技術解説

設計者が射出成形を学ぶのは、品質と量産性のため - 射出成形の体系的理解 学習編-2 

設計者が射出成形を学ぶのは、品質と量産性のため - 射出成形の体系的理解 学習編-2 

射出成形について学ぶ必要性を語るとき、設計者の役割が誤って伝わってしまうことがあります。成形条件を理解しなければならない、現場調整まで踏み込まなければならない、といった誤解です。しかし実際には、設計者と成形メーカーの役割は明確に異なります。設計者が成形条件を決めたり、現場の調整を行ったりする必要はありません。 
それでも設計者が射出成形を学ぶべき理由があります。それは、製品品質と量産性、さらに量産における品質維持を、設計段階で同時に成立させる責任が設計者にあるからです。射出成形を学ぶことは、成形作業に踏み込むことではなく、設計がどこまで結果に影響しているかを理解することにあります。本記事では、設計者の本来の仕事に立ち返りながら、なぜ射出成形の理解が不可欠なのかを整理します。 

設計者の仕事は、形状や寸法を決めること「だけ」ではない 

設計者の仕事は、製品の形状や寸法を決めることです。しかし、それだけが設計者の役割ではありません。設計図面を通じて、製品の強度、外観、寸法安定性、信頼性といった品質要件を定義し、それが量産で再現可能な形になっているかを担保することも、設計者の重要な責務です。
図面上では成立しているように見える設計であっても、量産に移行した途端に品質が不安定になるケースは少なくありません。強度は出ているが外観不良が頻発する、初期ロットは問題ないが条件が少し変わるとばらつきが顕在化する、といった問題はその典型です。これらは偶発的なトラブルではなく、設計段階で置いた前提条件が量産環境と噛み合っていないことで生じる現象です。
設計者が射出成形を学ぶとは、成形作業を理解することではありません。自分が決めた形状や寸法が、どの程度の条件幅の中で成立しているのか、そしてその前提が崩れたときに何が起きるのかを想像できるようになることです。

成形を知らない設計は、品質と量産性を分断しやすい 

射出成形の理解が不足したまま設計を行うと、品質と量産性が分断されやすくなります。設計段階では強度や外観の要求を満たしているように見えても、その品質を成立させるために成形条件を極端に追い込まなければならない設計になっていることがあります。
このような設計では、試作段階では問題が表面化しにくく、量産に入ってからトラブルが顕在化します。成形条件のわずかな変動で外観不良が発生したり、ロットごとの品質ばらつきが大きくなったりするのです。これは「条件調整が難しい」という問題ではなく、設計が特定条件に強く依存して成立していることの表れです。
重要なのは、これが成形メーカーの技量不足によって起きている問題ではないという点です。設計段階で成形の成立条件を十分に考慮していないことが、品質と量産性の二者択一を生んでいるのです。 

設計段階でしか防げない「品質の壊れ方」がある 

射出成形における品質問題の中には、成形条件の調整だけでは根本的に解決できないものがあります。例えば、形状そのものが成形挙動に無理を強いている場合、条件をどれだけ調整しても、外観や強度のばらつきを完全には抑えられません。
こうした問題は、成形現場で対処されることが多く、一時的には成立しているように見えます。しかしその裏では、条件の微調整や金型側での無理な対応によって、かろうじて品質が維持されているに過ぎません。この状態は、品質が安定しているのではなく、無理が見えにくくなっているだけです。
設計者が射出成形を学ぶ意義は、このような「後工程で無理に吸収されている設計上の問題」を、図面段階で見抜く力を持つことにあります。これは成形メーカーの仕事を侵食することではなく、設計者が果たすべき品質責任の一部です。 

成形制約を知ると、設計のどこが危ういかが見えてくる 

射出成形を理解することで、設計者は成形条件そのものではなく、成形制約がどこに潜んでいるかを見極められるようになります。ここで言う成形制約とは、「この条件にすれば成形できる」といったノウハウではありません。設計形状が、条件の選択肢をどの程度制限しているかという構造的な問題です。
例えば、肉厚の急激な変化や流動方向を無視した形状は、条件調整によって一時的に成立しているように見えても、成形の安定性を著しく損ないます。特定の条件でしか成立しない設計は、量産時のばらつきや設備差、材料ロット差に対して極端に弱くなります。成形制約を理解していれば、こうした「成立はするが危うい設計」を、図面段階で察知できます。
これは成形メーカーの仕事を肩代わりすることではなく、設計段階でしか判断できないリスクを把握するための理解です。

安定した量産と品質維持は、設計の結果として決まる 

安定した量産とは、特定の条件や特定の設備に依存せず、一定のばらつきを許容しながら品質を維持できる状態を指します。いわゆる成形ウインドウが広い状態です。このウインドウは、成形現場の工夫だけで広がるものではありません。
設計段階で無理の少ない形状が定義されていれば、成形条件には自然と余裕が生まれます。その結果、量産時の再現性が高まり、長期的な品質維持もしやすくなります。逆に、設計に無理がある場合、成形条件でそれを押さえ込むしかなくなり、量産や品質維持は常に不安定になります。
設計者が射出成形を学ぶ理由の一つは、品質と量産性をトレードオフにしない設計を実現するためです。安定した量産や品質維持は、成形現場だけの課題ではなく、設計品質の結果として現れます。 

設計者は射出成形から、どこまで学ぶべきか 

設計者が射出成形を学ぶ際に、すべての成形条件や現場ノウハウを把握する必要はありません。条件値を暗記したり、調整手順を覚えたりすることが目的ではないからです。
重要なのは、設計した形状や寸法が、品質・量産性・品質維持の観点で無理なく成立するかを判断できる視点を持つことです。そのために、成形の構造や制約を理解する必要があります。どこまでが設計で決まり、どこからが成形側の調整領域なのかを認識できていれば、設計と成形の役割分担はむしろ明確になります。
射出成形を学ぶことは、設計者の責任範囲を広げることではありません。設計者として果たすべき責任を、より確実に果たすための前提条件を理解することです。 

本記事は、射出成形を体系的に理解するためのシリーズの一部です。
設計者が射出成形をどう学ぶべきかは、こちらの記事で整理しています。 

「設計者が射出成形をどう学ぶべきか」 

まとめ 

設計者が射出成形を学ぶ理由は、成形作業を理解するためでも、成形メーカーの仕事を代行するためでもありません。製品の品質と量産性、そして量産における品質維持を、設計段階で同時に成立させるためです。
成形を知らない設計は、品質か量産性のどちらかを犠牲にする構造を生みやすくなります。一方で、成形の構造や制約を理解していれば、設計段階で無理を排除し、現場に過度な負担をかけない設計が可能になります。
射出成形を学ぶことは、設計者にとって追加の業務ではありません。設計者として本来担っている品質責任を、確実に果たすための前提条件です。 

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