技術解説

POM(ポリアセタール)の特性と射出成形の基礎知識 ─ ホモポリマーとコポリマーの違いまで解説

POM(ポリアセタール)の特性と射出成形の基礎知識 ─ ホモポリマーとコポリマーの違いまで解説

POM(ポリアセタール)、化学名をポリオキシメチレン(Polyoxymethylene)は、優れた機械的強度、耐摩耗性、寸法安定性を持つエンジニアリングプラスチックの一種です。そのバランスの取れた物性から、金属の代替材料として自動車部品、電子機器、精密機器の部品などに広く利用されています。  
設計・成形現場においてPOMは、ギアやベアリング、カムといった高い精度と耐久性が求められる摺動部品に採用されることが多い材料です。これは、POMが持つ自己潤滑性や耐疲労性といった特性が、機構部品の信頼性向上に大きく貢献するためです。本コラムでは、この重要な材料であるPOMの基本特性から、ホモポリマーとコポリマーという二つのタイプの違い、そして射出成形における基礎知識までを府中プラが解説します。 

POMの基本特性 

POMは、その分子構造に由来する特有の性質を持っています。ここでは物理的、機械的、化学的特性に分けて解説します。 

分子構造と物理的特性(結晶性、密度、融点) 

POMは、メチル基(-CH2-)と酸素(-O-)が交互に規則正しく並んだ直鎖状の化学構造を持つ、結晶性の高いポリマーです。この規則正しい構造により、エンジニアリングプラスチックの中でも特に結晶化度が高くなります。高い結晶性は、材料の剛性や強度に大きく寄与します。
外観は通常、乳白色で不透明です。これは、分子が規則的に並んだ結晶部分と、ランダムに並んだ非晶部分の屈折率が異なるため、内部で光が乱反射することに起因します。比重は約1.4g/cm³と、汎用エンプラの中では比較的高い値を示します。融点は種類によって異なりますが、ホモポリマーで約175℃、コポリマーで約165℃と明確な融点を示します。 

機械的特性(引張強度、耐摩耗性、疲労強度) 

POMは、熱可塑性樹脂の中でもトップクラスの機械的特性を誇ります。高い引張強度と剛性を持ち、荷重がかかった際の変形が少ないため、精密な動作が要求される部品に適しています。
特筆すべきは、優れた耐摩耗性自己潤滑性です。摩擦係数が小さく、潤滑油なしでも滑らかな摺動性を長期間維持できるため、ギア、軸受、ローラーなどの摺動部品に多用されます。また、繰り返し荷重に対する耐性、すなわち疲労強度にも優れており、長期にわたって性能を維持する必要がある機構部品において高い信頼性を発揮します。 

化学的特性(耐薬品性、耐加水分解性) 

POMは、高い結晶化度に由来して、多くの有機溶剤油脂に対して優れた耐性を示します。このため、燃料ポンプやグリースを使用する歯車など、薬品や油に接する環境での使用に適しています。
一方で、硫酸や塩酸などの強酸には弱く、アルカリに対しても耐性は限定的です。また、吸水率が非常に低く、湿度の高い環境でも寸法変化が少ないという利点があります。これにより、高精度が求められる部品においても安定した性能を維持できます。ただし、熱水環境下での長期的な使用においては、加水分解による物性低下の可能性があり、特にホモポリマーよりもコポリマーの方が優れた耐性を示す傾向があります。 

ホモポリマーとコポリマーの違い 

POMには、その分子構造の違いから「ホモポリマー」と「コポリマー」の2種類が存在します。これらは基本的な特性を共有しつつも、それぞれに異なる長所と短所があり、用途に応じて使い分けられます。 

分子構造の差異と物性への影響 

ホモポリマーは、ホルムアルデヒドのみを重合させて作られる単独重合体で、分子構造が-CH2O-の繰り返しで構成されます。この均一な構造により結晶化しやすく、結晶化度が高くなる傾向があります。
一方、コポリマーは、ホルムアルデヒドにエチレンオキシドなどの他のモノマーを共重合させた共重合体です。分子鎖の中に異なる結合が導入されることで、ホモポリマーに比べて結晶化度がやや低くなります。この分子構造の違いが、耐熱性や耐薬品性といった物性の差異に直接影響します。 

耐熱性・耐薬品性・寸法安定性の比較 

一般的に、短期的な機械的強度(引張強度や硬度など)や耐熱性においては、結晶化度の高いホモポリマーが優れています。融点もホモポリマーの方が約10℃高いです。
しかし、長期的な特性、特に熱安定性や耐薬品性(特に耐アルカリ性)、耐熱水性においてはコポリマーの方が有利です。これは、コポリマーの分子構造が熱や化学薬品による分解に対して、より安定しているためです。寸法安定性に関しても、結晶化度が低いコポリマーの方が優れているとされています。 

代表的な用途分野の違い 

これらの特性の違いから、用途によって推奨されるタイプが異なります。ホモポリマーは、より高い機械的強度や剛性が求められる用途に適しています。例えば、高負荷がかかる精密ギアや、高い耐摩耗性が要求されるベアリングなどが挙げられます。代表的な製品名としては、デュポン社の「デルリン®」が知られています。これに対して、コポリマーは、 長期的な信頼性、耐薬品性、寸法安定性が重視される用途で広く採用されています。自動車の燃料系部品、ドアシステム部品、水回りで使用される給水弁やポンプ部品などが代表例です。ポリプラスチックス社の「ジュラコン®」が有名です。 

POM射出成形の特徴 

POMは射出成形に適した材料ですが、その特性を理解し、適切な条件で成形することが重要です。 

POMの流動性と結晶化速度 

POMは融点が明確で、溶融時の粘度が低く、優れた流動性を示します。これにより、複雑な形状や薄肉の製品でも比較的容易に充填することが可能です。しかし、結晶化速度が速いため、金型内で急速に固化が進行します。この特性は、湯ジワ(フローマーク)などの成形不良につながる場合があり、射出速度や金型温度の適切な管理が求められます。 

POMの成形収縮率と寸法精度 

結晶性樹脂であるPOMは、非晶性樹脂と比較して成形収縮率が大きいという特徴があります(約2%前後)。この大きな収縮は、成形品の寸法精度に大きく影響するため、金型設計の段階で収縮を正確に見込む必要があります。また、成形後の時間経過や熱処理(アニーリング)によっても結晶化が進行し、寸法が変化することがあるため、高精度が要求される部品では注意が必要です。 

成形時の注意点(ガス焼け、寸法変化など) 

POMの射出成形において、特に注意すべき点がいくつかあります。 

ガス焼け 

POMは成形温度が高すぎたり、シリンダー内での滞留時間が長すぎたりすると熱分解を起こし、ホルムアルデヒドガスが発生します。このガスが金型内で圧縮・断熱されることで高温になり、成形品が黒く焦げる「ガス焼け」という不良が発生することがあります。金型のガスベント(ガス抜き)を適切に設けることや、射出速度を最適化することが対策となります。 

寸法変化 

前述の通り、POMは結晶化度によって寸法が変化します。安定した品質を得るためには、金型温度を適切に管理し(一般的に60℃〜80℃)、製品が金型内部にある状態で結晶化を十分に進行させることが重要です。 

バリの発生 

流動性が良いため、保圧や射出速度が高すぎるとパーティングラインや勘合部にバリが発生しやすくなります。成形条件の適切な設定が求められます。 

まとめ 

POMは、その優れた機械的特性とバランスの取れた物性により、多くの工業製品に不可欠なエンプラです。POMを選定する際には、まず短期的な機械的強度を優先するのか、あるいは長期的な耐熱性や耐薬品性を重視するのかを明確にする必要があります。高い剛性や耐摩耗性が求められる場合はホモポリマー、過酷な環境下での耐久性や寸法安定性が重要な場合はコポリマーが、それぞれ推奨されます。
また、その優れた性能を最大限に引き出すためには、射出成形における特性(高い成形収縮率やガス発生のリスクなど)を十分に理解し、適切な金型設計と成形条件の設定が不可欠です。
次回は、POMの射出成形において発生しがちなトラブルと、その具体的な対策について、より詳しく掘り下げて解説する予定です。 

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