射出成形機の選び方:型締力・投影面積・ショットサイズの基礎知識

「射出成形機の選定」シリーズコラム第1回
射出成形において、適切な成形機を選定することは、安定した製品品質の確保、成形不良の抑制、さらには金型保護や生産コストの最適化に直結します。誤った選定は、バリやヒケといった成形不良の発生、金型の早期破損、不要なエネルギー消費といった問題を引き起こしかねません。
設計者や調達担当者が射出成形機を選定する上で、特に理解しておくべき基本指標は「型締力」、「投影面積」、「ショットサイズ」の3つです。本コラムでは、これら三つの基礎知識と、成形機選定における基本的な考え方を分かりやすく整理して解説します。
射出成形機選定の基本フロー
射出成形機を選定する際、まず確認すべき要素は、成形する「製品の重量」、「金型のサイズ」、そして「使用する材料」です。これらの基本情報を基に、以下の3つの視点から成形機の適合性を検討していくことが重要となります。
型締力:成形時に発生する射出圧力によって金型が開かないように保持する力であり、主にバリやヒケといった成形不良の防止に影響します。
投影面積:射出方向から見た製品およびランナーの断面積であり、必要な型締力を導き出すための基準値となります。
ショットサイズ:一度の射出サイクルで金型に充填される樹脂の量であり、製品の充填不足や樹脂の劣化防止に関わります。
これらの主要な要素に加え、実際の運用においては金型の「タイバー間隔」や「開閉ストローク」なども確認が必要となります。
型締力の基礎知識
型締力とは、射出成形時に溶融樹脂が金型内部へ射出される圧力によって金型が押し開こうとする力に抵抗し、金型をしっかりと閉じた状態に保持する能力を指します。この力が不足すると、金型の一部が開いてしまい、樹脂が金型のパーティングラインから漏れ出す「バリ」という成形不良が発生します。一方、過剰な型締力は、金型に不必要な負荷をかけ、金型寿命の短縮や、無駄なエネルギー消費につながる可能性があります。
型締力は、射出方向から見た製品とランナーの「投影面積」に、金型内部に加わる「型内圧」を乗じることで算出されます。具体的な計算方法や詳細については、シリーズコラム第2回「型締力と投影面積の関係:バリ・ヒケを防ぐ正しい計算方法」で詳しく解説していきます。
投影面積の考え方
投影面積とは、射出方向から見た成形品(製品)とランナー(樹脂を製品まで導く通路)を合わせた断面積のことを指します。この投影面積が大きいほど、射出圧力が作用する面積が広くなるため、金型が開こうとする力が増大し、それに抗するための型締力もより多く必要となります。
例えば、同じ厚みの成形品でも、その平面的なサイズが大きければ大きいほど、投影面積は大きくなります。具体的な算出方法については後述のコラムで詳細に解説しますが、この投影面積の概念を軽視すると、必要な型締力を見誤り、バリやショートショットといった成形不良に直結する可能性があります。投影面積と型締力の関係についてさらに詳しく知りたい場合は、シリーズコラム第3回「型締力と投影面積の関係:バリ・ヒケを防ぐ正しい計算方法」をご参照ください。
ショットサイズの基礎知識
ショットサイズとは、射出成形機が一度の射出サイクルで金型内に充填することができる溶融樹脂の量を指します。このショットサイズは、成形する製品の重量とランナーの重量を合計した「必要ショットサイズ」を基準として選定されます。一般的に、成形機のシリンダー容量に対して、必要ショットサイズが60%から80%の範囲に収まるように選定することが最適な成形を行う上での目安とされています。
ショットサイズが不適合である場合、以下のような成形不良が発生する可能性があります。
必要ショットサイズに対して成形機のショットサイズが不足している場合、金型全体に樹脂が充填されず、「充填不足」や「ショートショット」と呼ばれる不良が発生します。
必要ショットサイズに対して成形機のショットサイズが著しく大きい場合、シリンダー内に樹脂が長時間滞留し、熱履歴を受けることで樹脂の「劣化」や「焼け」が生じやすくなります。また、過剰な射出は金型の損傷や寸法不良の原因となることもあります。
ショットサイズの具体的な計算方法や、不適合時に起こる不良とその対策についてさらに詳しく知りたい場合は、シリーズコラム第3回「ショットサイズとシリンダー容量の決め方:不足で起きる不良と対策」で解説しています。
成形機選定の総合判断
射出成形機の選定においては、「型締力」、「投影面積」、「ショットサイズ」という三つの主要な要素を総合的に検討することが不可欠です。しかし、これら以外にも、実際の成形作業や金型の特性に合わせた細かなチェックポイントが存在します。
例えば、金型そのものの「型厚」や、製品の取り出しに必要な「開閉ストローク」、金型を固定する「タイバー間隔」が金型寸法に適合しているか、そして成形品の突き出しに必要な「エジェクタストローク」が十分確保されているかなど、多岐にわたる要素を確認する必要があります。これらの見落としは、成形機と金型が物理的に適合しない、あるいは効率的な生産ができないといった問題につながる可能性があります。
より詳細な成形機サイズの決定手順や、現場で見落としがちなポイントについては、シリーズコラム第4回「成形機サイズの決め方:製品重量・投影面積・型寸法から総合判断する方法」で詳しく解説しています。
まとめ
射出成形機の選定は、製品の品質、生産効率、コストに大きな影響を与える重要な工程です。府中プラでは、この選定において「型締力」、「投影面積」、「ショットサイズ」の三つの指標を基本的な判断基準とすることを推奨しています。これら三つの要素を深く理解し、適切に適用することで、最適な射出成形機を選び、成形不良の防止と生産コストの削減に貢献することができます。本コラムで解説した基礎知識を基に、より詳細な計算方法や応用的な選定については、関連する各コラムをご参照ください。