技術解説

射出成形のトラブル対策 -不良原因と現場での解決アプローチ

射出成形のトラブル対策 -不良原因と現場での解決アプローチ

射出成形とは、プラスチック樹脂を加熱して溶融させ、射出成形機のノズルから金型内へ高い圧力で注入し、冷却・固化させることでプラスチック部品を作る製造方法です。大量生産に適した製造技術として、家電、自動車、医療機器など幅広い分野で使用されています。
一方で、この射出成形という加工法では、工程や条件が複雑に絡み合うため、外観不良や寸法不良、強度不足といったさまざまなトラブルが発生します。

射出成形のトラブル対策において重要なのは、不良現象を単なる結果として見るのではなく、「成形工程のどこで、どの要素が影響したのか」を構造的に整理することです。成形条件の調整だけで対応しようとすると、問題の本質を見誤り、結果としてトラブルが再発するケースも少なくありません。
本記事では、射出成形で発生する不良を、設計・金型・材料・加工工程の関係性から捉え直し、現場でのトラブル対策をどのように考えるべきか、その基本的な考え方を整理します。

射出成形トラブルの特徴

射出成形のトラブルは、単一の原因によって発生するとは限りません。製品形状、金型構造、使用する樹脂材料、成形条件、冷却方法といった複数の要素が同時に影響し、その結果として不良が表面化します。
例えば、成形品の一部にヒケが発生した場合でも、その原因が保圧条件だけにあるとは限らず、肉厚形状や金型内の冷却構造、樹脂の流動特性が関係していることがあります。
このように、射出成形における不良は「成形中」に見える現象であっても、実際には設計段階や金型構成、材料選定に起因しているケースが少なくありません。成形工程の一部だけを切り取って対策を講じると、別の不良が発生するなど、問題が複雑化する可能性があります。

代表的な射出成形不良の考え方

射出成形では、ヒケ、反り、ショートショット、バリ、外観ムラなど、さまざまな不良が知られています。これらの不良は名称としては異なりますが、多くは「樹脂の流れ」「金型内での充填状態」「冷却と収縮挙動」といった基本工程に起因しています。
不良を個別に暗記するのではなく、どの工程でどのような挙動が起きているのかを理解することが重要です。
例えば、充填不足によるショートショットは、射出圧力や速度の問題だけでなく、ゲートやランナー構造、樹脂温度、金型内の空気抜き状態などが影響します。このように、不良は一つの要因だけで説明できない場合が多く、工程全体を俯瞰して考える必要があります。不良名を起点に考えると、現象と原因が切り離され、結果として場当たり的な対策に陥りやすくなります。 

ヒケや反りといった不良名を出発点にすると、射出成形トラブルの判断がなぜ迷走しやすいのかについては、以下の記事で詳しく整理しています。 
「射出成形トラブルは不良名では解決できない」

トラブルの原因を切り分ける視点

ここで重要なのは、原因を正解探しとして切り分けるのではなく、どの要素が支配的かを判断する視点を持つことです。設計に起因する問題なのか、金型構造による制約なのか、材料特性や加工条件によるものなのかを整理しなければ、適切な対策にはたどり着けません。 
この切り分けを誤ると、成形条件の調整を繰り返しても不良が改善されず、時間とコストだけがかかる結果になります。
原因切り分けの際には、「成形条件を変えれば直るはずだ」と決めつけず、複数の要因が関与している可能性を前提に考えることが重要です。設計・金型・材料・工程という複数の視点を持つことで、トラブルの本質が見えやすくなります。

条件で解決しないトラブルが、どのような思考プロセスで「金型」に行き着くのか、その全体像については次の記事で整理しています。 
「射出成形トラブルの原因は金型にある」

成形条件だけに頼らない対策の考え方

射出成形の現場では、不良が発生するとまず成形条件の調整が行われることが一般的です。射出圧力、射出速度、保圧条件、冷却時間、金型温度などは比較的変更しやすく、短時間で効果を確認できるため、対策として選ばれやすい要素といえます。

成形条件が「動かせる要素」である一方で、どこまで結果に影響を与えられるかという視点については、自由度(調整幅)という考え方で整理できます。 
「射出成形トラブルは『自由度』で切り分ける」

しかし、これらの条件はあくまで「加工工程の結果として設定されているもの」であり、すべてのトラブルを条件変更だけで解決できるわけではありません。
例えば、製品形状が複雑で肉厚差が大きい場合、金型内での樹脂の流れや冷却状態に偏りが生じやすくなります。この状態で条件を無理に振ると、一部の不良は改善しても、別の箇所で新たな不良が発生する可能性があります。
成形条件は万能な対策手段ではなく、設計・金型・材料によって決まる制約条件の中で最適化されるものだという理解が重要です。成形条件は原因そのものではなく、射出成形工程の結果として現れる調整項目に過ぎません。 

現場対応と設計改善の関係

射出成形トラブルへの対応は、「現場での即時対応」と「設計・金型の改善」に分けて考える必要があります。量産中の不良では、まず生産を止めずに対応することが求められるため、現場での条件調整や作業手順の見直しが優先されます。一方で、その対応が恒久的な解決につながるとは限りません。この違いは、射出成形トラブルを短期対応と長期安定のどちらで捉えるか、すなわち時間軸の問題でもあります。 

現場対応では解決しきれないトラブルの中には、金型設計そのものが工程の成立余裕を制限しているケースがあります。 
「金型設計起因の射出成形トラブルは、なぜ条件で直らないのか」

現場で得られた情報を設計側にフィードバックし、製品形状や金型構造、材料選定を見直すことで、初めて再発防止につながります。
射出成形のトラブル対策は、「現場だけ」「設計だけ」で完結するものではなく、工程全体を通じた改善活動として捉える必要があります。

トラブル対応で陥りやすい落とし穴

トラブル対応でよく見られるのが、「以前この条件で直った」という経験則に基づく判断です。しかし、製品ごとに形状や材料、金型構成は異なり、同じ不良現象でも原因が異なる場合があります。
過去の成功事例をそのまま当てはめると、問題の本質を見落とすリスクがあります。
また、外観や寸法といった目に見える不良だけに注目し、内部品質や長期信頼性への影響を十分に検討しないケースも少なくありません。射出成形のトラブル対策では、「今どう見えるか」だけでなく、「量産を通じて安定するか」という視点が欠かせません。

条件を変えると一時的に直るものの、再発を繰り返すトラブルの多くは、金型の状態変化が関係しています。 
「金型メンテナンス起因の射出成形トラブルは、なぜ切り分けが難しいのか」

トラブル対策を体系的に考える重要性

射出成形のトラブルは、個別に対応している限り、完全になくすことは困難です。不良現象を点として捉えるのではなく、設計・金型・材料・成形工程を横断した構造として整理することで、再現性のある判断が可能になります。
このような体系的な理解は、新製品の立ち上げや条件変更時にも活用でき、品質の安定化や生産性向上につながります。

本記事は、射出成形トラブル対策の全体像を整理するための入口として位置づけています。ヒケ、反り、ショートショット、バリなどの個別不良については、それぞれの原因や対策を詳しく解説した記事で取り上げています。

次に読むべき内容と本記事の役割

本トラブル対策編の総括として、状態・自由度(調整幅)に加えて「時間軸」という視点を用いた判断フレームを以下の記事で整理しています。 
「射出成形トラブルは『時間軸』で整理すると見えてくる」

本記事で整理した考え方を踏まえたうえで、個別の不良事例や対策方法を学ぶことで、トラブル対応の理解はより深まります。
射出成形のトラブル対策を「場当たり的な調整」から「構造的な判断」へと引き上げることが、本記事の目的です。

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