ショットサイズとシリンダー容量の決め方:不足で起きる不良と対策

「射出成形機の選定」シリーズコラム第3回
射出成形機を選定する際、型締力やタイバー間隔といった指標に目が行きがちですが、「ショットサイズ」と「シリンダー容量」の適合性も非常に重要な要素です。これらの容量を見誤ると、成形不良の頻発や製品品質の低下、さらには樹脂の無駄な消費や機械への負担増大につながりかねません。
例えば、必要なショットサイズに対してシリンダー容量が不足すれば、金型が樹脂で完全に満たされない「充填不良」が発生します。逆に容量が大きすぎると、シリンダー内で樹脂が長時間滞留し、熱による「劣化」や「ガス焼け」を引き起こす原因となります。本コラムでは、このショットサイズとシリンダー容量の基本的な考え方から、正しい計算方法、そして不適切な場合に発生する不良とその対策について、分かりやすく解説します。
ショットサイズとは
ショットサイズとは、射出成形機が一度の射出サイクルで金型内部に充填する溶融樹脂の総量を指します。この総量には、実際に製品となる部分の樹脂量である「製品重量」と、金型内部で溶融樹脂を製品まで導く通路である「ランナー重量」を合計したものが含まれます。
したがって、ショットサイズを算出する際は、製品単体の重さだけでなく、ランナーの重さも考慮に入れる必要があります。このショットサイズを見誤ると、金型への樹脂の充填が不十分になったり、逆に樹脂がシリンダー内で必要以上に滞留して劣化したりと、安定した成形品質を維持することが難しくなります。適切なショットサイズの設定は、成形不良の防止と、効率的な生産のために極めて重要です。
シリンダー容量の考え方
シリンダー容量とは、射出成形機の加熱シリンダーが一度に保持できる溶融樹脂の最大量を指します。この数値は、成形機のカタログスペックに「cm³」や「g換算」で必ず記載されています。シリンダー容量は、成形機が扱える樹脂量の限界を示すものであり、この範囲内でショットサイズを設定する必要があります。
射出成形において、成形機を安定的に稼働させ、高品質な製品を得るための目安として、成形に必要なショットサイズはシリンダー容量の60%から80%の範囲に収めることが推奨されます。この比率にすることで、射出工程においてスクリューの安定した回転と計量が可能になり、樹脂の均一な加熱と溶融を促します。また、シリンダー内に樹脂が過度に滞留することなく、かつ適切な射出圧力を確保できるため、成形不良のリスクを低減することができます。
計算方法と例
ショットサイズとシリンダー容量の適合性を判断するための基本的な計算方法を以下に示します。
まず、必要ショットサイズを算出します。
必要ショットサイズ(g)= 製品重量(g) + ランナー重量(g)
次に、この必要ショットサイズが選定しようとしている成形機のシリンダー容量に対して適切な比率であるかを確認します。
適正容量比率 = 必要ショットサイズ ÷ シリンダー容量 × 100(%)
この適正容量比率が60%から80%の範囲に収まることが望ましいとされます。
計算例:
仮に、成形する製品の重量が30g、それに伴うランナーの重量が10gであるとします。
この場合、必要ショットサイズ = 30g + 10g = 40g となります。
もし、選定を検討している成形機のシリンダー容量が60gであった場合、適正容量比率は以下のようになります。
適正容量比率 = 40g ÷ 60g × 100% ≈ 67%
この67%という比率は、推奨される60%〜80%の範囲内に収まっているため、この成形機はショットサイズに関して適正であると判断できます。
ショットサイズ不適合で起きる不良
ショットサイズがシリンダー容量に対して不適切な場合、以下のような様々な成形不良が発生する可能性があります。
容量不足の場合(ショットサイズがシリンダー容量の60%を下回る、あるいは必要ショットサイズがシリンダー容量を上回る)
ショートショット(充填不足):必要な樹脂量が金型に供給されず、製品の一部が欠損したり、完全に埋まらなかったりする現象です。特に必要ショットサイズがシリンダー容量を上回る場合に顕著に発生します。
樹脂劣化・ガス焼け:ショットサイズがシリンダー容量に対して極端に少ない(例えば40%以下など)場合、スクリューの回転数が多くなり、その分、樹脂がシリンダー内に滞留する時間が長くなります。これにより、樹脂が過度な熱履歴を受け、熱分解による劣化や、ガス発生による「ガス焼け」を引き起こす可能性があります。
寸法不良・強度不足:安定した射出圧力や樹脂の流動が得られないため、製品の寸法が不安定になったり、内部にボイド(空洞)が生じて強度が低下したりすることがあります。
容量過大の場合(ショットサイズがシリンダー容量の80%を上回る)
計量不安定:スクリューが後退しきる前に射出が開始されるなど、計量行程が不安定になり、ショットごとの樹脂量がばらつくことで、製品の安定供給が困難になります。
実務での注意点
ショットサイズとシリンダー容量の適合性を検討する上で、実務では以下の点に特に注意が必要です。
材料密度(g/cm³)による換算:成形機のシリンダー容量は、カタログによって体積(cm³)で表記されている場合があります。この場合、使用する樹脂材料の密度(g/cm³)を乗じることで、重量(g)に換算し、必要ショットサイズと比較する必要があります。樹脂の種類によって密度は異なるため、正確な換算が重要です。
多数個取り金型での合計重量:複数の製品を同時に成形する多数個取り金型の場合、必要ショットサイズは、製品の数とそれぞれの製品重量を乗じ、それにランナー重量を合算した総重量で判断する必要があります。
射出条件(圧力・速度)とのバランス:ショットサイズが適正範囲内であっても、射出圧力や射出速度といった他の成形条件とのバランスが取れていないと、期待通りの成形結果が得られないことがあります。特に高圧・高速射出が必要な成形品では、シリンダー容量だけでなく、射出能力全体を考慮する必要があります。
新規材料における熱安定性:新規の樹脂材料を導入する際は、その樹脂の熱安定性を考慮した容量設計が不可欠です。熱に弱い材料では、シリンダー内での滞留時間を極力短くするため、容量比率をやや高めに設定する(80%に近い値)などの工夫が求められることがあります。
まとめ
射出成形機の選定において、ショットサイズとシリンダー容量の適合性は、製品品質と生産効率を左右する重要な要素です。ショットサイズは「製品重量とランナー重量の合計」で算出し、これが成形機のシリンダー容量の60%から80%の範囲に収まるようにすることが基本的なルールとなります。
ショットサイズが不足していればショートショット(充填不足)や樹脂劣化につながり、逆に過大であれば計量不安定や樹脂の滞留による劣化といった不良を引き起こす可能性があります。適正なショットサイズ設計を行うことは、安定した成形を実現し、成形不良を削減するだけでなく、材料の無駄をなくし、コスト削減にも直結します。