半導体・分析機器に使われるフッ素樹脂 ─ 高純度流路部品でのETFE・PFA・PVDFの選び方

半導体製造プロセスや各種分析機器においては、微細化と高機能化が加速するに伴い、これまで以上に高純度な流体制御が求められています。金属部品の使用は、金属イオンの溶出やパーティクル発生のリスクを伴うため、これらの問題を根本的に解決する手段として、フッ素樹脂の採用が不可欠となっています。本コラムでは、高純度流路部品に求められる要件を明確にし、ETFE、PFA、PVDFといったフッ素樹脂の特性に基づいた材料選定、さらには射出成形における留意点について解説いたします。
高純度流路部品の要件
半導体製造プロセスや分析機器の性能は、使用される流体の純度に大きく左右されます。そのため、流体が接触するあらゆる部品には、極めて厳しい純度保持能力が求められます。
金属汚染防止、パーティクル低減
高純度流路部品の最も重要な要件の一つは、金属汚染の防止です。半導体デバイスの製造では、ppmレベルはおろか、ppb、pptレベルの金属イオンが製品の特性に致命的な影響を与える可能性があります。例えば、微量の鉄や銅、ナトリウムなどの金属イオンがウェハー表面に付着すると、電気的特性の劣化や歩留まりの低下を招きます。従来の金属製配管やバルブでは、これらの金属イオンが流体中に溶出し、汚染源となるリスクを完全に排除することは困難でした。フッ素樹脂は、その本質的に高い化学的安定性により、金属イオンの溶出が極めて少なく、高純度薬液や超純水に対して最適な材料となります。

次に重要な要件は、パーティクル(微粒子)の低減です。流体中に存在する微細な異物粒子は、半導体デバイスの回路パターンを損傷させたり、分析機器の測定精度を低下させたりする原因となります。金属部品の摩耗粉や錆、あるいは樹脂部品自体の摩耗によって発生するパーティクルは、厳しく管理されなければなりません。フッ素樹脂は、その滑らかな表面特性と耐摩耗性により、パーティクル発生のリスクを低減します。特に、内部流路を形成する部品においては、デッドスペースを極力なくし、流体の滞留を防ぐ設計と、成形加工時のバリや突起を徹底的に排除することが不可欠です。

加えて、溶出物(TOC: Total Organic Carbon)の低減も重要な要件です。薬液や超純水中に有機物が溶出すると、これもまたプロセス汚染の原因となります。フッ素樹脂は、一般的に有機物の溶出が少ない材料ですが、種類や製造プロセスによっては微量の有機物が残留する可能性があります。そのため、材料選定においては、溶出物の少ないグレードを選定し、適切な洗浄処理を施すことが求められます。
これらの要件を満たすためには、材料自体の特性に加え、部品の設計、成形技術、そして製造環境の全てが高レベルで管理されている必要があります。
材料別の特長と使い分け
半導体・分析機器用途において使用されるフッ素樹脂の中でも、特にPFA、ETFE、PVDFは、それぞれ異なる特性を持つため、部品の機能や使用環境に応じて慎重な使い分けが必要です。
PFA → 高純度・薬液接触部品
PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)は、半導体・分析機器分野における高純度薬液接触部品のデファクトスタンダードと言える材料です。その理由は、以下の卓越した特性にあります。
極めて高い耐薬品性
ほぼ全ての化学物質に対して優れた耐性を示し、濃硫酸、濃硝酸、フッ化水素酸などの強酸、強アルカリ、有機溶剤、さらには高温の超純水に対しても安定性を維持します。これにより、多種多様な高純度薬液に対応できる汎用性を持ちます。
低溶出性
不純物(金属イオン、TOC)の溶出が極めて少ないため、薬液や超純水の純度を維持し、プロセス汚染のリスクを最小限に抑えることができます。
高い表面平滑性
表面エネルギーが低く、非常に滑らかな表面を持つため、薬液の残液やパーティクルの付着を抑制し、優れた洗浄性を実現します。
耐熱性
連続使用温度が高く、高温環境下での安定した性能を保証します。
溶融成形性
PTFEに匹敵する耐薬品性を持ちながら、溶融成形が可能であるため、複雑な形状のバルブボディ、継手、チューブ、ポンプ部品などを精密に製造することができます。
これらの特性から、PFAは、半導体製造装置の薬液供給チューブ、バルブ、ポンプ部品、フィルターハウジング、さらには分析機器のサンプリングラインやセルなど、流体が直接接触し、高純度が厳しく求められるあらゆる部品に採用されています。
ETFE → 外装や軽量化部品
ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)は、PFAほどの超高純度要件には対応しないものの、優れた機械的強度と良好な耐薬品性を兼ね備えているため、以下のような部品に適しています。
優れた機械的強度
フッ素樹脂の中でも特に高い引っ張り強度、曲げ強度、耐衝撃性を持ちます。これにより、外部からの衝撃や振動に耐える構造部品や、ある程度の圧力に耐える部品に適しています。
良好な耐薬品性
多くの酸、アルカリ、一般的な有機溶剤に対して耐性があります。ただし、PFAほど広範囲ではなく、特定の強酸や有機溶剤には注意が必要です。
耐候性・耐放射線性
屋外での使用や、放射線に曝される可能性のある環境での使用に適しています。
軽量性
PFAやPVDFと比較して比重が低いため、装置全体の軽量化に貢献します。
これらの特性から、ETFEは、半導体製造装置の外装カバー、ケーブル固定具、機器のフレーム、軽量な継手やアダプター、あるいは流路部品ではないものの、薬品雰囲気中で使用される構造部品などに採用されます。高純度薬液が直接流れる部分には不向きですが、プロセス環境全体の腐食防止や、軽量化が求められる箇所でその真価を発揮します。
PVDF → フィルターや補強部品
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、機械的強度、特に耐摩耗性と耐クリープ性に優れており、良好な耐薬品性も持つため、以下のような部品に適しています。
高い機械的強度と剛性
ETFEと同様に高い機械的強度を持ちますが、特に剛性や耐クリープ性に優れるため、圧力のかかる部品や構造安定性が求められる部品に適しています。
良好な耐薬品性
多くの酸や弱アルカリに対して耐性がありますが、強アルカリや一部の極性有機溶剤には注意が必要です。ETFEよりも耐酸性には優れる傾向があります。
耐摩耗性
PFAよりも耐摩耗性に優れるため、摺動部品や、固体粒子の懸濁液を扱うフィルターのフレームなどに適しています。
比較的加工が容易
溶融成形が可能であり、ETFEやPFAに比べて比較的加工しやすいという特徴があります。
これらの特性から、PVDFは、半導体製造におけるフィルターハウジングやフィルターエレメント、薬品供給ラインの補強部品、サポートブラケット、配管クランプ、あるいは流体が直接接触しない、薬品雰囲気下で使用される構造部品などに採用されます。フィルター用途では、その優れた耐薬品性と、微細孔加工のしやすさが活かされます。
射出成形における留意点
半導体・分析機器用の高純度流路部品をフッ素樹脂で射出成形する際には、一般的な樹脂成形とは異なる、いくつかの特別な留意点が存在します。これらは、最終製品の性能、特に純度と信頼性に直結するため、府中プラでは細心の注意を払って成形プロセスを管理しています。
成形収縮、溶融粘度対策
成形収縮
フッ素樹脂、特にPFAやPVDFは結晶性樹脂であるため、成形時の冷却に伴う結晶化により、比較的大きな成形収縮が発生します。また、収縮率は肉厚やゲート位置、冷却速度によって変動しやすいため、高精度な部品を製造するためには、この収縮を正確に予測し、金型設計に反映させる必要があります。
府中プラでは、各フッ素樹脂のグレードごとの成形収縮率を詳細に把握しています。このデータに基づき、金型寸法を精密に設計することで、要求される公差範囲内に収まる部品を安定して成形します。また、成形条件(金型温度、冷却時間など)を最適化し、均一な冷却と結晶化を促すことで、収縮のばらつきを最小限に抑えます。
溶融粘度対策
フッ素樹脂は、一般的な熱可塑性樹脂と比較して溶融粘度が高い傾向にあります。特にPFAは、PTFEよりは流動性が高いものの、依然として高粘度です。この高粘度は、金型への樹脂充填を困難にし、ショートショット、ヒケ、ウェルドラインの発生、さらには金型への高い圧力負荷などの問題を引き起こす可能性があります。また、高せん断応力による樹脂の劣化も懸念されます。
府中プラでは、フッ素樹脂の特性を踏まえ、適切なスクリュー設計とシリンダー温度プロファイルを設定します。高粘度樹脂の円滑な流動を促すため、金型設計においては、ゲートサイズやランナー径を十分に大きくし、樹脂の流動抵抗を低減します。射出速度や射出圧力を適切に制御することで、樹脂のせん断熱発生を抑えつつ、金型内へ均一かつ迅速に充填します。また、金型温度を高く設定することで、樹脂の流動性を向上させ、成形性を改善します。
金型表面処理やガスベント設計
金型表面処理
半導体・分析機器用の高純度部品では、部品表面の清浄性が極めて重要です。金型表面のわずかな粗さや異物も、成形品に転写され、パーティクル付着の原因となったり、洗浄性を損なったりする可能性があります。また、フッ素樹脂は金型への離型性が悪い場合があるため、適切な表面処理が必要です。
ガスベント設計
射出成形において、金型キャビティ内の空気や樹脂が分解して発生するガスは、適切に排出されなければなりません。ガスが閉じ込められると、ショートショット、ヒケ、表面欠陥、さらには成形品の強度低下を引き起こす可能性があります。フッ素樹脂は、高温成形されるため、微量のガス発生も考慮する必要があります。
府中プラでは、金型設計の段階で、ガスの排出経路を確保するための最適なガスベントを慎重に設定しています。ベントの深さや幅は、樹脂が漏れ出さないように、しかしガスは確実に排出されるように精密に調整されます。
これらの射出成形における留意点への対策は、単に部品を形にするだけでなく、半導体・分析機器に求められる超高純度と信頼性を確保するために不可欠なプロセスです。
まとめ
半導体・分析機器分野における高純度流路部品は、金属汚染防止、パーティクル低減、低溶出性といった極めて厳しい要件が課せられます。この要求に応えるため、フッ素樹脂はその卓越した耐薬品性と清浄性により、不可欠な材料となっています。PFAは高純度薬液接触部品に、ETFEは外装や軽量化部品に、PVDFはフィルターや補強部品にと、それぞれの特性を活かした適材適所の選定が重要です。府中プラは、これらのフッ素樹脂の特性を熟知し、長年の経験に裏打ちされた精密な設計・成形技術を組み合わせることで、お客様の厳しい要求を満たす高信頼性のフッ素樹脂部品を提供し、半導体・分析機器産業のさらなる発展に貢献してまいります。