ETFEの特性と射出成形での注意点 ─ 軽量化と耐薬品性を両立するフッ素樹脂

フッ素樹脂の一種であるETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)は、その優れた特性から、様々な産業分野で注目を集めています。特に、一般的なエンプラでは対応が難しい過酷な化学環境や、耐熱性が求められる用途において、その真価を発揮します。ETFEは、他のフッ素樹脂と比較して良好な機械的強度と耐衝撃性、そして優れた耐薬品性を持ちながら、軽量性も兼ね備えている点が特徴です。府中プラは、これらの特性が、半導体製造装置、医療機器、自動車部品、航空宇宙など、軽量化と高機能性が求められる分野でETFEの採用を加速させると考えています。本コラムでは、ETFEの射出成形における基本特性、特有の課題、主要な用途事例、そして設計・金型開発における留意点について詳しく解説します。
ETFEの射出成形での基本特性
ETFEは、他のフッ素樹脂、特にPFAと比較して射出成形が比較的容易であるという特性を持っています。これは、ETFEがフッ素樹脂特有の優れた耐環境性能を維持しつつ、エチレン成分を含むことで加工性がある程度向上しているためです。
比較的加工しやすいフッ素樹脂
ETFEは融点が約250~270℃であり、他のフッ素樹脂の中では中程度の温度域に位置します。PFAのような極端な高温を要しないため、成形機や金型への熱負荷をやや抑えることが可能です。これにより、成形プロセスの安定化が図りやすく、汎用性の高い成形機での加工も比較的容易になります。また、溶融時の粘度もPFAに比べて比較的低く、流動性が良好であるため、薄肉部品や複雑形状のキャビティへの充填性にも優れています。この加工のしやすさは、生産効率の向上とコスト削減に寄与する要因となります。
機械強度・軽量性のバランス
ETFEは、フッ素樹脂の中で非常に優れた機械的強度バランスを持っています。引張強度、曲げ弾性率、圧縮強度、そして特に耐衝撃性において、他のフッ素樹脂と比較して高い値を示します。これは、部品が外部からの物理的負荷に耐え、製品の耐久性を向上させる上で非常に重要な特性です。同時に、ETFEの比重は約1.7と、他のフッ素樹脂(PFA約2.15、PVDF約1.78)と比較して小さく、部品の軽量化に貢献します。強度と軽量性のバランスの良さは、自動車や航空宇宙分野での採用を後押しする重要な要因であり、構造部品や筐体への適用において大きなメリットをもたらします。優れた耐熱性(連続使用温度約150~180℃)と耐薬品性も兼ね備えているため、幅広い環境下で機械的性能を維持します。
ETFEの成形上の課題
ETFEは比較的加工しやすいフッ素樹脂であるとはいえ、射出成形においては特有の課題が存在します。高品質な成形部品を得るためには、これらの課題に対する適切な対策が不可欠です。
高温樹脂の取り扱いとガス抜き
ETFEの成形温度は280~320℃と高く、溶融した樹脂は高温状態にあります。この高温状態の樹脂が金型キャビティに充填される際、金型内に残存する空気や、樹脂から発生する揮発成分(ガス)が適切に排出されないと、ショートショット、ボイド、シルバーストリーク、さらにはフッ素樹脂特有のフッ酸ガスによる金型腐食の原因となることがあります。特にETFEは、溶融粘度が比較的低いとはいえ、一般的なエンプラと比較すれば高い部類に入り、金型内でのガスの巻き込みが発生しやすい傾向があります。そのため、金型設計においては、ガスベント(排気口)の最適な配置とサイズが極めて重要です。府中プラでは、必要に応じて流動解析(CAE)を活用し、ガス溜まりが発生しやすい箇所を予測し、効率的なガス抜き設計を行うことで、成形不良の発生を抑制し、安定した品質を確保しています。
成形収縮と寸法変動への対応
ETFEの成形収縮率は1.5~3.5%程度と、比較的大きな値を示します。この収縮率の変動は、部品の寸法精度に直接影響を及ぼし、特に精密部品や複数部品の嵌合が求められる製品においては、設計通りの寸法が得られないリスクがあります。また、成形条件(樹脂温度、金型温度、保圧、冷却時間など)のわずかな変動でも、収縮率や反りといった寸法変動が発生しやすくなります。この課題に対し、府中プラでは、金型設計段階での収縮率予測と、試作評価を通じた金型寸法の最適化を徹底しています。さらに、成形条件の厳密な管理と、必要に応じてアニール処理を適用することで、残留応力を緩和し、寸法安定性を向上させる対策を講じています。
ETFEの主な射出成形用途事例と設計・金型での留意点
ETFEはその優れた特性バランスから、多岐にわたる分野で射出成形部品として活用されています。具体的な用途事例を挙げながら、それに伴う設計・金型上の留意点を解説します。
主な射出成形用途事例
ETFEの代表的な用途としては、以下のような部品が挙げられます。
配管継手・バルブ部品: 高い耐薬品性と機械的強度、そして軽量性が求められる化学プラントや半導体製造装置における薬液配管の継手やバルブの内部部品に採用されています。特に中程度の温度・圧力環境下で優れた性能を発揮します。
薬液流路カバー・ハウジング: 高い耐薬品性が必要な液体輸送システムや分析装置の流路カバー、あるいは電子部品を保護するハウジングなどにも利用されます。ETFEは、透明性を活かして内部の流体を確認できる用途にも適用可能です。
ケーブルコネクタ・電気部品: 優れた電気絶縁性、耐熱性、難燃性を持つため、高温環境下や薬品曝露の可能性がある電気・電子部品のコネクタや絶縁体、保護カバーなどにも適しています。
医療機器部品: 生体適合性と耐薬品性、滅菌処理への耐性から、一部の医療機器の流路部品やコネクタに採用されることがあります。
設計・金型での留意点
ETFE部品の高品質な成形を実現するためには、設計段階から金型製作、成形プロセスに至るまで、以下の点に留意する必要があります。
ガスベント設計: 前述の通り、成形不良や金型腐食を防ぐために、キャビティ内のガスを効率的に排出するガスベントの設計が極めて重要です。樹脂流動解析を活用し、最適な位置とクリアランスを設定します。
ゲート形状と位置: 溶融樹脂の流れを均一にし、ウェルドラインの発生を抑制し、残留応力を低減するためには、適切なゲート形状(例:ピンポイントゲート、サブマリンゲートなど)とゲート位置の選定が不可欠です。ゲート残りを最小限に抑え、後工程での除去作業を容易にする工夫も求められます。
離型処理: ETFEは比較的離型しやすいフッ素樹脂ですが、複雑な形状や深絞り部品の場合、金型からのスムーズな離型を確実にするため、適切なテーパー角の付与、金型表面の鏡面仕上げ、エアエジェクターの配置、そして必要に応じてフッ素系離型剤の使用を検討します。金型の表面処理は、腐食対策と離型性向上の両面で効果を発揮します。
金型材料: 高温成形とフッ酸ガスの発生リスクから、金型材料には耐食性の高い鋼材を選定し、適切な表面処理を施すことが、金型の長寿命化に繋がります。
まとめ
ETFEは、優れた機械的強度と耐衝撃性、軽量性、そして広範な耐薬品性をバランス良く兼ね備えたフッ素樹脂です。特に、中程度の耐熱性と化学的安定性が求められ、コストパフォーマンスも重視される用途において、その真価を発揮します。射出成形においては、高温での樹脂取り扱い、適切なガス抜き、そして成形収縮と寸法変動への対応が主要な課題となりますが、府中プラはこれらの課題に対し、長年の経験と高度な技術を活かした金型設計および成形条件の最適化を通じて、お客様の製品開発を強力にサポートいたします。ETFEの特性を最大限に引き出し、高品質な部品を安定供給するためのご相談は、ぜひ府中プラまでお寄せください。