技術解説

射出成形における離型剤トラブルのすべて - 銀条・白化・塗装密着不良の原因を断つ

射出成形における離型剤トラブルのすべて - 銀条・白化・塗装密着不良の原因を断つ

射出成形における離型剤は、金型から成形品をスムーズに取り外すための補助材です。しかし、離型剤は「使わないに越したことがない」材料でもあります。なぜなら、離型剤が必要になるということは、金型構造・表面状態・成形条件のいずれかに課題があることを示唆しているとも言えるからです。離型剤を安易に使い続けると、銀条や白化、塗装密着不良といった外観トラブルが再発しやすくなります。根本的な改善には、離型剤そのものではなく、離型しづらい「原因構造」を見つめ直すことが不可欠です。本コラムでは、離型剤が引き起こす代表的なトラブルを整理し、離型剤に頼らない安定的な成形を実現するための実務的指針を解説します。 

離型剤への依存構造 

離型剤の役割と使われる理由 

離型剤は、金型と樹脂の摩擦を低減し、離型抵抗を和らげるために使用されます。種類はシリコーン系、フッ素系、ワックス系、脂肪酸エステル系など多岐にわたり、内部添加型(樹脂に配合)と外部塗布型(スプレー塗布)に分類されます。
しかし現場で離型剤が使われる理由の多くは、摩耗やピン配置、冷却不均一など金型設計の不備や成形条件の歪みを補うためです。つまり、離型剤は「根本的な問題を隠す応急処置」として使われているケースが少なくありません。 

残留とトラブルの共通原理 

離型剤は揮発性成分を含むため、スプレーや樹脂分解で発生したミストがキャビティ内に滞留し、微細な油膜として表面に残ります。この膜が樹脂表面のエネルギーを低下させ、結果的にガス滞留、光散乱、塗膜剥離といった一連の不良を誘発します。
問題の根本は離型剤ではなく、「離型しにくい構造や条件」です。離型性を確保するための金型設計(PL構造、エジェクタ配置、表面粗さ)や温度管理、ベント配置を見直さない限り、離型剤の依存から抜け出すことはできません。 

銀条(シルバーストリーク):離型剤が可視化する金型の欠陥 

発生メカニズム 

銀条は、射出時にキャビティ内へ残留した離型剤や分解ガスが気化し、樹脂の流れを乱すことで発生します。流動線に沿って現れる細い白筋は、微小な気泡跡や表面荒れによる光の乱反射です。離型剤のガス化は、成形品の表層に極めて薄い空隙を生じさせ、見た目のムラや白筋となって現れます。 

銀条が発生する環境の特徴 

銀条が発生する成形条件には、共通の傾向があります。金型温度が低く、ガス抜き構造が不十分な場合、離型剤ミストや分解ガスが逃げ切れずに閉じ込められます。また、PL部の平面度不良やピン摺動部の磨耗も、ガス滞留を助長します。短サイクル化による離型剤の乾燥不足も典型的な要因です。 

銀条の根本対策 

離型剤の塗布量を減らすだけでは再発を防げません。根本対策は金型ベント・冷却設計の見直しにあります。ベント溝を広げ、エアベントピンを追加し、キャビティのガス抜けを確保することで、銀条は大幅に減少します。また、金型表面に硬質コーティングを施すと、摩擦係数が低下し、離型剤を使わなくてもスムーズに離型できるようになります。
府中プラでは、銀条発生時にまず離型剤の使用を疑うのではなく、「なぜ離型剤が必要になっているのか」を金型構造から解析します。この視点こそが、根本的な再発防止につながります。 

白化・艶ムラ:離型剤残留が生むトラブル 

現象の本質 

白化は、離型剤の微薄な残膜が表面の光の屈折率を変え、微小な乱反射を引き起こす現象です。特にPCやPMMAなどの非晶性透明樹脂では、膜厚が数十ナノメートルでも外観変化として明確に表れます。見た目の濁りや艶ムラは、成形不良ではなく「表面汚染」による光学上の現象です。 

隠れた原因 

白化を「離型剤のせい」と捉えがちですが、実際には金型側の要因が多く存在します。ガス抜き不足による分解生成物の堆積、金型温度のばらつき、キャビティ表面の粗さ不均一などが主原因です。離型剤はこれらの症状を“見えやすくしているだけ”にすぎません。 

対策の方向性 

離型剤を減らすよりも、まず「離型が難しい構造要因」を排除することが先決です。PL部の平面度、リブ根元のR処理、ピン押出部のクリアランスなどを見直し、離型抵抗を下げる設計変更が有効です。成形条件では、樹脂温度や背圧、冷却バランスを安定化させ、気化残渣の発生を抑えます。離型剤の使用は「最後の手段」と位置づけ、噴霧範囲・頻度を標準化することが重要です。 

成形条件・金型・運用の最適化こそ本質的対策 

成形条件の適正化 

離型剤を使わずに安定した離型を実現するためには、成形条件の見直しが最も効果的です。離型抵抗を高める原因の多くは、背圧や樹脂温度、金型温度のバランス不良にあります。背圧が高すぎると樹脂のせん断熱が増え、離型面が微小に溶着します。逆に金型温度が低すぎると樹脂が早期に固化し、エジェクタピンでの押し出し抵抗が増します。
条件最適化の基本は、「樹脂が金型に密着しすぎず、かつ形状を保てる温度帯を維持すること」です。冷却時間を適切に取り、離型タイミングを安定化させることが重要です。また、背圧や保圧条件を見直すことで、離型剤の使用量を半減できるケースも多く見られます。府中プラでは、成形条件の設定を単なるパラメータ管理ではなく、条件・材料・金型の三要素を同時最適化するアプローチを採用しています。 

金型設計・メンテナンスの最適化 

離型剤依存を根本的に減らすには、金型そのものの見直しが欠かせません。まず重要なのは、ベント構造とピン排気の最適化です。微細なガス溜まりが生じると、その部位で樹脂が焼け、炭化膜が生成され、表面導電経路が形成されます。これが再び離型不良の温床となるため、ベント溝やピン排気の寸法精度は極めて重要です。
金型冷却設計も無視できません。冷却ムラがあると、部分的な収縮差で離型抵抗が局所的に増大します。冷却回路を均一化することで、樹脂の固化挙動を制御し、安定した離型を実現できます。府中プラでは、離型不良が発生した場合でもまず離型剤を調整するのではなく、金型設計と温度制御を同時に点検し、根本原因を特定しています。 

運用と管理の徹底 

現場レベルでの運用管理も、離型剤トラブルを防ぐ上で不可欠です。離型剤スプレーの圧力、噴霧時間、使用頻度は、作業者ごとにばらつきやすい要素です。また、「離型剤なしトライ」を実施し、どの条件で離型剤が不要化できるかを実験的に把握します。この検証を繰り返すことで、真の離型限界をデータとして蓄積し、金型の改良や条件調整に反映しています。離型剤の使用は最後の手段であり、恒常的な運用とするのは基本的に避けるべきです。作業現場が「離型剤の使用を前提」としてしまうと、根本原因の分析が後回しになります。離型剤は最終手段と位置づけ、使う理由を技術的に明確化する運用体制が理想です。 

まとめ 

銀条(シルバーストリーク)や白化といった現象は、離型剤そのものよりも、金型設計・成形条件・温度制御の歪みが引き金になっています。離型剤を止めてもトラブルが再発する場合、それは「離型しにくい構造」が温存されている証拠です。府中プラでは、離型剤の種類や塗布量を検討する前に、まず「なぜ離型剤が必要になっているのか」を金型レベルから分析します。ガス抜け、PL平面度、表面粗さ、冷却回路、エジェクタ配置など、離型トラブルの本質は金型構造と成形エネルギーのバランスにあります。離型剤に頼らない成形こそ、再現性の高い量産条件を生み出す理想的な方法です。もし現在、離型剤トラブルに悩まれているなら、離型剤そのものを見直すよりも、金型そのものの状態を見直してみてはいかがでしょうか。離型剤トラブルでお困りの際は、ぜひ一度府中プラにご相談ください。 

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