技術解説

PFAの強みを活かす ─ 半導体・ポンプ部品で選ばれる理由と設計ノウハウ 

PFAの強みを活かす ─ 半導体・ポンプ部品で選ばれる理由と設計ノウハウ 

PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)は、フッ素樹脂の中でも特にその卓越した特性から「究極のフッ素樹脂」と称されることがあります。極めて広範な薬品に対する耐性、高い耐熱性、そして優れた非溶出性・非粘着性は、他の追随を許しません。特に、半導体製造プロセスや化学プラント、医療分野など、最高の信頼性と清浄度が要求される環境下では、PFAが不可欠な素材となっています。しかし、その優れた特性と引き換えに、PFAの射出成形は非常に高い難易度を伴います。本コラムでは、PFAの特長と半導体・ポンプ部品で選ばれる理由を掘り下げ、射出成形における課題、主要な用途、そしてそれを克服するための設計・金型ノウハウについて詳述します。 

PFAの特長と射出成形での難しさ 

PFAがなぜ多くの産業分野で不可欠な存在となっているのか、その特長と、射出成形における難しさを解説します。 

耐薬品性・高純度性 

PFAの最大の特長は、極めて広範な薬品に対する卓越した耐性です。強酸、強アルカリ、各種有機溶剤、酸化剤、還元剤など、ほとんど全ての化学物質に対して侵されることがありません。この安定性は、常温から高温に至るまで維持されます。さらに、PFAはその化学構造から、他の樹脂に比べて不純物の溶出が非常に少ないという高純度性も兼ね備えています。特に半導体分野では、微細な金属イオンや有機物の溶出が製品の品質に致命的な影響を与えるため、PFAのような高純度材料が不可欠とされています。薬液供給ラインや洗浄工程で使用される部品において、プロセス液の汚染リスクを最小限に抑え、半導体の製造歩留まり向上に大きく貢献しています。この二つの特性が、PFAを他の材料では代替不可能な存在にしています。 

半導体分野で利用される背景 

半導体製造プロセスは、微細化と高集積化の進展に伴い、使用される薬液の純度や環境のクリーン度に対する要求が年々厳しさを増しています。エッチング、洗浄、リソグラフィといった主要な工程では、フッ酸、硝酸、硫酸、過酸化水素水などの強腐食性薬液が多用され、これらの薬液に耐えうる材料が必須となります。PFAは、前述の通り、これら全ての強酸・強アルカリ性薬液に対し、広い温度範囲で優れた耐性を発揮します。また、薬液の流路に接触する部分からの不純物溶出を極限まで抑える必要があるため、PFAが持つ高純度性は、半導体製造装置の薬液ポンプ、バルブ、継手、フィルターハウジングなどの部品に最適な材料として選定される背景となっています。PFAの採用は、プロセス安定性の向上と最終製品の信頼性確保に直結します。 

PFA成形性の課題 

PFAは卓越した性能を持つ一方で、その射出成形には非常に高度な技術と経験が求められます。一般的な熱可塑性樹脂の成形とは一線を画す難しさがあります。 

高溶融粘度による流動性の低さ 

PFAは融点が約300~310℃とフッ素樹脂の中でも最も高く、成形温度は350℃を超えることもあります。この極めて高い温度で溶融しても、PFAの溶融粘度は依然として高く、流動性が非常に低いという特性があります。これは、その長い分子鎖が絡み合っているためであり、薄肉部品や複雑な流路を持つキャビティへの樹脂充填を困難にさせます。ショートショット(充填不足)、未充填、あるいはウェルドラインの発生といった成形不良のリスクが高まります。成形時には高い射出圧力を必要としますが、過度な圧力は樹脂のせん断発熱を招き、品質劣化につながる可能性もあります。適切な成形機選定、金型設計、そして成形条件の最適化が、PFA成形の成否を分ける鍵となります。 

高温成形と金型耐久性 

PFAの成形温度が極めて高いため、成形機スクリュー、シリンダー、ノズル、そして金型全体が高温に長時間曝されます。この超高温環境は、成形機部品や金型材料に深刻な熱劣化を引き起こす可能性があります。特に、PFAは成形時に微量のフッ酸ガスを発生させることがあり、このフッ酸ガスは金型表面を腐食させ、精密な金型にダメージを与えます。金型寿命の低下は、生産コストの増大に直結します。また、金型が高温になると、成形された部品の離型性も低下し、製品表面の傷や変形、さらには金型への固着といった問題を引き起こしやすくなります。府中プラでは、これらの高温成形特有の課題に対し、長年の経験に基づく適切な対策を講じています。 

PFAの主な射出成形用途と設計・金型対応策 

PFAの優れた特性を最大限に引き出し、成形性の課題を克服するためには、具体的な用途に応じた設計と金型対応策が不可欠です。 

主な射出成形用途 

PFAが選ばれる主な射出成形用途は、その高性能が必須となる以下の分野です。 

薬液ポンプ部品: 半導体製造装置や化学プラントで用いられる薬液移送ポンプのダイヤフラム、インペラ、ポンプハウジングなどに使用されます。高純度薬液への不活性性と、高温・高圧下での耐久性が求められます。 

バルブシート・継手: 流量制御バルブのシート部や、薬液配管の継手(フィッティング)として広く採用されます。これらの部品は、液体が常に接触し、高い耐薬品性とシール性が不可欠です。 

流量計部品: 半導体製造プロセスにおける薬液の精密な流量制御を行う流量計の内部部品にもPFAが使われます。薬液による腐食や溶出がなく、正確な流量を維持するために貢献します。 

高温・高純度流体配管: 高温の純水や特殊ガスを扱う配管システムにおいて、配管のライニングやコネクタ部品にPFAが用いられます。 

設計・金型対応策 

PFAの難成形性を克服し、高品質な部品を安定して供給するためには、以下の設計・金型対応策が重要となります。 

高温対応鋼材と特殊コーティング金型: 金型材料には、高温での強度劣化が少なく、フッ酸ガスによる腐食に強い特殊鋼を選定することが必須です。さらに、金型表面には硬質クロムめっき、ニッケルめっきや耐食性・耐摩耗性に優れた特殊コーティングを施し、金型寿命の延長と離型性の向上を図ります。 

溶融粘度を考慮した流動設計: PFAの低い流動性を考慮し、金型キャビティへの樹脂流動抵抗を最小限に抑える設計を行います。具体的には、ランナーおよびゲート径を十分に大きく確保し、ゲート位置は肉厚の厚い部分や樹脂の流れが短い位置に配置します。また、必要に応じて流動解析(CAE)を駆使し、樹脂充填のバランスを最適化し、ショートショットやウェルドラインの発生を予測・回避します。 

ガスベントの最適化: 高温成形時に発生するガスを効果的に排出するため、金型には十分な数のガスベントを、ガス溜まりが発生しやすい箇所に最適配置します。適切なクリアランス設定により、樹脂の漏れ出しを防ぎつつ、ガス抜き性能を最大限に高めます。 

成形条件の工夫: 成形においては、PFAの特性に合わせた詳細な条件設定が求められます。樹脂温度は融点よりも十分に高い温度を設定し、射出速度は、樹脂のせん断発熱による劣化を避けつつ、充填を確実に行える最適な速度を見極めます。保圧は、収縮を抑制し寸法精度を高めるために重要ですが、過度な保圧は残留応力を増大させるため、バランスが重要です。金型温度も非常に高く設定し、樹脂の冷却を緩やかにすることで、結晶化を促進し、寸法安定性を高めます。 

まとめ 

PFAは、極めて高い耐薬品性、高純度性、耐熱性を兼ね備え、半導体製造装置や高機能ポンプ部品など、最高レベルの信頼性が求められる分野で不可欠なフッ素樹脂です。その成形は高い溶融粘度と超高温条件により難易度が高いものの、適切な金型設計、材料選定、そして成形条件の最適化という府中プラの持つ深いノウハウによって、高品質な部品の安定供給が可能です。PFAは加工難易度が高く、コストも他のフッ素樹脂より高価ですが、他に代替品が存在しない極限環境下での性能を必要とする場合の、唯一無二の選択肢となります。PFAの可能性を最大限に引き出すためのご相談は、ぜひ府中プラまでお寄せください。 

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