技術解説

射出成形部品設計者のための金型完全解説(第3回):金型が泣く設計?リブ・ボス・アンダーカットの正解

射出成形部品設計者のための金型完全解説(第3回):金型が泣く設計?リブ・ボス・アンダーカットの正解

前回の第2回では、射出成形部品の設計において基本となる肉厚設計と抜き勾配の重要性について解説しました。製品設計の初期段階からこれらの要素を金型視点で考慮することが、いかに重要であるかをご理解いただけたかと思います。本シリーズ「射出成形部品設計者のための金型完全解説」の第3回となる今回は、さらに一歩進んで、製品の細部形状であるリブやボス、コーナーRの設計、そして金型構造に大きな影響を与えるアンダーカット形状への対応について、具体的なポイントを掘り下げていきます。これらの細部への配慮が、製品の機能性向上と、金型製作の合理化、さらには安定した成形品質の実現に繋がります。

細部形状設計のポイント

製品の強度を確保したり、他の部品との組み立てを容易にしたりするために、様々な細部形状が設計に盛り込まれます。しかし、これらの形状もまた、金型での成形しやすさや品質に大きな影響を与えるため、慎重な設計が求められます。

リブとボスの効果的な設計:強度向上と成形性両立の技術(ヒケ対策を含む)

「リブ」は、製品の特定部分の強度や剛性を高める目的で設けられる、薄い板状の補強構造です。一方、「ボス」は、主にネジ止めを行うための下穴として、あるいは他の部品との位置決めや嵌合(かんごう)のために設けられる円筒状の突起です。これらのリブやボスを効果的に設計することで、製品全体の肉厚を不必要に厚くすることなく、軽量化を図りつつ必要な強度や機能を確保することが可能になります。しかしながら、その設計にはいくつかの重要な注意点が存在し、特に「ヒケ」と呼ばれる成形不良を防ぐための配慮が不可欠です。

まずリブの設計においては、その厚みが重要なポイントとなります。一般的に、リブの厚みは、それが接合する母材(製品本体の肉厚)の50%から70%程度に抑えることが推奨されます。リブが母材に対して厚すぎると、その部分の樹脂量が多くなり冷却に時間がかかり、結果として顕著なヒケの原因となりやすいのです。逆に、リブが薄すぎると、期待される十分な補強効果が得られません。リブの高さについては、母材の肉厚の3倍以下を目安とします。リブが高すぎると、溶融樹脂がリブの先端まで充填されにくくなる充填不良や、リブの先端部分にガスが溜まってしまうガス溜まりを引き起こしやすくなります。また、抜き勾配の確保も難しくなるなどの問題が生じやすくなります。リブ同士を複数配置する場合には、その間隔はリブの厚みの2倍以上を確保することが望ましいとされています。間隔が狭すぎると、樹脂の流れが悪くなったり、金型でその部分を加工すること自体が困難になったりする可能性があります。もちろん、リブの側面にも、第2回で解説した抜き勾配を必ず設ける必要があります。そして、リブと母材が接合する部分、つまりリブの根元には、応力集中を緩和し、樹脂の流れをスムーズにするために、適切なR(フィレット、丸み)を設けることが肝心です。このRの半径は、リブ厚の25%から50%程度が目安となります。

次にボスの設計においては、ヒケ対策が特に重要になります。ボスの壁厚は、周囲の母材肉厚の60%程度以下に抑えることが、ヒケを防ぐための基本的な考え方です。ボス部分の肉厚が周囲に比べて厚いと、そこがヒケの発生源となるためです。必要に応じて、ボスの中心部に「肉盗み」と呼ばれる空洞を設ける(つまりボスを中空にする)ことも、ヒケ対策として非常に有効な手段です。ボスの高さは、その外径の3倍以下程度を目安とします。ボスが高すぎると、成形時に溶融樹脂の圧力で倒れやすくなったり、樹脂の充填が先端まで届きにくくなったりする可能性があります。ボスの内外壁にも、他の立ち壁と同様に抜き勾配を設けることが必要です。また、ボスの根元にも適切なRを設け、強度を確保するとともに応力集中を避けます。ボスを製品の端や角といった位置に配置する際には、その部分に樹脂の合流線であるウェルドラインが発生しやすく、強度が低下する可能性があることを考慮し、必要であれば「ガセット」と呼ばれる補強用の小さな三角リブをボスの根元に追加するなどの対策を検討することが望ましいでしょう。

リブやボスは、その配置や形状によって、金型内での溶融樹脂の流動パターンやウェルドラインの発生位置にも影響を与えます。そのため、可能であればCAE(Computer Aided Engineering)による樹脂流動解析などを活用して、設計段階で事前にその影響を検証することが、より高品質な製品開発に繋がります。

コーナーRの重要性:応力集中緩和と樹脂流動性向上

製品の角部、すなわちコーナー部分をシャープエッジ(鋭角、ピン角とも言います)のままにしておくと、製品の強度や成形性において様々な問題を引き起こす可能性があります。そのため、製品の内外のコーナーには、適切な「R(丸み)」を設けることが強く推奨されます。このコーナーRの付与は、いくつかの重要なメリットをもたらします。

第一に、応力集中の緩和です。シャープエッジは、外部からの力や成形時に発生する内部応力が集中しやすい箇所となります。これが、製品使用時のクラック(亀裂)や破損の起点となり得るのです。コーナーに適切なRを設けることで、応力を分散させ、製品の機械的な耐久性を大幅に向上させることができます。特に衝撃が加わる可能性のある部品や、繰り返し荷重がかかる部品では、この応力集中の緩和は非常に重要です。

第二に、樹脂流動性の向上です。金型キャビティ内に射出された溶融プラスチック樹脂は、液体のように振る舞いますが、シャープな角部をスムーズに流れにくい性質があります。角が鋭いと、そこで樹脂の流れが滞ったり、乱れたりしやすく、これが充填不良やフローマーク(樹脂が流れた跡が模様として残る現象)、あるいはジェットティング(樹脂が蛇行しながら細く充填される現象)といった成形不良の原因となることがあります。コーナーRは、樹脂の流れを円滑にし、キャビティ内での均一な充填を助ける役割を果たします。

さらに、コーナーRは金型製作とその寿命にも良い影響を与えます。金型において、シャープなエッジ形状を精密に加工することは難しく、また、その部分は金型の使用中に欠けや摩耗が生じやすい箇所でもあります。金型側にRを設ける(つまり製品のコーナーにRが付くようにする)ことで、金型加工時の工具負荷を軽減し、加工精度を高め、結果として金型の耐久性を向上させる効果も期待できます。

一般的に、内R、すなわち凹んだコーナーのRの推奨値は、その部分の肉厚の0.5倍以上とされています。一方、外R、つまり凸形状のコーナーのRは、内Rにその部分の肉厚を加えた値、具体的には肉厚の1.5倍以上が目安とされます。もちろん、製品の機能や外観デザインを損なわない範囲で設定する必要がありますが、可能な限り大きなRを設けることが、より良い製品設計と、それに伴う金型設計の安定化に繋がると言えるでしょう。

アンダーカット形状への対応

射出成形部品の設計において、金型構造を複雑化させる大きな要因の一つが「アンダーカット」形状です。ここでは、アンダーカットとは何か、そしてそれに対応するための代表的な金型機構と設計上の配慮について解説します。

アンダーカットとは何か、金型構造への影響

「アンダーカット」とは、金型の基本的な開閉方向(通常は射出成形機の型開閉と同じ方向、多くは上下方向)だけでは、金型から製品を取り出すことができないような凹凸形状や横方向の穴、内側に食い込んだ形状などの部分を指します。例えば、製品の側面に設けられた横穴やフック、内側にリブやボスが回り込んでいる形状などがこれに該当します。

製品設計にアンダーカット形状が存在すると、それを成形し、かつ金型からスムーズに離型させるために、金型に特殊な機構を組み込む必要が生じます。この特殊機構は、金型の部品点数を増やし、構造を複雑化させ、可動部が増えることによるメンテナンスの頻度上昇や故障リスクの増加、そして何よりも金型製作コストの大幅な上昇を招きます。また、金型全体のサイズも大きくなる傾向があり、使用できる射出成形機の選択肢が限られる可能性も出てきます。

したがって、部品設計者は、まずアンダーカット形状が必要な場合、その形状が製品の機能やデザインにとって本当に不可欠なものなのかを慎重に再検討すべきです。デザイン変更や、製品を複数の部品に分割してそれぞれをシンプルな形状で成形し後で組み立てる構造にすることで、アンダーカット形状そのものを回避できないかを検討することが、金型コストを抑え、生産性を高めるための第一歩となります。

代表的なアンダーカット処理機構の概要と設計上の配慮

どうしてもアンダーカット形状が必要な場合、金型にはそれを処理するための機構が組み込まれます。代表的なものには以下のようなものがあります。

① スライドコア(置き駒、横コアとも呼ばれます)
これは、アンダーカット部を成形するための可動式のコア(駒)を金型内に設け、金型の開閉動作と連動して、横方向や斜め方向にスライドさせることでアンダーカット部をかわし、製品を取り出せるようにする機構です。最も一般的に用いられるアンダーカット処理方法であり、比較的大きなアンダーカットや複雑な形状にも対応できます。スライドコアを駆動させる方法としては、金型の開閉力を利用するアンギュラピン方式や、油圧・空圧シリンダーを用いる方式などがあります。設計者は、スライドコアがスムーズに動作するためのスペースや、スライドコアの分割ラインが製品外観に影響しないかなどを考慮する必要があります。

② 傾斜ピン(アンギュラピン)
これは、スライドコアを駆動させるための一つの方法で、金型の可動側または固定側に斜めに配置されたピン(アンギュラピン)が、金型の開閉動作に伴ってスライドコアを押し引きするものです。比較的簡単な構造で小さなストロークのスライドコアを動かすのに適しています。ピンの角度や長さによってスライドストロークが決まります。

③ 無理抜き(強制突き出し)
これは、樹脂の持つ弾性を利用して、比較的浅いアンダーカットであれば、金型から製品を強制的に引き抜く(突き出す)ことで離型させる方法です。金型構造はシンプルにできますが、製品に変形や白化(樹脂が伸びて白っぽくなる現象)、あるいは傷が生じるリスクがあります。適用できるかどうかは、使用する樹脂の種類(弾性が高いPPやPEなどは比較的向いています)、製品形状、アンダーカットの深さや形状などを慎重に検討する必要があります。抜き勾配を通常よりも大きく取ったり、アンダーカット部のエッジを丸めたりする工夫も有効です。

④ 置きコア(ルーズコア)
これは、アンダーカット部を形成する別部品のコア(置きコア、ルーズピースとも呼ばれます)を、成形サイクルごとに毎回金型に手作業または自動でセットし、成形後に製品と一緒に金型から取り出し、その後、製品からその置きコアを抜き取るという方法です。非常に複雑な内部形状や、スライドコアでは処理できないようなアンダーカットにも対応できますが、成形サイクルタイムが長くなり、人手もかかるため、大量生産には不向きな場合があります。置きコアの紛失や破損、セットミスなどにも注意が必要です。

これらのアンダーカット処理機構を採用する場合、部品設計者は、その機構が製品形状に与える影響(例えば、スライドコアの合わせ目にパーティングラインのような線が入るなど)や、金型コストへの影響、成形サイクルへの影響などを金型メーカーと十分に協議し、理解しておくことが重要です。可能な限りシンプルな処理方法を選択することが、トータルコストの削減と安定生産に繋がります。

まとめ(第3回)

今回は、「射出成形部品設計者のための金型完全解説」シリーズの第3回として、製品の細部形状であるリブやボス、コーナーRの設計上の注意点、そして金型構造に大きな影響を与えるアンダーカット形状への対応について、具体的なポイントを解説しました。これらの細部設計への配慮が、製品の品質と機能性を高めると同時に、金型製作の合理化と安定した量産を実現するための鍵となります。

次回、第4回では、金型そのものの基本的な構造(2プレート構造と3プレート構造、パーティングラインなど)や、樹脂をキャビティへ導くためのランナーシステム、そして金型温度をコントロールする重要性について解説を進めていきます。製品設計と金型構造の関連性をより深く理解するための一助となれば幸いです。

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