技術解説

射出成形トラブルは「自由度」で切り分ける - 射出成形の体系的理解 トラブル対策編-2 

射出成形トラブルは「自由度」で切り分ける - 射出成形の体系的理解 トラブル対策編-2 

前回の記事では、射出成形トラブルをヒケや反りといった不良名で捉えるのではなく、成形工程内で起きている「状態」として捉え直す重要性を整理しました。不良名は結果に付けられたラベルであり、それ自体が原因を示しているわけではない、という視点です。 
しかし、工程内の状態が見えてきても、現場では次の段階で再び迷いが生じます。それは、「では次に何を疑うべきか」「どこから切り分けを始めればよいのか」という判断基準が曖昧なままだからです。結果として、分かりやすく動かせる成形条件から手を付け、調整を繰り返すうちに本質から遠ざかってしまうケースが少なくありません。 
本記事では、この迷いを解消するための判断軸として「自由度」という考え方を用います。ここでいう自由度とは、「調整しやすさ」や「触りやすさ」を意味する言葉ではありません。どの要素が、工程内の状態に対して、どの程度の影響力と調整余地を持っているかという、判断のための視点を指します。ただし、本記事ではそれを単なる操作性の話としてではなく、設計・金型・材料・成形条件が結果にどの程度影響を与えられるか、という構造的な視点で整理していきます。 

なぜトラブル対応は条件調整から始まってしまうのか 

射出成形の現場で不良が発生すると、まず射出速度や圧力、温度、保圧時間といった成形条件が話題になります。条件はその場で変更でき、比較的短時間で結果を確認できるため、対応として合理的に見えます。実際、量産を止められない状況では、条件調整が最初の選択肢になるのは自然な流れです。
一方で、この「すぐに動かせる」という性質が、条件を最も自由度の高い要素だと錯覚させます。条件を触れば何かが変わるため、問題に対処している感覚を得やすいからです。ここで起きているのは、「結果が変わりやすい要素」と「原因を支配している要素」を同一視してしまう判断のズレです。
成形条件は、製品設計、金型構造、使用材料といった上流要素によって、成立する範囲があらかじめ制約されています。その制約を無視したまま条件を追い込むと、一時的に不良が改善したように見えても、別の部位で新たな不良が発生したり、量産時のばらつきが拡大したりします。条件調整から入る対応が迷走しやすいのは、自由度の高低ではなく、操作のしやすさを基準に切り分けの順序を決めてしまうためです。 

射出成形における「自由度(調整幅)」とは何か 

本記事で扱う自由度とは、「簡単に変えられるかどうか」を意味する言葉ではありません。重要なのは、その要素がどこまで結果に影響を与えられるか、そしてどれくらいの調整余地を持っているか、という点です。
例えば、成形条件は数値としては自由に変更できますが、成立する範囲は設計や金型によって強く縛られています。一方、設計や金型は一度量産に入ると簡単には変更できませんが、成形結果に与える影響は非常に大きく、自由度の“重み”は高い要素です。このように、「動かせるかどうか」と「結果をどれだけ支配しているか」は別の軸で考える必要があります
さらに、自由度は固定的なものではありません。量産立ち上げ直後と、ロットを重ねた後では、工程が許容できる揺らぎの幅が変わることがあります。条件変更で吸収できていたばらつきが、ある時点から急に顕在化するのは、工程全体の自由度が実質的に狭くなっているためです。今、どの要素がどの程度の自由度を持っているのかを見誤ると、切り分けの判断を誤りやすくなります。 

設計・金型・材料・成形条件の自由度の違い 

射出成形を構成する要素は、それぞれ自由度の性質が異なります。製品設計や金型構造は、量産が始まると基本的には固定条件となり、後戻りが効きにくい要素です。一方で、その影響範囲は広く、工程内の状態を根本から規定します。
成形条件は、その場で調整できるという意味では自由度が高く見えますが、実際には成立範囲が限定された要素です。条件は「最後に残された調整余地」であり、最初に疑うべき自由度の高い要素とは限りません
材料については、頻繁に原因として扱われる要素ではありませんが、製造ロット間のばらつきや乾燥条件の違いが、成立範囲の狭い工程ではトリガーになることがあります。重要なのは、「材料が悪い」と結論付けることではなく、工程側がその揺らぎを吸収できる自由度を持っていたかどうかという視点で捉えることです。 

自由度を誤ると、なぜ不良は再発するのか 

成形条件を調整することで一度は不良が収まったように見えるものの、しばらくすると同じトラブルが再発する。このような経験は、射出成形の現場では珍しくありません。この再発の多くは、自由度の見立てを誤ったまま対応していることに起因しています。自由度の低い要素、つまり調整余地がほとんど残っていない要素に対して無理に条件を合わせ込むと、工程は一時的に成立しているように見えます。しかし実際には、成立範囲の端で無理にバランスを取っている状態になり、わずかなばらつきや外乱で簡単に破綻します。材料ロットの違いや環境条件の変化、生産数の増加といった要因が加わったときに不良が再発するのは、このためです。
さらに厄介なのは、「この条件で直った」という成功体験が次の判断を鈍らせる点です。条件で抑え込めたという経験は、本来検討すべき自由度の低い要素から思考を遠ざける方向に働くことがあります。経験があるほど、設計や金型といった自由度の低い要素に目が向かなくなり、同じ対応を繰り返してしまいます。その結果、対策は積み重なるものの、工程全体の安定性はむしろ低下していくという状況に陥ります。
不良が再発するかどうかは、対応の巧拙ではなく、「どの自由度に手を付けたか」でほぼ決まります。自由度の高低を見誤ったまま調整を続ける限り、再発は避けられません。 

自由度で切り分けると、何から見るべきかが決まる 

工程内の状態が把握でき、各要素の自由度(調整幅)が整理できると、原因を検討する順序が自然に決まります。ここで重要なのは、「すぐに動かせるもの」からではなく、「その状態を最も強く支配しているもの」から考える、という発想への転換です。
例えば、ある部位で樹脂が十分に届いていない状態が確認された場合、その状態を最も支配しているのが設計形状や金型構造であれば、成形条件をいくら調整しても根本的な改善にはつながりません。一方、条件が十分な調整幅を持っており、他の要素が安定している場合には、条件調整が有効な打ち手になることもあります。
ここで整理している自由度の考え方は、対策を決めるためのものではなく、切り分けの順序を誤らないための判断の型です。この型を持つことで、場当たり的な調整を繰り返す必要がなくなります。 

まとめ 

射出成形トラブルへの対応が迷走する原因は、不良名や成形条件といった分かりやすい要素に思考が引きずられてしまう点にあります。工程内の状態を捉え、その状態を支配している要素の自由度(調整幅)を見極めることで、初めて切り分けの順序が見えてきます。
自由度を意識せずに条件調整を続けると、成立範囲の端で工程を維持することになり、不良は形を変えて再発します。一方で、自由度の高低を正しく見立てることができれば、無理な調整に頼らず、次に何を検討すべきかを冷静に判断できるようになります。
次回は、この自由度の考え方を前提に、金型起因のトラブルをどのように切り分けるべきかを扱います。金型設計に起因する問題と、メンテナンス状態に起因する問題では、現れ方も取るべき対応も異なります。工程内の状態と自由度を手がかりに、金型トラブルを構造的に整理していきます。 

射出成形トラブル対策の全体像や、本記事が位置づけられる考え方の整理については、 
「射出成形のトラブル対策 - 不良原因と現場での解決アプローチ」で解説しています。

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