技術解説

POM(ポリアセタール)の用途と選び方 ─ 耐摩-耗性・寸法安定性が活きる設計事例 

POM(ポリアセタール)の用途と選び方 ─ 耐摩-耗性・寸法安定性が活きる設計事例 

POM(ポリアセタール)が多様な分野で採用される理由は、その卓越した物性バランスにあります。高い機械的強度、自己潤滑性による優れた耐摩耗性、そして吸水率が低いための寸法安定性といった特性は、金属材料からの代替を可能にし、製品の軽量化や高性能化に貢献しています。  
しかし、一口にPOMと言っても、その種類は多岐にわたります。ホモポリマーとコポリマーという基本的な分類に加え、摺動性や強度をさらに高めた特殊グレードも数多く存在します。製品に求められる性能を最大限に引き出すためには、数ある選択肢の中から用途に最適な材料を選定することが不可欠です。本コラムでは、府中プラがPOMの主要な用途分野を紹介するとともに、性能要求に応じた適切な選び方、そして具体的な設計事例について解説します。 

POMの主要用途分野 

POMの優れた特性は、幅広い産業分野で活かされています。 

産業機械部品(ベアリング、カム、バルブ) 

産業機械の分野では、POMはその自己潤滑性耐疲労性から、金属製のベアリングやカムの代替として多用されます。潤滑油を必要としない、あるいは給油が困難な箇所での使用に適しており、メンテナンスコストの削減にも繋がります。また、高い剛性と寸法安定性により、流体を制御するバルブの構成部品としても信頼性の高い性能を発揮します。 

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家電・OA機器(ヒンジ、ロック部品、ギヤ) 

家電製品やプリンターなどのOA機器の内部には、数多くのPOM製部品が使用されています。例えば、ビデオデッキのローディング機構やプリンターの紙送り機構に使われる精密なギヤは、POMの得意とする用途の一つです。金属製ギヤに比べて静音性に優れ、軽量であることに加え、長期にわたる繰り返し動作にも耐えうる耐久性を備えています。ドアのヒンジやロックといった機構部品にも、その滑らかな摺動性と確実な作動性が活かされています。 

医療・食品機器(ポンプ部品、接液部品) 

医療や食品の分野では、材料の安全性が厳しく問われます。POMには、FDA(アメリカ食品医薬品局)規格や日本の食品衛生法に適合したグレードが存在し、これらの分野でも安心して使用することができます。耐薬品性に優れ、さまざまな洗浄剤や薬液に対して安定しているため、医療用ポンプの部品食品製造ラインの接液部品などに採用されています。吸水性が極めて低いことも、衛生管理が重要な環境において利点となります。 

医療機器内部ギア 医療機器内部ギヤ | 射出成形の「駆け込み寺」.com 

攪拌機部品 撹拌機部品 | 射出成形の「駆け込み寺」.com 

浄水器・配管機器(継手、弁、シール部品) 

浄水器や給湯器といった水回り製品においても、POMは重要な役割を担っています。特にコポリマーグレードは耐熱水性耐加水分解性に優れており、温水が循環するような環境でも長期間安定した性能を維持します。水道水に含まれる塩素への耐性を高めた特殊グレードも開発されており、配管用の継手(ジョイント)やバルブ、シール部品として、安全な水の供給を支えています。 

用途別に求められる性能と選び方 

POMを選定する際は、その部品に最も要求される性能は何かを明確にすることが重要です。 

耐摩耗性が重要な場合(摺動部、ギヤ、カム) 

ギヤやカムのように、常に他の部品と接触し、摩擦が生じる摺動部品では、耐摩耗性が最も重要な性能となります。このような用途では、一般的に機械的強度で勝るホモポリマーが第一候補となります。さらに高い摺動性が求められる場合には、PTFE(フッ素樹脂)やシリコーンオイルを配合し、摩擦係数を極限まで低減させた摺動グレードの選定が有効です。これにより、異音の低減や、より滑らかな動作、部品の長寿命化を実現できます。 

寸法安定性が重要な場合(精密組立部品、バルブ) 

複数の部品を精密に組み合わせる製品や、わずかな変形が性能を左右するバルブ部品などでは、寸法安定性が鍵となります。POMは吸水率が低く、湿度変化による寸法変化が小さいのが特長ですが、より高い精度が求められる場合は、ホモポリマーよりも結晶化が緩やかで成形後の寸法変化が少ないコポリマーが適しています。また、ガラス繊維などで強化されたグレードは、剛性が向上すると同時に線膨張係数が小さくなるため、温度変化に対する寸法安定性をさらに高めることができます。 

耐薬品性が重要な場合(接液部品、配管部品) 

燃料タンク周りの部品や薬液ポンプなど、化学物質に接触する可能性がある部品には、優れた耐薬品性が不可欠です。POMは多くの有機溶剤に対して高い耐性を示しますが、特にアルカリ性の薬品や高温の蒸気などに晒される環境では、耐薬品性や耐加水分解性に優れるコポリマーが推奨されます。自動車の燃料系部品など、特定の薬品への耐性が求められる用途向けに、専用の特殊グレードも開発されています。 

設計事例と成功ポイント 

ここでは、具体的なケースを通じて、POM選定のポイントを解説します。 

OA機器ギヤの耐摩耗性向上 

オフィス用プリンターの開発において、駆動部のギヤから発生する作動音が課題となっていた。当初採用していた汎用樹脂のギヤでは、長期間の使用で摩耗が進行し、異音が発生していた。そこで、耐摩耗性に優れたPOMホモポリマーの摺動グレードに変更した。結果として、自己潤滑性により摩耗が劇的に抑制され、初期の静音性を長期間維持することが可能になった。単にPOMを選ぶだけでなく、摺動特性に特化したグレードを選定した点がポイントになった。 

高精度バルブの寸法安定化 

流量を精密に制御する産業用バルブの部品において、金属からの樹脂化によるコストダウンが検討されていた。しかし、汎用エンプラでは、使用環境の温度変化によって変形が生じ、シール性が損なわれる問題が発生した。対策として、寸法安定性に優れるPOMコポリマーを採用。成形収縮が安定しており、かつ温度変化による影響も少ないため、幅広い条件下で安定したシール性能を確保できた。使用環境を正確に把握し、コポリマーの特性を活かしたことがポイントとなった。 

薬液ポンプ部品の長期信頼性の確保 

医療分析装置に使用される微量薬液ポンプでは、部品が様々な種類の薬液に接触するため、極めて高い耐薬品性が求められていた。標準的なPOMでは対応できない特殊な薬液への耐性も必要だったため、特定の耐薬品性を強化したコポリマーの特殊グレードを選定した。長期暴露試験においても材質の劣化や物性低下は見られず、ポンプとしての信頼性を長期間確保することができた。標準グレードで要求仕様を満たせない場合でも、特殊グレードまで視野を広げて検討することの重要性を示した事例だった。 

まとめ 

POMは、その優れた特性から多岐にわたる用途で活躍する非常に有用な材料ですが、その真価を発揮させるためには、製品に求められる性能を正しく理解し、最適なグレードを選定することが不可欠です。耐摩耗性、寸法安定性、耐薬品性など、どの特性を最も重視すべきかを明確にすることが、材料選定の第一歩となります。 

用途マップ 

要求特性 主な用途 推奨POMタイプ 
耐摩耗性・機械的強度 精密ギヤ、カム、高負荷ベアリング ホモポリマー、摺動グレード 
寸法安定性・精度 精密機構部品、バルブ、コネクタ コポリマー、ガラス繊維強化グレード 
耐薬品性・耐熱水性 薬液ポンプ部品、燃料系部品、給湯器部品 コポリマー、耐薬品性グレード 
コストと性能のバランス 一般的な機構部品、ヒンジ、クリップ コポリマー(標準グレード) 

本コラムで解説した選定方法が、皆様の製品開発の一助となれば幸いです。 

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