技術解説

設計で活かす 射出成形機の動作原理 ― 射出ユニットと型締ユニットの役割 

設計で活かす 射出成形機の動作原理 ― 射出ユニットと型締ユニットの役割 
「設計で活かす」シリーズコラム第2回

前回は射出成形の一連の工程について解説しました。これらの工程は、「成形機」という設備の動作によって初めて成立します。成形機の動作原理を理解することは、条件設定や設備選定の重要性を明確にし、設計者の皆様にとっても、成形機の能力や限界を把握することで、より量産性の高い製品設計へと繋がる重要な視点を提供します。本コラムでは、射出成形機を構成する主要な「射出ユニット」と「型締ユニット」を中心に、それぞれの動作原理と役割を解説します。 

射出ユニットの動作原理:プラスチックを溶かし、押し出す力 

射出ユニットは、プラスチック材料を溶かし、金型に押し込む役割を担う部分です。製品の内部品質や外観に直接影響を与える、非常に重要なユニットです。 

可塑化と計量 

射出ユニットの最初の役割は、原料であるペレット状のプラスチックを溶かし、金型に充填する準備をすることです。ホッパーから投入されたペレットは、加熱シリンダー内のスクリューの回転と、シリンダーヒーターからの熱、そしてスクリューせん断熱によって溶融樹脂へと変化します。この溶融樹脂はスクリュー先端に溜まっていき、金型に充填するのに必要な量だけが「計量樹脂」として準備されます。 

設計者に与える意味可塑化と計量の効率は、使用する材料の特性に大きく左右されます。材料の流動性や熱安定性を理解することは、成形機が効率良く樹脂を溶かし、均一な計量樹脂を準備できるような材料選定や、製品形状の検討に繋がります。 

射出と保圧 

計量が完了し、必要な量の溶融樹脂がスクリュー先端に溜まったら、次はいよいよ金型に樹脂を送り込む「射出」と、その後の「保圧」の工程です。計量された樹脂は、スクリュー全体の前進によって、成形機のノズルを通じて金型内へと一気に押し込まれます。この動作が「射出」であり、金型のキャビティを溶融樹脂で充填します。射出後も、樹脂が金型内で冷却・固化する間の収縮を補うため、スクリューはわずかに前進を続け、圧力をかけ続けます。これが「保圧」です。 

設計者に与える意味射出と保圧の工程は、製品の形状に直接的な影響を受けます。薄肉部やリブ構造、複雑な曲面を持つ箇所は、溶融樹脂が流れにくく、射出圧力が十分に到達しにくい傾向があります。設計者は、樹脂の流れやすさを考慮し、肉厚を極端に薄くしすぎない、急激な肉厚変化を避ける、適切なゲート位置を設定するといった工夫が必要です。また、保圧は製品の肉厚部に特に影響が大きいため、肉厚差の大きい製品では保圧不足による品質不良に注意が必要です。成形機の射出能力を把握することで、設計上の制約や可能性が見えてきます。 

型締ユニットの動作原理:金型を閉じ、圧力を受け止める力 

射出ユニットがプラスチックを溶かし金型に押し込む役割を担う一方で、その金型をしっかり閉じ、射出時にかかる強大な圧力に耐えさせるのが「型締ユニット」です。 

型締動作:投影面積×キャビ圧=必要型締力の算定 

成形サイクルの開始時、金型をしっかりと閉じ合わせるのが型締動作です。成形機の型締ユニットでは、移動盤が前進することで、可動側金型と固定側金型が互いに閉じ合わされます。金型が閉じ切った後、成形機はさらに強力な力を加えて金型を固定します。この力が「型締力(クランプ力)」です。射出ユニットから金型に押し込まれる溶融樹脂は高い圧力を発生させるため、金型が開いてしまわないように型締ユニットがこの圧力に耐える役割を担っています。型締力が不足すると、樹脂が隙間から漏れ出すバリが発生します。 

設計者に与える意味:型締力は、製品の投影面積とキャビティ内圧力によって決まります。製品の投影面積が大きいほど、金型に加わる圧力の総量も大きくなるため、より大きな型締力が必要となり、これは成形機選定の重要な要素です。設計者は、製品のサイズや形状を検討する際に、必要型締力を概算し、成形機サイズを想定する必要があります。必要型締力が大きすぎると、選択肢となる成形機が限られ、設備投資コストや成形費が高くなる傾向があります。 

型開きと離型 

成形サイクルが完了し、製品が冷却・固化した後、金型を開いて製品を取り出すのが型開きと離型の工程です。成形が完了すると、型締ユニットの可動盤が後退を開始し、金型が開きます。金型から製品をスムーズに取り出すために、金型内部に設けられたエジェクタピンやエジェクタスリーブが前進して製品を押し出します。 

設計者に与える意味:離型は、製品の形状に大きく影響を受ける工程です。特に「抜き勾配(ドラフト角)」は極めて重要ですし、これが不足していると、製品が金型に密着し、エジェクタピンで押し出す際に製品に欠けや反り、あるいはエジェクタ痕といった不良が発生しやすくなります。設計者は、機能や外観を損なわない範囲で、十分な抜き勾配を確保することが求められます。また、アンダーカットがある場合、スライドコアなどの特殊な金型構造が必要となり、金型の複雑化やコスト増加に繋がります。 

成形機制御と成形条件:ものづくりの精度を司る頭脳 

成形機の各動作を精密にコントロールし、所望の製品品質と生産性を実現するのが、成形機の「制御システム」と、それによって設定される「成形条件」です。 

高精度なサーボ制御と成形条件 

現代の射出成形機は、サーボモーターによる駆動と高度な電子制御システムを搭載し、射出速度、射出圧力、シリンダー温度、型締力など、成形プロセスのあらゆるパラメータを高い精度で管理します。成形条件とは、これらのパラメータを具体的に数値として設定したものであり、成形機の制御動作そのものです。成形条件が適切であるかどうかが、製品の品質と生産性、ひいてはコストに直接影響します。例えば、射出速度が早すぎるとバリやヤケ、遅すぎると未充填の原因となることがあります。保圧時間が不足するとヒケや寸法不良、長すぎると製品内部応力による変形やサイクルタイムの延長を招きます。 

設計者に与える意味:成形条件に優しい形状の意識 

成形条件のわずかな変化が、成形品の品質やサイクルタイム、そしてコストを大きく左右します。設計者は、設計段階で「成形条件に優しい形状」を意識することが重要です。具体的には、肉厚差を小さくする、抜き勾配を十分に設ける、急激な肉厚変化を避ける、アンダーカットを最小限に抑えるなどが挙げられます。これらの配慮は、成形条件の最適化を容易にし、安定した品質での量産を可能にするだけでなく、サイクルタイムの短縮や不良率の低減を通じて、結果的に製品全体のコストダウンに貢献します。 

まとめ 

射出成形機は、「射出ユニット」と「型締ユニット」という二つの主要な柱によって動作し、それぞれが可塑化、計量、射出、保圧、型締、型開き、離型といった一連のプロセスを精密に実行しています。この動作原理を理解することで、成形条件の設定がいかに製品の品質や量産性に直結するのか、そして製品のサイズや形状が成形機の選定にいかに大きく影響するのかが明確になります。成形機の能力や特性、そしてその制御システムを理解することは、設計者がより実現可能で、高品質かつコスト効率の良い製品を開発するための重要な基盤となります。 

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