金型起因の成形トラブルは、なぜ条件で直らないのか - 射出成形の体系的理解 トラブル対策編-4
前回の記事では、金型起因の射出成形トラブルを「金型設計起因」と「金型メンテナンス起因」に分けて考える必要性を整理しました。同じ“金型が原因”に見えるトラブルであっても、現れ方や再現性、自由度(調整幅)の持ち方が大きく異なるため、切り分けを誤ると対策が迷走しやすい、という視点です。
本記事では、そのうち金型設計起因のトラブルに焦点を当てます。ただし、ここでいう設計起因とは、金型設計の良し悪しを断定する話ではありません。射出成形では、まず部品形状という前提条件が存在し、その形状が持つ物理的制約の上で、金型設計と成形条件が組み合わされ、工程が成立しています。
なぜ設計起因のトラブルは条件を振っても直らないのか。その理由を、形状・金型・条件の関係性という構造から整理し、判断を誤らないための考え方を示すことが本記事の目的です。
金型設計起因トラブルは「形状前提」で成立している
射出成形において、部品形状は最も早い段階でほぼ固定される要素です。肉厚分布、リブやボスの配置、流動距離、拘束条件といった形状要因は、成形中の樹脂の流れ方や冷え方に対して、強い物理的制約を与えます。
金型設計は、この形状が持つ制約を前提に、「どうすれば量産として成立させられるか」を考える行為です。ゲート位置やランナー構成、冷却回路、排気構造は、いずれも形状が許す範囲の中で選択された結果に過ぎません。
このため、金型設計起因のトラブルは、金型単体の問題として突然現れるものではなく、形状と金型設計の組み合わせによって、工程がどの成立点に置かれていたかが後から問われる形で表面化します。条件調整によって一度は成立していた工程で、なぜ限界が露呈したのかを考えるには、この「形状前提」という視点を外すことはできません。
「物理的にどうしようもない形状」が存在する理由
部品形状の中には、成形条件や冷却設計である程度は緩和できても、根本的には避けられない現象を内包しているものがあります。長い流動距離、急激な肉厚変化、外観要求と内部構造の両立などは、その代表例です。
これらの現象は、条件を上げ下げすることで“症状を抑える”ことはできても、“現象そのものを消す”ことはできません。樹脂の流動や固化には物理的な限界があり、形状が持つ制約を超えて自由に振る舞わせることはできないからです。
重要なのは、こうした状態を安易に「金型設計の問題」と片付けないことです。形状が持つ物理的制約を前提に、金型設計は成立点を探しています。その成立点がシビアであった場合、量産が進んだ段階で初めて制約が顕在化することがあります。設計起因のトラブルとは、必ずしも設計の失敗を意味するものではなく、形状・金型・条件のバランスがどこに置かれていたかが明らかになる現象だと捉える必要があります。
それでも「金型設計起因」と呼ばれる理由
では、なぜ形状前提で成立しているにもかかわらず、これらのトラブルは「金型設計起因」と呼ばれるのでしょうか。その理由は、形状を変えられない前提の中で、金型設計がどの自由度(調整幅)を使って工程を成立させたかにあります。
ゲート位置をどこに置くか、冷却をどこまで効かせるか、排気をどのように取るかといった選択は、すべて形状制約の中で行われています。その結果、工程が非常にシビアな成立点に置かれていた場合、成形条件をどれだけ調整しても不良が動かない、という状況が生まれます。
条件を振っても改善しないのは、条件が効かないからではありません。すでに構造側で自由度を使い切っており、条件に残された調整幅が極めて小さいからです。この状態で条件を追い込むと、一部の不良が改善しても、別の箇所で新たな不具合が現れやすくなります。これが、設計起因トラブルが「条件で直らない」と感じられる本質です。
要求規格が工程の自由度を奪う構造
金型設計起因のトラブルが「後から分かる」形で顕在化する背景には、要求規格の存在があります。同じ部品形状、同じ金型構造であっても、要求される寸法精度や外観レベルが変われば、工程が成立するかどうかの判断は大きく変わります。
立ち上げ時には問題とされなかった構造が、量産の中で不具合として扱われるようになるのは、工程そのものが悪化したからではありません。評価基準が明確化・厳格化されることで、これまで許容されていたばらつきが許されなくなり、工程に残されていた自由度(調整幅)が一気に奪われるためです。
例えば、寸法公差が厳しく設定された場合、収縮のばらつきを条件で吸収できる余地は急激に小さくなります。外観要求が高まれば、これまで見過ごされていた微小なヒケやムラが不良として扱われるようになります。このとき初めて、金型構造が工程内の状態を強く拘束していたことが表面化します。
重要なのは、この現象を「金型が劣化した」、「成形条件が合っていない」と短絡的に捉えないことです。要求規格という外部条件が変わったことで、成立点が成立点として許容されなくなっただけ、というケースも少なくありません。
この視点を持たないまま対応すると、条件調整によって無理に成立範囲の端を探り続けることになります。その結果、量産安定性が低下し、再発を繰り返す工程に陥りやすくなります。
設計起因かどうかを見極めるための判断視点
金型設計起因のトラブルかどうかを見極めるうえで重要なのは、「どの要素に自由度が残っているか」を冷静に観察することです。不良の位置がほぼ固定されている、条件を振っても不良の出方が大きく変わらない、再現性が高いといった特徴がそろう場合、工程はすでに構造側で強く拘束されている可能性が高くなります。
このような状態では、条件調整は原因を探るための操作にはなりますが、恒久対策にはなりません。条件で一時的に抑え込めたとしても、その成立は非常にシビアで、わずかな外乱で再び破綻します。
一方で、条件変更によって不良位置や出方が動く場合には、まだ工程内に一定の自由度が残っていると考えられます。この場合、次に疑うべきは設計起因なのか、それとも金型のメンテナンス状態なのかという切り分けです。設計起因とメンテナンス起因では、現象の安定性や時間変化の傾向が異なります。
設計起因かどうかを見極めるとは、責任の所在を特定することではありません。どの要素が工程内の状態を最も強く支配しているのかを見極め、次に取るべき判断の方向性を誤らないための行為です。
まとめ
金型設計起因の射出成形トラブルは、金型設計単体の良否で語れる問題ではありません。部品形状という前提条件のもとで、金型設計と成形条件がどの自由度(調整幅)を使って工程を成立させていたのかが、量産の中で後から明らかになる現象です。
条件を振っても直らないと感じる背景には、すでに構造側で自由度を使い切り、条件に残された調整余地が極めて小さくなっているという事情があります。要求規格の変化や評価の厳格化によって、その制約が顕在化するケースも少なくありません。
本記事では、設計起因トラブルを「失敗」や「ミス」として捉えるのではなく、成立条件の読み取りという視点で整理しました。この整理ができていれば、条件調整に固執することなく、次に何を疑うべきかを冷静に判断できるようになります。
次回は、もう一つの金型起因トラブルである金型メンテナンス起因に焦点を当て、設計起因との違いを工程内の状態と自由度という観点から整理していきます。
射出成形トラブル対策の全体像や、本記事が位置づけられる考え方の整理については、
「射出成形のトラブル対策 - 不良原因と現場での解決アプローチ」で解説しています。

