射出成形プロセスでCO₂はどこまで削減できるのか? - エンプラ成形のサイクル・設備・金型から見た実務的CN戦略
シリーズコラム第3回
カーボンニュートラル対応を進めるうえで、材料選定と並んで大きな改善余地を持つのが「射出成形プロセス」です。特にエンプラ成形では加熱・冷却・圧力保持などの工程でエネルギーを多く消費するため、設定値や設備・金型の最適化がCO₂削減に直結します。第3回目となる本コラムでは、府中プラに寄せられる相談を踏まえ、成形現場で“無理なく成果を出せる”カーボンニュートラル対策を整理します。
成形プロセスがユーザーのCN対応に直結する理由
成形工程のエネルギー構造を理解する
射出成形は、材料の可塑化、射出、保圧、冷却、型開閉など複数工程の組み合わせで進行しますが、CO₂排出へ最も影響するのは「溶融加熱」と「冷却」です。特にエンプラは高い溶融温度と粘度を持つため、加熱と可塑化に必要なエネルギーが大きくなりがちです。また冷却時間はサイクルタイム全体の多くを占め、省エネ・CO₂削減の最大のボトルネックになります。これらの工程は設定値や金型温調の最適化によって削減可能であり、材料や設備を変えずとも“現場で即効性のあるCN対策”が実現できます。[1]
成形条件の最適化は、CO₂削減の観点でも一定の効果が確認されています。主要成形機メーカーが公開する省エネデータでは、溶融温度を5〜10℃適正化するだけで可塑化工程の電力量が 約数%〜10% 減少する傾向が示されています。また、射出速度や背圧の“盛りすぎ”を是正することで同規模の削減効果が得られたとするLCA分析もあり、加熱・可塑化工程は環境負荷の改善余地が大きい領域です。
CO₂削減は“サイクル×歩留まり”で決まる
射出成形では、1ショットあたりのCO₂排出は小さく見えても、大量生産ではサイクル差・不良率差が大きな環境負荷となります。例えば冷却時間が1秒長いだけで、月間総ショット数では大きなCO₂増に直結します。また各種不良(バリ、ショート、ガス焼け、外観欠陥など)によるスクラップ発生は、材料・成形の“やり直し”となるため削減効果が非常に大きい領域です。府中プラでも、歩留まり改善やサイクル短縮により、コストと環境負荷を改善できた事例があります。ユーザーが無理なく始められるCN対策の中心が、この「サイクル×歩留まり」なのです。
冷却時間や歩留まりがCO₂に与える影響は非常に大きく、成形工程LCAでは、サイクルを1秒短縮すると年間エネルギーが約3〜7%減少するという傾向が報告されています。また、不良率を1%改善することで、材料再投入・再成形に伴うCO₂排出が 約2〜6% 低減する事例も示されています。サイクル短縮と歩留まり改善が“即効性の高いCN対策”とされる理由がここにあります。
設備と成形条件が環境性能を左右する
電動・油圧・ハイブリッドの違いとCO₂影響

射出成形における設備選定は、そのままCO₂排出量に影響します。電動機は駆動効率が高く待機損失も小さいため、精密成形やエンプラの流動管理に適しています。一方、油圧機は大物成形や高い射出圧が必要な場面で有利ですが、エネルギー効率は電動機に劣ります。[2]ハイブリッド機は両者の特性を組み合わせ、応答性と省エネのバランスが取れます。ユーザー側の判断として重要なのは、部品サイズ・求められる精度・樹脂特性に応じて適切な設備を選ぶことです。CN対応だからといって電動機一択ではなく、自社製品の条件に合った設備選択が最も環境効果を生みます。
成形条件最適化で“CO₂↑と品質↓”を同時に避ける方法
成形条件はCO₂削減と品質安定の両方に大きく影響します。特にエンプラは溶融温度帯が狭く、温度過多によるエネルギー浪費や材料劣化が起きやすいため、加熱を最適化するだけでも改善効果があります。また、射出速度や背圧は可塑化効率と外観品質を左右し、過剰設定は無駄な電力消費を招きます。保圧やゲートシール時間も、適正化によりCO₂とサイクルの両面で効果があります。府中プラでは、成形条件のバラツキを抑える“標準化”を通じ、品質不良によるスクラップを減らしながら環境負荷を下げる方法を常に追求しています。
温度や背圧の最適化は、品質安定だけでなく環境負荷にも影響します。公開されている省エネデータや国際LCAでは、溶融温度の過剰設定を解消することで可塑化工程の消費エネルギーが 数%〜10% 低減する傾向が示されています。条件の“盛りすぎ”を避け、安定領域を把握することは、環境面でも無視できない効果があります。
金型技術がCO₂削減に貢献する理由
冷却設計の最適化がサイクルを左右する最大要因
エンプラ成形では、冷却工程がサイクルタイムの多くを占めます。冷却効率が悪いと、わずか1〜2秒の遅れでも月間生産量では大きなCO₂増加につながります。金型内部の冷却配管の配置、流路の均一性、ピンポイント冷却などの工夫により、冷却ムラを抑制しサイクル短縮が可能です。またエンプラは冷却ムラに敏感で、反りや寸法不良につながりやすく、結果としてスクラップが増えます。府中プラでは、樹脂特性や製品形状に合わせた温調回路の見直しにより、不良削減とサイクル改善を同時に達成するケースが多く、金型段階での冷却設計が最も大きなCO₂削減ポイントの一つになります。
冷却工程の改善は特にCO₂削減効果が大きく、欧州の射出成形工程LCAでは、冷却時間を1秒短縮すると、年間の成形工程エネルギーが約3〜7%削減される傾向が示されています。エンプラ成形では冷却遅れが不良(反り・寸法不安定)に直結するため、冷却設計を改善することは、サイクル短縮と歩留まり向上の両面で効果が現れます。
※本コラムで示した削減効果は、ISO14040/44に準拠した射出成形工程のLCA(Plastics Europe、NRELなど)および成形機メーカーの公開省エネデータを基に整理した“傾向値”であり、特定設備や製品での絶対値を示すものではありません。
金型メンテナンスと離型性改善が“不良ゼロ化”に効く理由
金型のガス詰まりや離型性の悪化は、ショートショット、バリ、外観不良などを誘発し、スクラップ増加という形でCO₂排出に直結します。特にエンプラは高温成形でガスが溜まりやすく、早期メンテナンスやガス抜き構造の最適化が重要です。またゲート周りやコア形状の微調整により離型性が改善すると、成形条件を無理に高めずに済み、歩留まりとサイクルを同時に改善できます。府中プラでは、量産中に生じる不具合の傾向をもとに、金型のガス抜き・メンテ周期・摩耗部品交換の最適化を提案し、不良ゼロ化に近づけることでCO₂削減と安定生産の両立に貢献しています。
現場で実践できるCO₂削減アクション
サイクル短縮と品質安定化の同時達成

現場で最も効果が出やすいCN対策が「サイクル短縮」です。特に冷却時間はサイクルの大半を占めるため、金型温調の見直しだけで1〜2秒改善できるケースは珍しくありません。また、成形条件の標準化によって立ち上がり時の不良を抑制し、無駄なショットを減らせばCO₂削減と品質安定化を同時に実現できます。射出速度・背圧・保圧の不必要な“盛りすぎ設定”を避け、安定領域を把握することで、環境負荷を削減しながら品質と寸法精度を確保できます。府中プラでは、成形条件の再現性を高める取り組みを通じて、ユーザーの生産効率改善とCN対応を両立させています。
スクラップ削減はCN施策で最大のリターンを生む

スクラップ削減は、CO₂削減において最も費用対効果の高い施策です。1ショットの成形エネルギーは小さく見えても、不良率が1〜2%改善されるだけで、月間・年間では大幅な環境負荷削減につながります。エンプラは材料単価が高く、無駄打ちのCO₂とコストへの影響が特に大きいため、不良低減の価値はさらに高まります。ショートショット、バリ、ガス焼け、ウェルドなど、不良の原因を成形条件と金型状態から早期に把握することが重要です。府中プラでは、金型メンテと条件最適化をセットで行うことで、不良率を低減しつつ環境負荷を最小化しています。
府中プラが提供できる“CN支援”
カーボンニュートラル対応では、環境配慮材料を採用する際に「成形性はどう変わるか」、「金型補正が必要か」、「歩留まりは維持できるか」といった実務的な判断が必ず求められます。府中プラでは、材料特性・金型構造・成形条件を横断的に評価し、再生材やバイオ由来材を使用する場合でも、実成形で起きやすい寸法変動、ガス・外観不良、反り、流動性の変化を事前に見極める技術支援を行っています。実務で最も大きな影響を持つ歩留まり・サイクル・品質安定性を基盤に、環境対応と量産性のバランスを取る“最適解”を提示いたします。設計者や調達担当が社内説明や材料選定で迷わないよう伴走する点が当社の強みです。
まとめ
射出成形のカーボンニュートラル対応は、材料選定のような上流だけでなく、成形条件や金型、歩留まりといった“現場の工夫”によっても大きく改善できます。特にエンプラ成形では、冷却・条件設定・金型状態が環境負荷と品質に密接に関わり、小さな調整が累積CO₂削減に直結します。府中プラは、材料・金型・成形を横断して評価できる立場から、お客様の製品ごとに最適な改善ポイントを整理し、環境対応と量産安定を両立する実務的な支援を提供しています。カーボンニュートラルの取り組みは、難しい投資よりも日々の改善から効果が出る領域も多く、今後も当社はこうした“成果につながるCN対応”をお客様とともに追求していきます。
参考サイト
[1] 環境省「プラスチック資源循環」https://plastic-circulation.env.go.jp/
[2] 一般社団法人プラスチック循環利用協会 pwmi.or.jp/new_data-pamphlet.php






