技術解説

【金属代替の新定番】高剛性・高耐久を実現するガラス長繊維強化樹脂の可能性(前編)

【金属代替の新定番】高剛性・高耐久を実現するガラス長繊維強化樹脂の可能性(前編)

近年、製造業における持続可能性への要求やコスト競争の激化を背景に、製品の軽量化は重要なテーマであり続けています。金属部品から樹脂部品への置き換え、いわゆる「金属代替」は、この軽量化を実現する最も有効な手段の一つです。樹脂化は軽量化に加えて、部品点数の削減、複雑形状の一体成形による加工コストの低減、錆や腐食といった金属特有の問題からの解放、さらには設計自由度の向上といった多岐にわたるメリットをもたらし、製品の付加価値向上に大きく貢献します。

しかし、全ての金属部品を単純に樹脂化できるわけではありません。特に構造部材や高負荷がかかる部品においては、樹脂の機械的強度が課題となるケースが多く見られました。この課題を克服するために開発されたのが繊維強化樹脂であり、中でもガラス繊維で強化された樹脂は、コストと性能のバランスから広く利用されています。

従来、ガラス繊維強化樹脂といえば、数ミリ以下のガラス短繊維(GF: Glass Fiber)を練り込んだものが主流でした。GF強化樹脂は汎用樹脂の強度を一定レベル向上させることができますが、特に高い剛性や耐衝撃性が求められる用途では、金属の特性に及ばない場合がありました。

そこで脚光を浴びているのが、ガラス長繊維強化樹脂(LGF: Long Glass Fiber reinforced thermoplastics)です。LGFは、10mm以上の長いガラス繊維を樹脂ペレット内に含ませた材料であり、成形後も繊維長が比較的長く保たれるため、短繊維強化樹脂では達成が難しかった「高い剛性と優れた耐衝撃性の両立」を実現します。これにより、従来は金属材料に頼らざるを得なかった領域でも、樹脂化の可能性が大きく広がりました。

本コラム前編では、このLGFについて、その基本的な特徴、従来の短繊維強化樹脂との違い、具体的な性能、そして金属材料と比較した場合のメリットや実際の用途例について詳しく解説していきます。LGFが切り拓く、次世代のものづくりの可能性をぜひご覧ください。

ガラス長繊維強化とは?:短繊維との違い

ガラス長繊維強化樹脂(LGF)を理解する上で、まず比較対象となる従来のガラス短繊維強化樹脂(GF)との違いを明確にすることが重要です。両者は同じガラス繊維で強化されていながら、その繊維長の違いによって最終製品の特性に大きな差が生じます。

ガラス短繊維(GF)強化樹脂の特徴と限界

一般的にGF強化樹脂で用いられるガラス短繊維は、長さが数百μmから数mm程度です。これらは樹脂コンパウンドの製造段階で溶融した樹脂と混合され、ペレット化されます。しかし、このコンパウンド製造時や射出成形時のスクリューによる混練、金型内の狭いゲートやランナーを通過する際のせん断力によって、繊維はさらに細かく分断され、最終的な成形品に含まれる繊維長は非常に短くなる傾向があります。

繊維長が短い場合、繊維一本あたりが母材樹脂に伝達できる応力には限界があり、また、繊維同士が物理的に絡み合ってネットワークを形成することも難しくなります。その結果、GF強化樹脂は強度や剛性の向上効果は得られるものの、特に衝撃エネルギーを吸収する能力や、破壊に至るまでの靭性(ねばり強さ)の向上には限界がありました。つまり、剛性を高めようと繊維含有量を増やすと、脆くなりやすいというトレードオフが生じることがあります。

ガラス長繊維(LGF)強化樹脂の特徴

一方、LGF強化樹脂は、その名の通り、10mm以上(一般的には10mm~25mm程度)の長いガラス繊維が使用されます。製造方法もGF強化樹脂とは異なり、引き抜き成形法(Pultrusion)などを用いて、連続したガラス繊維の束(ロービング)に溶融樹脂を含浸させ、ペレット状にカットして製造されます。この製法により、ペレットの長さとほぼ同じ長さのガラス繊維が、ペレット内で平行に引き揃えられた状態で含まれることになります。

重要なのは、この長い繊維長が射出成形後もある程度維持される点です。もちろん、成形プロセス中に若干の繊維折損は避けられませんが、適切な成形条件と金型設計を用いることで、成形品内部に比較的長い繊維からなる三次元的な骨格構造(スケルトン構造)を形成させることが可能です。

長繊維による効果

LGFによってもたらされる主な効果は以下の通りです。

⓵ 高剛性・高強度

繊維長が長いほど、一本の繊維が負担できる荷重が大きくなり、母材樹脂への応力伝達効率も向上します。また、繊維同士が複雑に絡み合い、強固なネットワークを形成することで、樹脂全体の剛性(変形しにくさ)と強度(破壊しにくさ)が大幅に向上します。特に曲げ強度や引張強度において、短繊維強化樹脂と比較して顕著な差が見られます。

② 優れた耐衝撃性

LGFの最も際立った特徴の一つが、高い耐衝撃性です。成形品内部で長い繊維が絡み合ったネットワーク構造を形成するため、外部から衝撃エネルギーが加わった際に、そのエネルギーを広範囲に分散・吸収する能力に長けています。これにより、製品が衝撃を受けても破壊しにくく、万が一破壊に至る場合でも、亀裂が一気に進展する脆性的な破壊ではなく、繊維が引き抜かれるような延性的な挙動を示す傾向があります。

③ クラック進展の抑制

製品に微小なクラック(亀裂)が発生した場合でも、長い繊維がブリッジ(架橋)となってクラックの先端にかかる応力を緩和し、クラックの進展を遅らせる効果があります。これにより、製品の耐久性や信頼性が向上します。

④ 優れたクリープ特性

クリープとは、一定の荷重が長時間加わり続けると、時間の経過とともにひずみが徐々に増大していく現象です。LGFは繊維による強固な骨格構造により、このクリープ変形が抑制されます。これは、特に長期間にわたって荷重がかかる構造部材や、寸法安定性が求められる部品において非常に有利な特性です。

⑤ その他

上記に加え、LGFは母材樹脂が持つ特性(例えばPPなら軽量性・耐薬品性、PAなら耐熱性・機械特性など)をベースに、金属に匹敵するような機械性能を付与することができます。それでいて、樹脂本来のメリットである軽量性(金属の数分の一)、成形加工性の良さ、非腐食性、電気絶縁性なども併せ持ちます。これにより、従来は金属でしか対応できなかった用途への展開が可能になります。

このように、LGFは繊維長というシンプルな違いから、GF強化樹脂とは一線を画す優れた機械的特性を発現し、金属代替材料としての大きな可能性を秘めているのです。

LGFグレードの性能とメリット

LGFのポテンシャルは、具体的な物性値で比較することでより明確になります。ここでは、同一の母材樹脂を用いた場合の短繊維強化グレード(GF30:ガラス繊維30wt%含有)と長繊維強化グレード(LGF30:ガラス長繊維30wt%含有)の物性比較、そして代表的な金属材料との比較を通じて、LGFの性能的メリットを掘り下げます。

短繊維強化樹脂(GF)と長繊維強化樹脂(LGF)の物性比較

一般的に、同じ母材樹脂、同じガラス繊維含有量であっても、GFグレードとLGFグレードでは機械的物性に大きな違いが見られます。以下に代表的な物性項目における傾向を示します(数値は母材樹脂により変動するため、あくまで傾向としてご理解ください)。

物性項目GF30%LGF30%LGFの優位性
引張強度(Mpa)△~〇大幅に向上(例:20~50%向上)
曲げ強度(Mpa)△~〇大幅に向上(例:20~50%向上)
曲げ弾性率(Gpa)向上(例:10~30%向上)
アイゾッド衝撃強さ(kJ/㎡)◎◎劇的に向上(例:数倍以上)
クリープ特性〇~◎改善
疲労特性〇~◎改善
線膨張係数同等~やや改善

※上記は一般的な傾向であり、実際の数値は母材樹脂の種類、繊維の太さや表面処理、成形条件などによって大きく変動します。

この表からも明らかなように、LGFグレードは特に引張強度、曲げ強度、そして衝撃強さにおいて、GFグレードを大幅に凌駕します。衝撃強さに関しては、数倍から時には10倍以上の差が生じることもあり、これはLGFの最大の特長と言えるでしょう。剛性の指標である曲げ弾性率も向上しますが、強度や衝撃性ほどの劇的な差ではない場合もあります。しかし、荷重に対する変形のしにくさも確実に向上します。

また、長期的な信頼性に関わるクリープ特性や疲労特性においても、LGFはGFよりも優れた性能を示す傾向があります。これは、長時間あるいは繰り返し荷重がかかるような用途において、LGFがより高い耐久性を発揮することを示唆しています。

金属材料との比較

LGFの真価は、金属材料と比較した際に一層明らかになります。ダイカストで多用されるアルミニウム合金(例:ADC12)や亜鉛合金(例:ZDC2)と比較してみましょう。

材料比重(ℊ/㎤)引張強度(MPs)曲げ弾性率(Gpa)特徴
アルミニウム(ADC12)約2.7約310約71軽量、高強度、良好な熱伝性、耐食性
亜鉛合金(ZDC2)約6.7約280約80-90高強度、寸法精度、薄肉成形性、めっき性良好、重量大
LGF PA66(30%)約1.3~1.4約180-220約10-15軽量、高強度、高衝撃性、絶縁性、設計自由度大、低コスト成形
LGF PP(30%)約1.1~1.2約100-140約7-10最軽量、耐薬品性、良好な衝撃性、低コスト

※LGFの物性値は代表的なものであり、グレードや成形条件により変動します。

まず注目すべきは比重です。LGF PA66やLGF PPは、アルミニウム合金の約1/2、亜鉛合金に至っては約1/5~1/6という圧倒的な軽量性を誇ります。製品重量が直接的に燃費や運搬コスト、取り扱いやすさに影響する分野において、この軽量化効果は計り知れません。

絶対的な強度や剛性では金属に及ばないものの、LGFは「比強度(強度/比重)」や「比弾性率(弾性率/比重)」で見た場合には、金属に迫る、あるいは用途によっては凌駕するケースも出てきます。例えば、同じ強度を達成するのに必要な部材重量がLGFの方が軽くなる可能性があるのです。特に、衝撃的な負荷がかかる用途や、ある程度の変形許容性が求められる用途では、LGFの靭性が活きてきます。

当社におけるLGF材料選定ノウハウ

LGFの母材樹脂には、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド、ナイロン)など、様々なものが利用可能です。要求される耐熱性、耐薬品性、機械特性、コストなどに応じて最適な母材樹脂を選択する必要があります。

特に当社では、耐熱性、機械強度、寸法安定性に優れた半芳香族PA(ポリアミド)を母材とするLGFグレードをお勧めしています。半芳香族PAは、汎用PAと比較して、

– 高温環境下での強度・剛性維持率が高い

– 吸水率が低く、吸水による寸法変化や物性低下が少ない

– 耐薬品性(特に油脂やクーラント液など)に優れる
といった特徴があり、より過酷な環境下での金属代替を実現します。

これらの材料特性を深く理解し、材料メーカーとの連携に基づいて蓄積された材料選定ノウハウが当社の強みです。市場には多種多様なLGFグレードが存在しますが、カタログスペックだけでは見えてこない「実際の使い勝手」や「特定の用途への適性」があります。例えば、同じLGF30のPA66でも、グレードによって、反りの出やすさやウェルド強度、流動性が微妙に異なります。当社は、こうした使い分けや適性判断について実践的な知見を有しており、お客様の要求仕様に最適なLGFグレードを提案することが可能です。

金属代替における用途例

ガラス長繊維強化樹脂(LGF)はその優れた特性から、従来金属が用いられてきた様々な構造部品や機能部品において、軽量化、コストダウン、耐久性向上などを目的とした代替材料としての適用が多岐にわたる分野で検討・採用されています。例えば、高い機械的強度が求められる産業機器のフレームやブラケット、耐薬品性が要求される流体制御機器の部品、そして絶縁性と強度の両立が不可欠な電気・制御関連部品など、LGFはそのポテンシャルを発揮し始めています。

これらの分野では、短繊維強化樹脂では強度や耐久性が不足し、一方で金属材料では重量、コスト、腐食、あるいは複雑形状の加工性といった課題がありました。LGFは、まさにこれらの課題を克服し、製品の高性能化や新たな付加価値創造に貢献する材料として期待されています。

具体的な用途や採用事例は、要求される性能や使用環境、コスト目標などに応じて千差万別です。重要なのは、LGFの特性を深く理解し、そのメリットを最大限に引き出す設計と製造ノウハウを適用することです。当社では、お客様の具体的な課題やニーズをお伺いした上で、最適なLGF材料の選定から製品化までをサポートし、金属代替の可能性を追求いたします。

ここまで、ガラス長繊維強化樹脂(LGF)の基本的な特性、短繊維強化樹脂との違い、具体的な性能メリット、そして様々な産業分野での金属代替用途の可能性について解説してきました。LGFが持つ高いポテンシャルをご理解いただけたかと思います。

しかし、この優れた材料も、その性能を最大限に引き出すためには、設計や成形においていくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。後編では、LGFを実際に使用する上での設計・成形時の注意点、そして当社が有する独自の技術体制や顧客サポートについて、より詳しくご紹介します。 金属代替を成功させるための具体的なノウハウにご期待ください。

本コラムの内容は、執筆時点での情報に基づいております。当社は本コラムの内容の正確性、完全性について保証するものではなく、本コラムの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。読者の皆様におかれましては、具体的な材料選定に際しては当社までお問合せをお願い致します。

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