プラスチックの種類と材料分類をわかりやすく解説|熱可塑性・エンプラ・スーパーエンプラ
現在、工業用として流通しているプラスチック材料の種類は数百、グレードまで含めると数万種類にも及びます。
製品設計者の方が「どの材料を選べばよいか」と悩まれるのは当然のことです。
私は材料メーカーに24年間在籍し、素材開発から成形現場のトラブルシューティングまで多くの案件に携わってきました。その経験から断言できるのは、最適な材料選定の第一歩は、個々の細かいスペックを暗記することではなく、「プラスチック材料の分類体系」を頭に入れておくことだということです。
材料がどのようなグループに属しているかを知れば、その材料のおおよその特性、耐熱性、コスト感、そして成形のリスクまでもが直感的に判断できるようになります。
本コラムでは、設計実務において最も重要となるプラスチック材料の分類軸について、基礎から体系的に解説します。まずは全体像を把握し、そこから個別の材料選定へとステップを進めていきましょう。
プラスチック材料の基本分類|熱可塑性と熱硬化性
プラスチック(合成樹脂)を最も大きく分類すると、「熱可塑性樹脂(Thermoplastics)」と「熱硬化性樹脂(Thermosetting plastics)」の2つに分かれます。
これは、熱を加えたときの挙動の違いによる分類です。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い
熱可塑性樹脂は分子鎖が物理的に絡み合った構造であり、加熱すると分子運動が活発化して溶融します。一方、熱硬化性樹脂は三次元架橋構造を形成するため、再加熱しても溶融せず分解に至ります。
- 熱可塑性樹脂
加熱すると溶けて柔らかくなり、冷やすと固まる樹脂です。一度固まった後でも、再び加熱すれば溶融するため、再成形(リサイクル)が可能です。
分子鎖が物理的に絡み合っているだけの構造(あるいは結晶構造)であり、化学的な架橋反応は起きていません。
- 熱硬化性樹脂
加熱すると化学反応(架橋反応)を起こして硬化する樹脂です。一度硬化すると、再び加熱しても溶けることはなく、さらに高温にすると炭化(分解)します。クッキーが一度焼けたら、生地に戻らないのと同じです。
フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などがこれにあたります。
射出成形で熱可塑性樹脂が主流である理由
現在の工業製品、特に射出成形で製造される部品の多くは、熱可塑性樹脂によって作られています。これは、熱可塑性樹脂が工業生産に適した加工特性を持っているためです。
熱可塑性樹脂は、加熱すると溶融して流動し、冷却すると固化するという可逆的な性質を持っています。この性質により、射出成形では「溶融 → 金型充填 → 冷却固化」という工程で部品を量産することができます。化学反応によって硬化する熱硬化性樹脂と比べて成形サイクルが短く、量産に適しています。
また、溶融状態での流動性を利用することで、薄肉部品や複雑なリブ構造など、射出成形特有の自由度の高い設計にも対応できます。さらに、成形時に発生するランナーやスプルーを再利用できる点も、熱可塑性樹脂が広く使われる理由の一つです。
このような理由から、一般的な製品設計では「まず熱可塑性樹脂の中から材料を検討する」というのが基本的なアプローチになります。次章では、この熱可塑性樹脂を「汎用プラスチック」、「エンプラ」、「スーパーエンプラ」に分類して解説します。
熱可塑性樹脂の階層分類|汎用・エンプラ・スーパーエンプラ
数ある熱可塑性樹脂は、その耐熱性や機械的強度、コストバランスによって、さらに3つの階層に分類されます。これをピラミッド構造でイメージすると分かりやすくなります。
- 汎用プラスチック
- エンプラ(エンジニアリングプラスチック)
- スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)
この3分類は、設計者が材料の「グレード感」や「適材適所」を判断する上で最も重要な指標です。

汎用プラスチック
定義と特徴
汎用プラスチック(汎用樹脂)とは、特定の高い耐熱性や強度は持たないものの、成形しやすく安価で、大量生産に適したプラスチック群です。
一般的に耐熱温度は100℃未満のものが多く、機械的強度もエンプラには劣りますが、添加剤による改質が容易であり、世界のプラスチック生産量の大部分を占めます。
代表的な材料
- PP(ポリプロピレン):自動車バンパーから食品容器まで。最も軽く、耐薬品性に優れる。
- PE(ポリエチレン):容器、フィルム、配管。柔軟で耐候性がある。
- PS(ポリスチレン):透明で硬いが脆い。食品トレーや雑貨。
- ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン):剛性、耐衝撃性、外観のバランスが良い。家電筐体の定番。
- PMMA(アクリル):極めて高い透明性と耐候性。
- PVC(塩ビ):耐薬、難燃、安価。パイプや建材。
主な用途
日用品、包装資材、家電製品の外装・内装、自動車の内装トリムなど、過度な熱や荷重がかからない部分に広く使用されます。
汎用プラスチックの詳細な特徴や選定ポイントについては、以下の記事で解説しています。
汎用プラスチックとは?種類・特徴・代表材料と用途をわかりやすく解説
エンプラ(エンジニアリングプラスチック)
定義と特徴
エンプラ(エンジニアリングプラスチック)とは、「構造用材料として使用できる強度と耐熱性を持つプラスチック」の総称です。
一般的に「耐熱性が100℃以上あり、強度が50MPa以上」といった基準が目安とされます。汎用プラスチックでは耐えられない高温環境や、金属代替としての強度が求められる機械部品に使用されます。
代表的な材料
- PA(ポリアミド/ナイロン):強靭で耐熱・耐油性に優れる。自動車エンジン周辺や機構部品。
- POM(ポリアセタール):自己潤滑性と耐疲労性に優れる。ギアや軸受などの摺動部品。
- PC(ポリカーボネート):透明で、最高の耐衝撃性を持つ。スマホ筐体やカーポート。
- PBT(ポリブチレンテレフタレート):電気特性と寸法安定性が良い。車載コネクタ。
- 変性PPE:難燃、低吸水。OA機器内部シャーシや水回り部品。
主な用途
自動車の機能部品、電気・電子部品のコネクタやスイッチ、プリンターやロボットのギアなど、信頼性が求められる工業製品の中核を担います。
エンプラの種類や特性についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
エンプラとは?種類・特徴・代表材料と用途をわかりやすく解説
スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)
定義と特徴
スーパーエンプラとは、エンプラを凌駕する性能を持つ特殊材料群です。
一般的に「連続使用温度が150℃以上」という極めて高い耐熱性を持ち、中には260℃以上の環境でも使用できるものもあります。耐薬品性や難燃性も最高レベルですが、材料価格も汎用プラスチックの数十倍になることが珍しくありません。
代表的な材料
- PEEK(ポリエーテルエーテルケトン):耐熱、強度、耐薬すべてが最高峰。半導体・航空宇宙。
- PPS(ポリフェニレンサルファイド):耐熱200℃超、耐薬品性、難燃性。自動車電装、水回り。
- LCP(液晶ポリマー):超薄肉流動性、低線膨張。スマホ等の微細コネクタ。
- PEI / PES / PSU:透明性と耐熱性、耐スチーム性を併せ持つ。医療機器、航空機内装。
主な用途
半導体製造装置の部品、医療機器(滅菌対応)、航空宇宙部品、自動車のエンジン直近部品など、金属やセラミックスの代替として「ここぞ」という箇所に使われます。
スーパーエンプラの種類や選定基準については、以下の記事で深掘りしています。
スーパーエンプラとは?種類・特徴・代表材料と用途をわかりやすく解説
設計者が理解すべき材料分類の意味
ここまで解説した「汎用プラ」、「エンプラ」、「スーパーエンプラ」という分類は、単なる学術的な区分けではありません。設計者が実務で材料を選定する際の「コストと性能の相場観(バランスシート)」そのものです。
私が長年材料選定のアドバイスをしてきた中で、この分類を理解することは以下のような設計判断に直結すると感じています。
要求仕様とコストの適正化
「この部品は80℃の環境で使用される」という仕様があった場合、分類図が頭にあれば、「まずは安価な汎用プラ(耐熱グレードのPPやABS)でいけるか検討し、ダメならエンプラ(PCやPA)へ」という段階的な検討が可能です。
いきなりスーパーエンプラを選べば性能は満たしますが、コスト過剰になります。逆に150℃の環境なら、迷わずスーパーエンプラ(PPSなど)の領域から探すことで、手戻りを防げます。
リスクの予測
「エンプラ」に分類される材料の多くは、強度が高い反面、吸水による寸法変化(PAなど)や、残留応力による割れ(PCなど)といった固有のクセを持っています。
一方、「汎用プラスチック」は成形しやすい反面、クリープ(長期荷重による変形)には弱い傾向があります。
分類を知ることは、その材料群が持つ「一般的な弱点やリスク」を事前に予測し、設計マージンを確保することにつながります。
適材適所のマッピング
設計図面の部品表を眺めたとき、全ての部品が同じような材料になっていませんか?
- 外装カバー(意匠・コスト) → 汎用プラスチック(ABS, PC/ABS)
- 内部ギア・軸受(摺動・強度) → エンプラ(POM, PA)
- 電源周辺・センサー部(高耐熱・絶縁) → スーパーエンプラ(PPS, LCP)
このように、部品の機能に応じて適切な階層の材料を割り当てることが、優れた製品設計の定石です。
まとめ
プラスチック材料の分類は、製品開発における羅針盤のようなものです。
- プラスチックは大きく「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」に分かれ、射出成形では熱可塑性が主流。
- 熱可塑性樹脂は性能とコストに応じて3階層に分類される。
◦汎用プラスチック:低コスト、量産性、一般用途。
◦エンプラ:高強度、耐熱100℃以上、工業用構造部品。
◦スーパーエンプラ:超耐熱150℃以上、特殊環境、高信頼性部品。
設計者は、これら材料の立ち位置を理解し、要求される「耐熱」、「強度」、「コスト」、「信頼性」のバランスに合わせて、最適な階層から材料を選定する必要があります。
次回の記事では、射出成形の主役である「熱可塑性樹脂」について、さらに一歩踏み込んで、「結晶性樹脂」と「非晶性樹脂」の違いや、成形性に関わる特性について詳しく解説します。

