射出成形トラブルの原因は金型にある - 射出成形の体系的理解 トラブル対策編-3
前回の記事では、射出成形トラブルを切り分ける判断軸として「自由度(調整幅)」の考え方を整理しました。成形工程内で起きている状態を捉え、その状態をどの要素がどの程度支配しているのかを見極めない限り、条件調整は判断を誤りやすいという視点です。
この考え方を現場のトラブル対応に当てはめていくと、条件を振っても動かない、あるいは一時的にしか改善しないトラブルの一部が、金型に行き着くケースがあることが見えてきます。ただし、これは「金型が原因でトラブルが頻発している」という意味ではありません。多くの場合、工程は一度は成立しており、その成立条件がどこに置かれていたのかを見直す過程で、金型という要素が浮かび上がってくるに過ぎません。
本記事では、金型起因のトラブルを「よくある原因」として扱うのではなく、成立していた工程がどのような前提条件のもとで成り立っていたのかを構造的に整理します。具体的な対策や修正方法には踏み込まず、まずは金型起因トラブルをどう切り分けて考えるべきか、その思考の枠組みを示すことを目的とします。
なぜ金型起因のトラブルは見落とされやすいのか
金型起因のトラブルが見落とされやすい背景には、「量産立ち上げができている」という事実があります。射出成形では、設計や金型に多少の制約があっても、成形条件を調整することで一度は量産に入ることができるケースが少なくありません。そのため、金型が原因であれば最初から成形できないはずだ、という認識が生まれやすくなります。
しかし、実際の射出成形では、「最初から成立しない構造」はほとんど存在しません。多くの製品は、条件を追い込むことで一旦は成立点を見つけることができます。問題は、その成立がどの程度の余裕、つまりどれくらいの自由度(調整幅)を持っていたかです。
立ち上げ初期には成立していた工程が、ロットを重ねる中で不安定になることがあります。生産数量の増加、評価基準の厳格化、外観検査の目線の変化、あるいはわずかな材料や環境条件のばらつきによって、これまで見えていなかった制約が表面化します。このとき初めて、金型構造が工程内の状態を強く拘束していたことが明らかになります。
ここで重要なのは、「後から分かる」という性質を、設計や金型の失敗と短絡的に結び付けないことです。金型起因のトラブルは、頻繁に起きる一般論ではなく、成立条件がシビアな工程ほど顕在化しやすいテーマです。工程が成立していたからこそ、どこに余裕がなかったのかが、量産の中で浮き彫りになるのです。
金型起因トラブルは二つに大別できる
金型起因のトラブルを考える際にまず必要なのは、「金型が原因」という一括りの見方をやめることです。金型起因と呼ばれるトラブルの中身は一様ではなく、性質の異なる二つの要因に分けて整理する必要があります。
一つは、金型設計そのものに起因するトラブルです。流路やゲート位置、冷却構造、排気構造といった基本設計が、工程内の状態を強く規定している場合に発生します。もう一つは、金型のメンテナンス状態に起因するトラブルです。摩耗や汚れ、詰まり、合わせ面の状態変化など、時間経過によって金型の状態が変わることで工程が不安定になるケースです。
両者はどちらも現場では「金型の問題」と表現されがちですが、現れ方も再現性も、自由度の持ち方も大きく異なります。この違いを整理しないまま対策に入ると、判断が迷走しやすくなります。
本記事では、具体的な修正方法や対応策を提示する前段として、まずこの二つの金型起因トラブルを切り分けるための考え方を整理します。ここで枠組みを誤らなければ、次の判断は格段にしやすくなります。
金型設計起因のトラブルの特徴
金型設計起因のトラブルは、工程内の状態が特定の位置や領域で固定されやすい点に特徴があります。不良が発生する位置がほぼ変わらず、成形条件を振っても大きく動かない。この挙動は、流路、ゲート配置、冷却構造、排気構造といった金型の基本構造が、成形中の状態を強く支配していることを示しています。
ここで重要なのは、金型設計起因のトラブルが、常に問題として顕在化するわけではないという点です。同じ金型構造であっても、製品に求められる要求規格によって、成立可否は大きく変わります。寸法公差や外観要求が比較的緩やかな場合には問題にならなかった構造が、要求規格が厳しくなることで初めて制約として表面化するケースも少なくありません。
立ち上げ初期には条件調整によって成立していた工程が、ロット増加や評価の厳格化とともに不安定になる場合、工程はすでに自由度の小さい領域で成立していたと考えるべきです。この状態では、条件を追い込むほど別の不具合を誘発するリスクが高まります。
金型設計起因のトラブルは、「設計が間違っていた」という単純な話ではありません。要求規格、工程条件、金型構造がどのバランス点で成立していたのかを見直すことで初めて、その制約の正体が見えてきます。
金型メンテナンス起因のトラブルの特徴
金型起因トラブルのうち、もう一つの軸が金型メンテナンス状態に起因するものです。こちらは金型設計起因とは現れ方が大きく異なります。最大の特徴は、トラブルの出方に再現性が乏しいことです。不良の位置や頻度が一定せず、ある条件では問題なく、別の条件やタイミングでは顕在化するといった挙動を示します。
このようなトラブルは、金型そのものの構造ではなく、摩耗、ガス汚れ、詰まり、合わせ面の状態変化など、時間とともに変化する要因によって工程内の状態が揺らいでいるケースが多く見られます。条件を変えると一時的に改善する場合があるのは、工程内にまだ一定の自由度が残っているためです。ベントの効きが徐々に悪くなる、冷却回路の一部が詰まり始める、摺動部の摩耗でわずかなズレが生じる、といった変化は、成形条件や材料のばらつきと重なったときに初めて不良として表面化します。
金型メンテナンス起因のトラブルでは、成形条件を調整すると一時的に改善することがあります。これは、工程内の状態が完全に固定されているわけではなく、まだ一定の自由度(調整幅)が残っているためです。この「条件で一時的に動く」という性質が、設計起因トラブルとの切り分けを難しくする要因でもあります。
重要なのは、条件で動くからといって、必ずしも条件が原因だと判断しないことです。条件変更によって状態が変わる場合でも、その背景で金型の状態が時間とともに変化しているのであれば、本質的な原因はメンテナンス側にあります。この違いを見誤ると、対策の方向性を誤りやすくなります。
設計起因とメンテナンス起因を混同すると、なぜ対策が迷走するのか
金型設計起因と金型メンテナンス起因を混同したままトラブル対応を進めると、対策は必ず迷走します。設計起因のトラブルをメンテナンス不良と誤認した場合、清掃や部分的な手直し、樹脂温度、射出圧力や速度など条件調整を繰り返しても、工程内の状態そのものは変わりません。一方で、メンテナンス起因のトラブルを設計問題と捉えてしまうと、本来不要な構造変更の検討や議論に時間を費やすことになります。
この迷走の背景には、自由度(調整幅)の見立て違いがあります。設計起因のトラブルは、成立しているように見えても自由度が極端に小さく、条件で吸収できる余地がほとんど残っていません。対してメンテナンス起因のトラブルは、工程内の状態が揺らいでいるものの、まだ条件で一時的に吸収できる余地があります。この違いを理解せずに対応すると、「直った」、「また出た」を繰り返すことになります。
特に注意すべきなのは、「この条件で直った」という経験が、その後の判断を縛ってしまう点です。一度条件で抑え込めた経験があると、設計や金型の構造に目を向けるタイミングを逃しやすくなります。結果として、工程は成立範囲の端で維持され、わずかな外乱で再び破綻する状態に陥ります。
トラブル対策において重要なのは、どの対策を打つか以前に、「どの種類の金型起因なのか」を正しく見極めることです。この見極めができて初めて、対策の方向性が定まり、無駄な試行錯誤を減らすことができます。
まとめ
金型起因のトラブルは、「金型が悪い」という一言で片付けられるものではありません。設計起因とメンテナンス起因では、トラブルの現れ方も、再現性も、自由度(調整幅)の持ち方も本質的に異なります。
設計起因のトラブルは、要求規格と金型構造の関係の中で、工程がどれほどシビアな成立点に置かれていたかが後から明らかになるケースです。一方、メンテナンス起因のトラブルは、時間とともに工程内の状態が揺らぎ、その変化が条件や外乱と重なって顕在化します。両者を混同したまま対応すると、条件調整に頼った場当たり的な対策から抜け出すことはできません。
本記事では、具体的な修正方法や対策に踏み込む前段として、金型起因トラブルを構造的に切り分けるための考え方を整理しました。次回は、このうち金型設計起因のトラブルに焦点を当て、要求規格と金型構造がどのように工程の自由度を狭めていくのかを、工程内の状態という視点からさらに掘り下げていきます。
射出成形トラブル対策の全体像や、本記事が位置づけられる考え方の整理については、
「射出成形のトラブル対策 - 不良原因と現場での解決アプローチ」で解説しています。

