づけ 

PBTの強みは、「吸水寸法変化が極めて小さいこと」、「優れた電気絶縁性と耐トラッキング性」、「高い耐薬品性」、「良好な流動性」です。これにより、複雑な形状の薄肉部品や、長期信頼性が必要な部品に適しています。 
弱みとしては、結晶性樹脂のため反り(ソリ)が起こりやすく、寸法精度を出すことが難しいこと、そして高温多湿環境やアルカリ環境下での「加水分解(樹脂の劣化)」のリスクがあることなどが挙げられます。 

機械特性と設計上の注意点 

剛性・強度(特にGF強化品) 

GFで強化されたPBTは非常に硬く、高い剛性を誇ります。GF30%グレードでは、曲げ弾性率が9000MPa〜10000MPaに達することもあり、負荷がかかる歯車(ギア)やレバー、筐体などの構造部品として申し分ない性能を発揮します。設計においては、この高い剛性を活かし、リブ構造を効率的に配置することで、薄肉かつ高強度の部品を実現可能です。 

衝撃性と脆性のバランス 

非強化のPBTは一定の粘り(靱性)を持ち、耐衝撃性も比較的良好ですが、GF強化グレードになると、剛性と引き換えに「脆さ」が増します。特に、GF含有率が高くなるほど、衝撃を受けた際に変形せずにパリーンと割れる脆性破壊の傾向が強まります。設計上の重要なポイントは、応力集中を避けることです。コーナー部分(角)にRを設けることは必須であり、鋭角なノッチ形状は厳禁です。スナップフィットの設計では、許容ひずみ量を慎重に計算し、根元に十分なRをつける必要があります。 

吸水による寸法変化が小さい 

PA(ナイロン)は吸水率が高く、湿気を吸うと寸法が大きくなり、剛性が低下するという性質がありますが、PBTはこの影響をほとんど受けません。吸水率はPAの1/10程度であり、湿度の変化による寸法変動が無視できるレベルです。そのため、マイクロスイッチや精密コネクタ、微細なギアなど、ミクロン単位の精度維持が求められる嵌合部品において、PBTはPAよりも圧倒的に有利です。 

耐薬品性・耐環境性 

一般薬品への耐性 

PBTは結晶性樹脂であるため、化学薬品に対して優れた耐性を持ちます。ガソリン、エンジンオイル、切削油、グリスなどの油類や、弱酸、アルカリ水溶液に対して安定しています。また、有機溶剤にも強く、洗浄工程で使用される一般的な溶剤(アルコールなど)でもストレスクラックを起こしにくいため、産業機器の機構部品や、油分が付着する可能性のある環境での使用に適しています。 

エステル系溶剤・熱水に対する注意 

PBTの化学構造にはエステル結合が含まれており、これが特定の環境下で切断される「加水分解」という弱点を持っています。具体的には、高温の水蒸気や熱水に長時間さらされると、分子鎖が切れて強度が著しく低下し、ボロボロになります。また、強アルカリや強酸も加水分解を促進します。したがって、常時熱湯に浸かるような部品や、高温多湿が続くサウナのような環境、あるいはスチーム洗浄が頻繁に行われる用途には適していません。このような環境で使用する場合は、耐加水分解グレードを選定するか、PPSなどの上位材料を検討する必要があります。 

耐候性と湿度環境 

PBT自体の耐候性はそれほど高くありません。紫外線(UV)を浴び続けると、表面が劣化して粉を吹いたり(チョーキング)、変色したり、強度が低下したりします。屋外で使用する場合は、カーボンブラックの添加や、紫外線吸収剤を配合した耐候性グレードの選択が不可欠です。一方で、湿度に対する耐性は前述の通り非常に高いため、屋内環境であれば、長期保管や使用において寸法の狂いや物性低下を心配する必要はほとんどありません。 

熱的特性(耐熱性・結晶化挙動) 

HDT・連続使用温度 

PBTの荷重たわみ温度(HDT)は、非強化グレードでは60℃〜70℃程度と低いですが、GF30%強化グレードになると200℃〜210℃まで劇的に向上します。これにより、はんだ付け工程(リフロー対応はグレードによる)や、一時的な高温環境にも耐えることができます。ただし、長期連続使用温度は120℃〜140℃程度です。150℃を超える高温環境で長時間荷重がかかる用途では、クリープ変形のリスクがあるため、PPSやPEEKなどのスーパーエンプラとの使い分けが必要です。 

結晶化速度と成形収縮 

PBTは結晶化速度が非常に速いため、金型内での固化が早く、成形サイクルを短縮できる経済的な材料です。成形収縮率は、非強化で1.5%〜2.0%、GF強化で0.2%〜1.2%程度です。ここで注意が必要なのは、GF強化グレードにおける「異方性」です。ガラス繊維が樹脂の流れ方向(流動方向)に配向するため、流動方向の収縮は小さく、直角方向の収縮は大きくなります。この収縮差が、平板形状や箱型形状において「反り」や「ねじれ」の主原因となります。 

成形時の熱分解・加水分解の注意 

成形加工段階において、PBTは水分の管理が極めて重要です。予備乾燥が不十分なまま成形機に投入すると、シリンダ内で溶融した樹脂が自身の水分で加水分解を起こします。これにより、外観は正常に見えても、製品の物性(特に衝撃強度)が著しく低下し、簡単に割れる不良品となってしまいます。成形前の十分な除湿乾燥(通常120℃〜140℃で3〜5時間)は必須工程です。また、樹脂温度が高すぎたり、滞留時間が長すぎたりすると熱分解を起こし、ガスが発生して製品の変色や強度低下を招くため、適切な温度管理が求められます。 

射出成形性と金型設計のポイント 

流動性と成形条件 

PBTは溶融粘度が低く、流動性に優れています。そのため、薄肉のコネクタや複雑なリブ形状を持つ部品でも、比較的低い圧力で充填することが可能です。しかし、流動性が良いことは、金型の隙間(パーティングラインや突き出しピンの隙間)に入り込みやすいことを意味し、「バリ」が発生しやすい傾向にあります。金型精度を高め、適切な型締力を設定することが重要です。 
また、GF強化グレードでは、表面にガラス繊維が浮き出ることで表面が白っぽく荒れる「繊維露出」や、合流部での強度が低下する「ウェルドライン」が目立ちやすいため、成形条件での外観コントロールが必要です。 

金型温調・ゲート設計 

結晶性樹脂であるPBTの物性を最大限に引き出し、かつ寸法を安定させるためには、金型温度の管理が鍵となります。通常は40℃〜90℃、表面光沢(鏡面性)を重視する場合は100℃以上に設定することもあります。金型温度が低いと結晶化が不十分となり、後収縮や寸法変化の原因となります。 
ゲート設計においては、GFの配向(並び方)をコントロールすることが反り対策の最重要項目です。ゲート位置によって樹脂の流れる方向が決まり、それによって収縮の方向が決まるため、製品形状に合わせて、反りが最小限になる位置にゲートを設置する必要があります。 

成形不良(ウェルド・反り・ショート)対策 

PBT成形で頻発する課題は「反り」と「ウェルドライン」です。反りに対しては、前述のゲート位置の最適化に加え、保圧条件の調整や、冷却時間の均一化を行います。設計段階で肉厚差をなくすことも重要です。ウェルドラインは、PBTの場合、結晶化が速いために融合が不十分になりやすく、強度が著しく低下する弱点となります。ガス抜きを強化して内圧を逃がすことや、ウェルド位置を強度が不要な場所に移動させる金型設計が必要です。 

射出成形での用途(電気電子・機構部品中心) 

電気・電子機器のコネクタ・絶縁部品 

PBTの最も代表的な用途はコネクタです。薄肉でも成形でき、ピンを多数配置しても寸法が狂わず、高い電気絶縁性と耐トラッキング性(漏電しにくさ)を持つため、PC基板用コネクタや各種インターフェースコネクタに最適です。 

計測器・産業機器の精密機構部品 

吸水による寸法変化がない特性を活かし、プリンターや計測機器、時計などの精密ギア、カム、軸受け、レバーなどに使用されます。特にギアなどの摺動部品としては、POM(ポリアセタール)が有名ですが、POMよりも寸法安定性や剛性が必要な場合、あるいは高温環境で使用される場合にPBTが選ばれます。 

軽度薬液接触・耐油部品 

工作機械の周辺部品や、油圧機器の電磁弁カバー、ポンプのハウジングなど、油や薬液がかかる可能性のある部品に使用されます。ただし、前述の通り高温水や強アルカリには弱いため、クーラント液(切削液)の種類や使用温度には注意が必要です。 

PBT → 上位材料への置換判断基準 

耐熱性が不足する場合 

PBTの耐熱温度(連続使用120℃〜140℃、短時間リフロー等)では持たない場合、あるいは高温下での高剛性維持が必要な場合は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)への置換を検討します。PPSは耐熱性、難燃性、耐薬品性の全てにおいてPBTを上回りますが、コストも上がります。 

耐薬品性が不足する場合 

強酸、強アルカリ、あるいは加水分解のリスクが高い環境(高温高湿、熱水)で使用する場合は、PBTでは対応できません。この場合もPPSが有力な候補となります。また、摺動性や耐摩耗性が最優先で、かつ耐薬品性も必要な場合は、POMへの変更も検討しますが、POMはPBTより剛性や耐熱性が劣るため、バランスを見る必要があります。 

反り・寸法精度の課題がある場合 

GF強化PBTの反りがどうしても解決できない場合、まずは「低反りグレード(ミネラル配合など)」への変更を検討します。それでも精度が出ない場合は、PPSへの変更が有効です。PPSはPBTよりも線膨張係数が低く、寸法安定性がさらに高い材料です。あるいは、設計を見直し、リブの肉厚を調整したり、形状を対称にしたりすることで、応力のバランスを整えるアプローチも重要です。 

まとめ 

PBTは、その優れた寸法安定性、電気特性、成形性、そして強化材による性能向上の幅広さから、電気電子機器や産業機器の精密部品において、なくてはならない中核的なエンプラです。一方で、結晶化速度の速さに起因する反りの制御や、加水分解リスクへの配慮、繊維配向の管理など、高品質な成形品を得るためには専門的な知識と技術が求められます。
府中プラでは、長年にわたり多数のPBT精密部品の成形を手掛けてきました。GF強化グレード特有の反り対策や、ガス抜けを考慮した金型設計、そして最適な材料グレードの選定まで、一貫した技術支援が可能です。PBT部品の立ち上げや、品質課題でお困りの際は、ぜひ府中プラへご相談ください。 

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