エンプラ材料選定でCO₂はどう変わるのか? - 射出成形部品のLCA構造とカーボンニュートラル設計の要点
シリーズコラム第2回
カーボンニュートラルの要請が強まる中、射出成形部品の環境負荷は「成形プロセス」よりも「材料選定」によって大きく変わることが明らかになってきました。特にエンプラは高機能ゆえに製造段階でのCO₂排出が大きく、適切な材料選択が環境配慮設計の核心となります。第2回目となる本コラムでは、エンプラ材料のLCA構造と、設計者が押さえるべき判断軸を整理します。
エンプラ材料選定がカーボンニュートラルに直結する理由
射出成形部品のLCA構造を理解する重要性

射出成形部品のLCA(ライフサイクルアセスメント)では、原料調達から樹脂製造、輸送、成形、使用、廃棄までの各段階で排出されるCO₂を評価します。この中で最も影響が大きいのが「材料製造段階」であり、特にエンプラは高温重合プロセスを経るため、一般プラスチックよりCO₂排出量が大きくなる傾向があります。[1]成形工程での電力消費や廃棄時の処理よりも、材料選定による差の方が桁違いに大きいことも珍しくありません。つまり、CNの観点から見ると“何の樹脂を選ぶか”が最も本質的であり、設計段階でLCA構造を理解しておくことが不可欠です。
バージン材・再生材・バイオ材で大きく変わるCO₂構造
樹脂のCO₂排出量は、原料由来の炭素源により大きく変動します。バージン材は化石資源を起点とするため原料段階の排出が大きい一方、PCR・PIR材などの再生材は、既存資源を再利用するため原料由来のCO₂負荷を大幅に低減できます。[2]バイオ由来エンプラは、植物が成長過程で吸収したCO₂を起点とするため、原料段階の“見かけ上の排出量”を低減できる場合があります。ただし、再生材やバイオ材は供給安定性やロットばらつきなど品質課題もあり、環境性能と成形性・信頼性のトレードオフを理解する必要があります。
エンプラのLCAで押さえるべき主要指標と比較軸
CO₂排出量・再生材比率・バイオマス度の読み方

材料メーカーが提供する環境データには、CO₂排出量、再生材比率、バイオマス度など複数の指標がありますが、最も注意すべき点は「どこまでをカウントするか」です。原料段階だけを含む場合と、樹脂製造〜輸送まで含む場合では値が大きく異なります。また、再生材比率の高いエンプラほどCO₂排出は低減しますが、同時に物性のばらつきが懸念されるため、下限値の把握が重要です。バイオマス度は“植物由来原料の割合”を示すだけで、必ずしもCO₂削減量と直結しない点に注意をしなければなりません。これらの指標を正しく理解することで、材料選定の判断精度が大きく向上します。
こうした“材料起点のCO₂支配率”の大きさから、再生材やバイオ由来材を採用した際の効果も比較的明確に現れます。公開されている主要メーカーのLCA値では、
- PCR/PIR再生材:10〜40%のCO₂削減
- バイオベース材:原料段階で20〜70%の削減
といった傾向が報告されています。ただし、エンプラは重合プロセスのエネルギー負荷が大きいことから、汎用プラほど削減幅が大きくならないケースも多く、材料種・グレードによって差が出やすい点には注意が必要です。
※再生材・バイオ材の削減幅は、ISO14040/44に準拠したメーカー公開LCA、欧州環境庁(EEA)のプラスチックLCAデータベース、その他報告書など、複数の一次情報を比較して抽出したレンジです。樹脂の製造プロセス・再生比率・電力ミックスによってばらつきが存在するため、特定用途の絶対値ではなく、あくまで“一般化された傾向”として扱っています。
エンプラ特有の環境評価:軽量化・長寿命化の寄与
エンプラの環境評価で見落とされやすいのが「使用段階でのCO₂削減効果」です。PA、PBT、PCなどのエンプラは金属と比べて軽量のため、輸送エネルギーや駆動エネルギーの削減に貢献します。さらに、耐摩耗性や耐薬品性に優れる材料では、腐食・摩耗による交換頻度を低減できるため、長寿命化によるCO₂削減効果も見込めます。つまり、製品全体のライフサイクルで見れば、エンプラが高い環境価値を持つケースは少なくありません。設計者は材料選択を「単純な製造時CO₂」ではなく、「使用段階の効果を含めた正味の削減量」で評価することが求められます。
なお、再生材やバイオ材の採用はCO₂削減に一定の効果が期待できますが、一方で成形性や歩留まりが悪化すると、最終製品1個あたりのCO₂排出量は逆に増える可能性があります。材料由来の削減効果(10〜40%程度)が、歩留まり悪化やサイクル延伸によって相殺されることも十分起こり得るため、材料データと併せて「量産成立性」を評価する視点が不可欠と言えます。
射出成形部品の材料選定におけるCN視点の実務判断
単一素材化(モノマテリアル化)と分別性向上の重要性
カーボンニュートラル対応では、リサイクル工程での分別性を高める「単一素材化(モノマテリアル化)」が国際的に重視されています。特にEUのPPWRでは、用途を問わず“分別しやすさ”が環境評価の中心にあり、複数樹脂を組み合わせた構造は将来的に不利となる可能性があります。エンプラでも、PA同士、PC同士など、同系材料で統一した設計によりリサイクル性を向上できます。逆に、異材接合や二色成形はリサイクル阻害要因となるため、CN観点では慎重な判断が必要です。府中プラでも、筐体部品や機構部品の設計相談で「一体化・同一樹脂化」による環境面の改善提案が増えています。
再生材・バイオ材採用時の品質・成形性リスクの見極め
再生材やバイオ由来エンプラはCO₂削減効果が高い一方、ロット間ばらつきや水分影響、揮発成分による外観不良など、成形性に固有のリスクがあります。特に寸法精度が要求される精密部品や、電気電子部品のように信頼性が重要な領域では、吸水率・流動特性・安定性の確認が必須です。また、再生材比率の高い材料では収縮率や反り挙動が変わることがあり、金型補正や成形条件の最適化が必要となります。府中プラでは、材料メーカーの代表値だけに依存せず、実際のサンプル成形を通じて品質リスクを確認したうえで適材適所の採用を支援しています。
具体的な材料選択の基準とCO₂評価の考え方
「性能要求 → CO₂ → 生涯コスト」で判断する材料選択プロセス
環境配慮設計では、材料を“性能だけ”で選ぶと最適解を外す場合があります。重要なのは、性能要求を満たす複数候補を挙げ、その中でCO₂排出量・歩留まり・成形サイクル・寿命などを総合比較するプロセスです。例えば、同じ性能を持つPBTとPAの比較でも、原料CO₂、吸水による寸法変化、成形条件のエネルギー負荷、強化材の有無で環境影響は変わります。また、生涯コストにはトラブル発生率や交換頻度も含まれ、使用期間のCO₂を含めた総合評価が求められます。環境性能と成形性・安定性を両立させる視点が、材料選定の精度を高めます。
設計段階で最も影響が大きい4つの判断ポイント
材料選定の中で特にCO₂排出へ影響が大きいのは、①樹脂の種類、②強化材、③添加剤、④成形条件の4点です。まず樹脂の種類は原料CO₂の差がそのまま環境性能に反映されます。ガラス繊維強化(GF)や炭素繊維強化(CF)は性能向上に寄与する一方、成形収縮・反り・エネルギー負荷への影響が大きく、CO₂面では慎重な評価が必要です。難燃剤・可塑剤などの添加剤は環境規制の対象になりやすく、材料選定時の適合性確認が欠かせません。また、樹脂温度や冷却時間など成形条件の違いは成形エネルギーと歩留まりに直結し、結果的にCO₂排出量に影響します。[3]
材料選定で府中プラが提供できる価値
カーボンニュートラル対応における材料選定では、環境データだけでは判断できない「成形性」、「歩留まり」、「品質安定性」を同時に見極めることが重要です。府中プラは、材料特性・金型設計・成形条件を一体で最適化できる射出成形メーカーとして、環境性能と製品性能の両立を支援しています。再生材やバイオ材を使う場合も、ロット差による寸法変動や外観リスクを実機で検証し、適材適所の選定を技術的にバックアップしています。また、環境配慮設計の要求が高まる中、LCA視点に基づく材料比較や金属代替の妥当性評価など、“材料選定の根拠づくり“にも対応可能です。
次回予告:成形プロセスが生むCO₂削減の可能性
射出成形のカーボンニュートラル対応は、材料選定だけでなく「成形プロセスそのもの」にも大きな改善余地があります。次回は、成形条件・設備・金型・スクラップ削減など、現場で実践できるCO₂削減の具体策を整理し、エンプラ成形に特有の改善ポイントについて解説します。
参考文献・サイト
[1] 経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/013_04_00.pdf
[2] プラスチックリサイクル推進協会 https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
[3] 環境省「プラスチック資源循環」https://plastic-circulation.env.go.jp/






