技術コラム

PEI(ウルテム)はなぜ選ばれる?特性と成形ノウハウを徹底解説

PEI(ウルテム)はなぜ選ばれる?特性と成形ノウハウを徹底解説

射出成形の専門メーカーとして長年の経験を持つ当社が、非晶性スーパーエンプラの中でも優れた特性を持つPEIの可能性と、その加工技術について解説します。PEI(ポリエーテルイミド)は、高温環境や過酷な条件下でも安定した性能を発揮する高機能素材です。近年、医療、航空宇宙、食品機械など様々な分野での金属代替材料として注目を集めています。

射出成形メーカーから見たPEIの魅力

当社では様々な高機能プラスチックを扱ってきましたが、PEIは非晶性スーパーエンプラとして特筆すべき特性を持っています。特に、高温・高湿環境での使用や、滅菌が必要とされる用途において優位性を発揮します。

優れた耐熱性と寸法安定性

PEIのガラス転移温度は約217°Cと非常に高く、連続使用温度も170°C前後を維持できます。私たちが製造する部品においても、高温環境下での寸法安定性は極めて重要です。広い温度範囲で機械的性質が安定しているため、精密部品や高温環境で使用される部品において高い信頼性を提供できます。

卓越した耐薬品性と耐加水分解性

当社のお客様の中には、化学薬品を扱う環境や滅菌処理が必要な医療分野で使用される部品を求められる方も多くいらっしゃいます。PEIは多くの酸・アルカリに対して優れた耐性を示し、特に耐加水分解性においては他の樹脂と比較しても優位性があります。沸騰水中1,000時間浸漬後でも引張強度の保持率が高いため、熱水や高温蒸気に晒される食品機械や医療機器において安定した性能を発揮します。

機械的強度と剛性

PEIは優れた機械的強度と剛性を持ち、スーパーエンプラの中でも優れた特性を発揮します。薄肉でも高い強度と耐久性を維持できるため、軽量化が求められる航空宇宙部品や構造部材にも適しています。また、比重が比較的軽量(非強化グレードで1.27)であるため、材料使用量の低減と製品の軽量化を同時に実現できる点もメリットです。

難燃性と安全性

PEIは自然に難燃性を持つ材料で、燃えても発煙量が少なく有毒ガスを発生しないという特徴があります。航空機内装部品や公共交通機関など、火災リスクが高い環境での安全性確保に貢献します。さらに、燃焼させても発煙量が少ないため、安全基準の厳しい分野においても優れた選択肢となります。

PEIの化学的背景と特性

分子構造と基本情報

PEI(ポリエーテルイミド)は、イミド結合とエーテル結合を組み合わせた高性能非晶性熱可塑性樹脂です。1972年に米国GE社により開発され、1982年に工業生産が始まりました。現在はSABIC社がULTEM™ブランドで生産しています。分子構造を詳しく見ると、PEIは芳香族イミド結合とエーテル結合が組み合わさっています。芳香族イミド結合が剛性と耐熱性を提供し、エーテル結合が加工性を向上させるという特徴があります。この分子構造により、高温での機械的特性維持と加工性という、相反する特性のバランスを実現しています。

非晶性構造の影響

PEIは非晶性の高分子であり、これが透明性の高さや寸法安定性の良さにつながっています。一般グレードの外観は琥珀色で透明度があり、光学的用途にも対応できます。また、非晶性構造は広い温度範囲での安定した性能発揮に寄与していますが、同時にノッチ感度の高さ(衝撃に対する弱さ)や耐摩耗性の低さといった特性も生み出しています。当社では、これらの特性を考慮した製品設計と加工条件の最適化により、PEIの長所を最大限に活かした成形品を提供しています。

電気特性と透明性

PEIは広範囲の周波域と温度帯で安定した電気絶縁性を発揮します。このため、電子部品の絶縁体や、高温環境下で使用される電気部品に適しています。また、自然な透明性と良好な着色性を持ち、光学用途やデザイン性を要する部品にも対応可能です。さらに、めっき性にも優れており、金属製の外観部品の樹脂化にも適しています。

PEI成形における技術課題と当社のソリューション

高温処理の技術的課題

PEIの射出成形における最大の課題は、その高い加工温度です。一般的に加熱筒温度は360°C~400°Cの範囲で設定する必要があり、特殊な設備と技術が要求されます。また、樹脂の特性として加熱筒内での滞留時間が長くなると焼けや炭化が発生するリスクがあります。当社では、スーパーエンプラ専用の高温仕様の射出成形機を導入し、最適な温度プロファイルを構築することで安定した成形を実現しています。滞留時間の厳密な管理と温度制御により、材料劣化を防ぎながら高品質な成形を可能にしています。

金型設計の重要性

PEIの成形では、金型設計が製品品質を大きく左右します。当社の金型設計では以下の点に特に注意を払っています。

・高温に対応する金型材料と表面処理

・残留応力を最小限に抑えるための均一な冷却システム

・適切なゲート設計(ピンポイントゲート、潜在ゲートなどを使用)

・エッジ部に十分なR(丸み)を付けたクラック防止設計

特に、ゲートサイズは製品の大きさと壁の厚さに応じて設計し、一般的なゲート直径は0.8~2mmで設定します。これにより、材料が金型キャビティに均一に流れ込み、溶接跡の発生が減り、製品の外観品質と強度が向上します。

成形収縮と寸法精度の確保

PEIは非晶性樹脂であり、結晶性樹脂と比較して成形収縮率は低いものの、金型温度や冷却条件により寸法精度が変動します。当社では製品ごとに最適な金型温度(通常90°C~150°C)を設定し、安定した寸法精度を確保しています。特に偏肉が大きい形状の製品や、バランスの良いゲート設置が難しい製品では、成形後のアニール処理を適切な温度と時間で行うことで残留応力を緩和し、ソルベントクラックの発生を防止しています。

原料管理と前処理

PEIは吸湿性が低い材料ではありますが、射出成形前に適切な乾燥が必要です。通常、140~150°Cで4~6時間乾燥させ、水分含有量を0.02%以下に制御します。適切な乾燥処理を怠ると、成形時に水分が加水分解を引き起こし、気泡や表面欠陥などの品質問題を生じる可能性があります。当社では、原料の受入れから成形までの一貫した品質管理体制を構築し、特に乾燥工程の管理を徹底することで高品質なPEI成形品を安定して提供しています。

産業界におけるPEIの応用事例

医療機器分野での活用

PEIは高温滅菌や放射線滅菌に対する優れた耐性を持ち、医療機器分野で広く採用されています。医療用途向けの専用グレードがHUシリーズとして豊富にラインナップされています。滅菌トレーやアニマルケージなどの用途において、グローバルで多くの採用実績を誇っています。近年のトレンドとして、UV-Cの波長領域を用いた殺菌・滅菌技術が注目されていますが、PEIはUV-C照射下でも変色が少なく機械強度の保持力に優れているため、関連機器の構造部品としても採用が進んでいます。

航空宇宙産業での実装

航空宇宙分野では、PEIの耐高温性と機械的強度、そして何より難燃性が高く評価されています。コンプレッサーブレードなどの航空機エンジン部品、また難燃性と軽量性が不可欠な機内オーディオシステムや座席部品などの内装部品に使用されています。航空機産業では、燃費効率向上のための軽量化が永遠のテーマです。PEIは金属に比べて大幅な軽量化を実現しながら、高温環境下での機械的強度も確保できるため、様々な部品で金属からの置き換えが進んでいます。

食品機械・フードコンタクト分野

PEIは他の樹脂と比較して優れた耐加水分解性を示すため、食品機械やコーヒーマシンの抽出部品など熱水や高温の蒸気に晒される用途に適しています。洗浄・殺菌に使われる薬品に対する耐性も高く、オイルを多く含んだトマトソースやBBQソースなどシミがつきやすい食材からの防汚性も優れています。世界的にヒット商品となったスロージューサーのスクリューにも採用され、話題を集めました。当社ではお客様のご要望に応じてFDA準拠グレードやペレット選別(成形品の黒点の原因となる異物の除去)も提案し、食品安全基準に適合した高品質な部品を提供しています。

自動車産業での採用

自動車業界では、耐熱性や電気的特性、耐候性、難燃性といった機械的性質を活かし、エンジン部品やキャブレーター部品、電気電子半導体関連部品に採用されています。特に高温となるエンジン周りの部品において、PEIの耐熱性と寸法安定性は大きな優位性となっています。また、自動車の電動化が進む中、バッテリー周辺部品やモーター関連部品など、高温環境で使用される部品においてもPEIの採用が拡大しています。

当社のPEI成形における強み

製品・金型デザインに関するノウハウ

当社はスーパーエンプラの加工に豊富な実績を持ち、PEIの成形においても独自のノウハウを蓄積しています。PEIは残留応力が発生しやすく、成形後にクラックが発生するリスクが高い材料です。製品デザインの際にはこの特性を踏まえ、エッジを極力避けた形状を提案しています。金型デザインにおいては、溶融粘度の低い原料に合ったベントの設置、微細な形状部分における入れ子設置など、成形歪が少なくなるよう配慮した設計を行っています。これにより、高品質かつ安定したPEI成形品の提供を実現しています。

最適な成形条件の設定

PEIの成形においては、適切な温度管理が非常に重要です。当社では製品形状に応じた最適な加熱筒温度(360℃~400℃)と金型温度(90℃~150℃)を設定し、残留応力を最小限に抑えた成形を実現しています。特に金型温度は製品の品質に大きく影響します。温度設定が適切でないと、成形時の残留応力によるソルベントクラックが使用時に発生する可能性があるため、製品形状に合わせた最適な温度管理を行っています。

アニール処理のノウハウ

偏肉が大きい形状の製品や、バランスの良いゲート設置が難しい製品では、成形後の残留応力が大きくなりがちです。当社では、このような製品に対して成形後のアニール処理を適切な温度と時間で実施し、残留応力を緩和することでソルベントクラックの発生を防止しています。処理の効果確認には、1-2ジクロロエタン中への浸透試験を行い、クラック発生までの時間で判断するなど、科学的なアプローチで品質保証を行います。

異物管理と品質保証

PEI成形品、特に光学用途や医療用途では異物混入が大きな品質問題となります。当社では成形前に加熱筒とシリンダーの分解清掃を徹底し、成形時には厳密な温度管理を実施することで、高品質な製品を安定して提供しています。また、FDA準拠グレードの提供やペレット選別など、お客様の用途に応じた原材料の選定と前処理も行っており、食品機械や医療機器向けの高品質PEI部品の製造に対応しています。

PEIと射出成形技術の将来展望

市場拡大と技術進化

SABIC社はシンガポールでPEIの重合プラントの増設を行い、2024年から量産が開始されました。PEIの世界市場は2023-2030年の予測期間中にCAGR 6.2%で成長すると予測されています。特に米国では、自動車、航空宇宙、エレクトロニクス、ヘルスケア産業が大口消費者となっており、これらの分野での需要拡大が見込まれています。技術面では、ナノ複合材料技術の応用や新しいグレードの開発が進んでおり、より幅広い用途への適用が期待されています。当社もこれらの技術動向を注視し、常に最新の材料と成形技術を取り入れています。

コスト効率の向上と生産量増加

生産量が増えれば、固定費をより大きな生産量に分散させることができ、単位当たりのコストを下げる可能性が生まれます。PEIは他のポリイミド材料と比較して低コストで生産効率に優れた材料種ですが、今後さらなるコスト効率の向上が期待されています。当社では、ランナー系の最適設計によるロス削減や、再生材の有効活用など、コスト効率を高める取り組みを継続的に行っています。

持続可能性への貢献

環境規制当局は世界的に環境規範と法律を強化しており、持続可能なソリューションの需要が高まっています。PEIは耐久性に優れ長寿命であるため、製品のライフサイクル全体で見ると環境負荷の低減に貢献します。また、成形工程で発生するランナーやスプルーの再利用も進んでおり、環境に配慮した製造プロセスの構築が進められています。当社もこの流れに沿って、より環境に優しい成形技術の開発に取り組んでいます。

新たな応用分野の開拓

UV-C照射を用いた殺菌・滅菌技術の普及に伴い、PEIを使用した関連機器の需要が拡大しています。また、再生可能エネルギー、水素関連技術、次世代モビリティなど、新たな成長分野においても、PEIの特性を活かした部品開発が期待されています。特に、耐熱性と耐薬品性が求められるクリーンエネルギー分野は、PEIの特性を最大限に活かせる分野として注目されています。

まとめ

PEIは、その優れた耐熱性、機械的強度、耐薬品性、難燃性などの特性から、医療機器、航空宇宙、食品機械、自動車など多くの産業分野で注目を集めています。しかし、その特性を最大限に引き出すためには、適切な製品設計と高度な射出成形技術が不可欠です。当社は、射出成形のスペシャリストとして、PEIの特性を熟知し、最適な成形条件の設定、金型設計、アニール処理など、高品質なPEI成形品を提供するための技術とノウハウを蓄積しています。材料選定から量産までのトータルソリューションを提供し、お客様の製品の高機能化と製造効率向上に貢献します。高性能部品の開発や、金属からのPEIへの置き換えをご検討の際は、ぜひ当社にご相談ください。お客様の課題に最適なソリューションを提案いたします。

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