設計変更だけでは解決しない理由 - 射出成形の体系的理解 課題解決編-2
射出成形のトラブルに直面したとき、多くの設計者がやむなく検討するのが設計変更です。肉厚を調整する、リブを追加・削除する、Rを大きくする、公差を緩める。いずれも理にかなった対応であり、実際に設計変更で解決するケースも少なくありません。しかし一方で、設計を何度修正しても状況が改善せず、試作と評価を繰り返すうちに判断が止まってしまう案件も多く見受けられます。
本記事で扱うのは、「設計が悪いから解決しない」という単純な話ではありません。なぜ設計変更だけに頼ると行き詰まりやすいのか、その背景にある問題構造を整理し、設計者がどの段階で視点を引き上げるべきかを明らかにします。設計変更は有効な手段のひとつですが、万能ではありません。その限界を正しく理解することが、課題解決を前に進める第一歩になります。
設計変更が最初の打ち手になりやすい理由
射出成形において、設計は最も上流に位置する工程です。そのため、不良やトラブルが発生すると、「設計を見直せば何とかなるのではないか」と考えるのは自然な流れです。設計変更は、社内で完結しやすく、意思決定もしやすい。金型改修や材料変更に比べて、心理的・手続き的なハードルが低いことも理由のひとつでしょう。
また、教科書や一般的な設計指針では、「肉厚は均一に」、「急激な形状変化を避ける」、「応力集中をなくす」といった設計論が強調されます。こうした知識は重要ですが、それだけを頼りにすると、「設計を直せば解決するはずだ」という思考に寄りやすくなります。
問題は、設計変更が“できること”と、“解決につながること”が必ずしも一致しない点にあります。設計を動かしているのに成果が出ないとき、その原因は設計の巧拙ではなく、設計が背負っている前提条件そのものにあります。
設計がすでに多くの制約を背負っている現実
実際の製品設計では、成形性だけを考えて形状を決めているわけではありません。機能要件、外観要件、組付け条件、使用環境、コスト目標、納期、調達性など、複数の制約を同時に満たす必要があります。設計者は、それらをバランスさせながら形状を決めています。
この状態でトラブルが発生すると、設計変更によって改善できる余地は、すでにかなり限られている場合が多いのです。たとえば、肉厚をこれ以上変えられない、リブを追加すると機能や外観に影響する、公差を緩めると組付けが成立しない。こうした制約の中で設計だけを動かし続けると、次第に「これ以上は触れない」という壁に突き当たります。
それでも設計変更に頼り続けると、設計要件そのものが歪んでいきます。本来優先すべき機能や信頼性よりも、「成形を成立させるための形状」が前面に出てしまい、製品としての本質を損ねるリスクも高まります。
設計変更が“部分最適”に陥るとき
設計変更が行き詰まるもうひとつの理由は、課題が部分最適として扱われてしまう点にあります。たとえば、割れが出たからRを大きくする、反りが出たから肉厚を調整する。これらの対応は、現象に対しては合理的です。しかし、その現象がどの前提条件の組み合わせで生じているのかを整理しないまま設計を動かすと、別の問題を誘発しやすくなります。
設計変更は、材料特性や成形条件、金型構造と密接に結びついています。設計だけを動かすということは、これらの要素との関係性を暗黙のまま固定しているのと同じです。その結果、設計を修正しても、材料や加工の制約に引き戻され、期待した効果が得られないという状況が生まれます。
ここで重要なのは、「設計変更が悪い」のではなく、「設計変更だけで全体を解決しようとしている」ことが問題だという点です。設計は全体最適の一部であり、単独で完結するものではありません。
設計の限界に気づくべきタイミング
設計変更による対応が有効かどうかを見極めるうえで重要なのは、「これ以上設計を動かすと、何を犠牲にするのか」が明確になっているかどうかです。設計変更を重ねるほど、機能、外観、組付け、信頼性といった本来守るべき要件のどこかに無理が生じます。その兆候が見え始めた時点で、設計単独での解決は限界に近づいていると考えるべきです。
また、設計変更のたびに試作や評価が必要になり、判断のサイクルが極端に長くなっている場合も注意が必要です。形状を少し変えては評価し、改善が見られなければまた修正する。この繰り返しは、一見すると着実に前進しているように見えますが、実際には同じ前提条件の中で設計を微調整しているにすぎません。視点を引き上げない限り、根本的な解決にはつながりません。
設計・材料・加工を横断して考える必要性
射出成形における課題は、設計・材料・加工のいずれか単独で完結することはほとんどありません。設計は材料特性を前提に成立し、材料は成形条件や金型構造の影響を強く受け、加工は設計形状と材料選定によって制約されます。この相互依存関係を無視して、設計だけを動かしても、全体は安定しません。
ここで求められるのは、「設計をどう直すか」ではなく、「どの前提条件を動かすべきか」を考える視点です。設計を大きく変えるべきなのか、樹脂の候補を再整理すべきなのか、金型の成立条件を再定義すべきなのか。あるいは、その組み合わせなのか。こうした判断は、個別分野の知識だけでは難しく、全体を俯瞰する視点が不可欠です。
設計者がこの視点を持てるようになると、議論は「できる/できない」から、「どうすれば成立するか」へと変わります。設計変更は、その全体最適の中で位置づけられるべき手段のひとつになります。
全体最適をとるという考え方
全体最適とは、すべての要件を最大限満たすことではありません。限られた制約条件の中で、何を優先し、何を許容するかを明確にし、そのバランス点を見つけることです。設計変更だけに解決を求めると、この優先順位付けが曖昧になりがちです。
たとえば、外観を最優先するのか、機械的強度を優先するのか、コストや量産安定性を重視するのか。優先順位が整理されていなければ、設計変更の方向性も定まりません。全体最適の議論では、設計・材料・加工それぞれの選択肢を並べ、どの組み合わせが最も現実的かを検討します。このプロセスを経ることで、設計変更は「最後の頼み」ではなく、「合理的な選択肢のひとつ」として位置づけられます。
府中プラが提供できる価値
設計変更だけでは解決しない課題に対して、府中プラは全体最適の視点から支援を行ってきました。設計段階での要件整理、材料候補の絞り込み、金型成立条件の検討、試作と評価、量産立ち上げまでを一連の流れとして捉え、どこに手を入れるべきかを構造的に整理します。
重要なのは、「成形できるかどうか」を判断するだけではなく、「どの前提条件をどう再設計すれば、再現性と安定性を持って成立するか」を明らかにすることです。設計者が抱える制約を理解したうえで、設計・材料・加工の境界をつなぎ、判断を前に進める。その役割を担うことで、設計変更が行き詰まった状態から抜け出す支援を行います。
本記事では、「設計変更だけで解決しようとすると行き詰まる理由」を、設計が背負う制約と、設計・材料・加工の相互依存という観点から整理しました。
一方で、射出成形の課題解決は、個別論点を知るだけでは前に進みません。課題の輪郭を揃え、前提条件を整理し、試作・評価・量産を一連で捉える“共通フレーム”が必要になります。
全体像(課題の整理の仕方、前に進める考え方)については、ハブ記事で体系的にまとめています。
「射出成形の課題解決ガイド - 設計・材料・加工の最適解を探る」
まとめ
設計変更は、射出成形の課題解決において重要な手段のひとつですが、万能ではありません。設計がすでに多くの制約を背負っている場合、設計だけを動かし続けても、課題は解決しないことが多いのが実情です。
設計変更の限界に気づき、設計・材料・加工を横断して前提条件を整理することで、課題は全体最適の視点で捉え直せます。そのプロセスを通じてこそ、判断は前に進みます。設計変更に行き詰まったときこそ、視点を引き上げ、全体から課題を見直すことが重要です。

