難燃ABSが高騰!筐体・ハウジングの射出成形に求められる次の一手とは?
近年、家電筐体やOA機器、電装ハウジングなどで広く使用されてきた難燃ABS樹脂が、急速に価格上昇しています。背景にあるのは、ハロゲン系を中心とした難燃助剤の原料高騰と、国際的な供給不安の拡大です。難燃グレードのABSは、助剤の添加比率が10〜15%に達するのが一般的であり、原料価格の上昇がそのまま製品単価に反映されやすい構造を持っています。このような状況の中で、「これまでの難燃ABSを使い続けるべきか」、「代替できる材料はないか」というご相談が急増しています。本コラムでは、まず難燃ABS高騰の背景と、実際に代替材として検討が進むPC、PC/ABSの特徴を整理し、さらにその先にある“次世代材料”の方向性についてご紹介します。
難燃ABS高騰の背景を整理する

難燃ABSの需要は依然として高いものの、そのコスト構造には大きなリスクがあります。 なかでも大きな要因となっているのが、ハロゲン系難燃剤を中心とした原料価格の急騰です。燃焼抑制効果に優れるハロゲン系助剤は、世界的に供給元が限られており、近年の中米間の政治的対立や物流制約の影響を強く受けたことで、価格が短期間で上昇しました。これにより、難燃ABS全体のコスト構造が一気に不安定化しています。 一方で、代替として用いられるリン系難燃剤も短期的には市況の影響を免れません。しかし、ハロゲン系と比較すると原料サプライヤーの地域分散が進んでおり、環境規制上の制約も少ないため、中長期的には相対的に安定した供給体制を持つといえます。実際、現在主流の非ハロゲン系材料――PC、PC/ABS、そして次世代樹脂など――はいずれもリン系難燃剤をベースに設計されており、ハロゲン系依存からの脱却が進んでいます。 また、難燃助剤の種類によって成形外観にも影響が出ます。リン系難燃剤では添加量や分散状態によって白濁やブリードが生じることがありますが、適切なグレードと成形条件を選定すれば十分に制御可能です。今後は「難燃性」と「コスト安定性」、そして「環境対応」を総合的に評価し、地政学リスクを考慮した材料選定が求められる段階に入っています。
代替材料として注目されるPC・PC/ABS
PC樹脂の特徴
PC(ポリカーボネート)は、自己消火性を備えた樹脂として古くから電子・電気部品や筐体部品に採用されてきました。高い剛性と耐衝撃性、耐熱性を併せ持ち、難燃剤を大量に添加しなくてもUL94 V-0を達成できるグレードも存在します。一方で、流動性がやや低く厚肉や複雑形状で成形が難しいという課題もあり、金型設計や射出条件の最適化が必要になります。
PC/ABSの実用性
そこで多くの設計者が検討しているのが、PC/ABSです。PCの強度・耐熱性と、ABSの加工性・表面外観性を組み合わせたアロイ樹脂であり、筐体・ハウジング用途には非常に相性が良い材料です。UL94 V-0クラスの難燃グレードも豊富で、難燃ABSからの切り替えが最もスムーズに行える選択肢といえます。 PC/ABSの一般的な比重は約1.18 g/cm³で、難燃ABSとほぼ同等です。両者を比較した場合、流動性・寸法安定性・外観品質ではPC/ABSに優位性があり、既存金型をそのまま利用できるケースも多い点が実務上の利点です。ただし、耐薬品性や高温下での長期安定性では純PCに劣るため、用途に応じた慎重な選定が必要です。
次の一手 ― 軽量かつ自己消火性を持つ新しい難燃系樹脂

近年では、コストだけでなく、成形性や軽量化の観点からも新材料の検討が進んでいます。PC/ABSでも解決できない課題――たとえば軽量化・耐薬品性・短サイクル成形などに対応するため、新しい非ハロゲン系の難燃樹脂が注目を集めています。 この材料は、自己消火性を持ちながら、難燃剤を大量に添加せずともUL94 V-0相当の性能を発揮します。さらに、比重は約1.05〜1.10 g/cm³と、PC/ABS(約1.18)や難燃ABS(約1.19)に比べて約10%軽く、部品の軽量化とコスト削減の両立が可能です。 また、射出成形時の流動性が高く、金型温度を低めに設定してもウェルドやヒケが出にくいという特徴を持ちます。収縮率は既存のABSやPC/ABSよりも若干大きく、既存金型をそのまま使えるかは形状や要求寸法次第となりますが、非ハロゲン・軽量・高剛性を兼ね備えた新樹脂として高い注目を集めています。
材料選定は“性能×加工性×コスト”のバランスで考える

難燃ABSの価格上昇は一時的な市況変動ではなく、構造的なコスト上昇です。材料費だけでなく、加工性や金型適合性を含めた「トータルコスト」で判断する必要があります。 例えば、PC/ABSは材料単価こそABSより高いものの、成形安定性が高く歩留まりが良いため、実質的な製造コストはむしろ抑えられる場合もあります。 一方、近年注目される新しい難燃系樹脂では、軽量化と成形サイクル短縮によって、生産性と輸送効率を同時に改善できる点が強みです。単純な樹脂単価比較ではなく、「性能+加工性+成形コスト」の三要素を総合的に評価することが、今後の材料選定において欠かせません。
まとめ
難燃ABSは、長年にわたり筐体・ハウジング部品で広く使用されてきた実績ある材料です。しかし、難燃助剤の高騰や供給リスクが顕在化した現在、PCやPC/ABSへの移行、さらには軽量で高難燃性を兼ね備えた新樹脂の採用が現実的な選択肢となっています。 用途によって最適な材料は異なります。 材料選定は、市況変動への対応力がこれまで以上に問われる時代になりました。射出成形条件・設計仕様・コスト要件に応じた最適解を導き出すために、難燃ABS代替材のご検討や試作相談をご希望の方は、ぜひ府中プラまでお気軽にお問い合わせください。


