PENとは
PEN(ポリエチレンナフタレート)は、ポリエステル系樹脂に分類されるエンジニアリングプラスチックの一種で、一般的なPET(ポリエチレンテレフタレート)と比較して、高い耐熱性・寸法安定性・ガスバリア性・機械的特性をバランスよく備えていることが特長です。分子構造中にナフタレン環を有しており、剛直な主鎖構造がこれらの優れた性能を支えています。
熱成形や押出成形、フィルム用途で知られる材料ですが、射出成形グレードも存在し、高機能樹脂として精密機器部品、電気電子部品、医療・分析機器、光学関連部品などに採用実績があります。
1. 優れた耐熱性と寸法安定性
PENは、結晶性ポリエステルとして高い耐熱性を有しており、ガラス転移温度(Tg)は約120℃、融点は約265℃に達します。耐熱変形温度(HDT)も高く、熱変形を嫌う部品に適しています。さらに、吸水による寸法変化が少なく、優れた寸法安定性を発揮します。高温環境下でも安定した物性を維持するため、電子機器内部部品や高精度が求められる成形品に適しています。
2. 高い機械的強度と剛性
PENは、引張強度や曲げ強度などの基本的な機械特性が高く、PETを上回る剛性と強度を持ちます。特に繰返し応力下での耐疲労性や耐クリープ性にも優れており、繊細な構造を持つ精密成形部品でも長期的な安定性が期待できます。ガラス繊維強化グレードでは、さらなる強度と寸法精度が求められる構造部品にも対応可能です。
3. 優れたガスバリア性と耐薬品性
本材料は、酸素や二酸化炭素、水蒸気などに対するガスバリア性が非常に高く、耐薬品性にも優れています。この特性は、分析装置や医療機器など、薬液や気体を扱う装置において、内容物の漏れ防止や外部からの影響低減に貢献します。また、酸やアルカリ、有機溶剤などへの耐性を有し、安定した性能を発揮することから、耐薬品性が重視される用途にも適しています。
4. 光学特性と成形性
PENは結晶性樹脂でありながら、高い透明性と低ヘイズ性を持ち、光学的性能にも優れた素材です。加えて、屈折率が高く、光の制御が求められる部品や、視認性を求めるカバー用途にも適しています。また、成形収縮率が小さく、複雑な形状や薄肉部品でも寸法精度の高い成形が可能です。金型への転写性も良好で、微細構造の再現性にも優れます。
5. 優れた電気的特性と難燃性
PENは、絶縁性・耐トラッキング性・耐アーク性といった電気特性にも優れており、電子・電気部品の樹脂化材料としての適性が高い素材です。さらに、難燃性グレードではUL94 V-0の難燃性を確保しており、安全性が重視される電子機器内部や、電源周辺部品にも安心して使用できます。
PENは、ポリエステル系樹脂の中でも高性能な位置づけにあり、耐熱性・寸法安定性・バリア性・透明性といった複数の機能を同時に満たしたい設計に適した材料です。一般的なPETやPC、PMMAでは性能的に不足する場面において、PENは優れた代替候補となります。特に、射出成形によって量産性と精密性を求められる部品や、高温・高湿・薬品環境で使用される透明成形品においては、そのバランスの取れた性能が大きな強みとなります。用途例としては、分析機器の薬液流路部品、センサーカバー、電子デバイスの絶縁部品、液晶関連の光学部品などが挙げられます。
射出成形加工においても、流動性や放熱性に優れる特性を活かしながら、加工条件の最適化により高品質な製品成形が可能です。設計者が材料選定において透明性だけではなく耐久性・精度・環境性能までを求める場面で、PENは有力な選択肢となるでしょう。
PENを推奨する用途・ニーズ
01 薬品保存容器

PEN(ポリエチレンナフタレート)は、高い透明性と優れた耐薬品性を両立した数少ないエンプラのひとつであり、薬品容器や薬液流路部品といった用途において、極めて高い適合性を示します。従来、透明性を重視した材料としてはPC(ポリカーボネート)やCOC(環状オレフィン共重合体)が一般的に使用されてきましたが、これらの材料は酸・アルカリ・有機溶剤などに対して十分な耐性を持たない場合が多く、内容物との化学的相互作用や環境ストレスクラックの懸念があります。
PENは、分子内に剛直なナフタレン環を持つ構造により、酸性・アルカリ性の薬液、有機溶剤、界面活性剤に対して非常に高い耐久性を示します。また、ガスバリア性や耐熱性にも優れるため、加熱滅菌が必要な薬品の保存や、成分の蒸発を防ぐための密閉容器などにも適しています。さらに、加水分解にも強く、高温・高湿条件下でも長期的な寸法安定性と外観保持が可能です。
透明性の面でも、PENは結晶性樹脂でありながら高い光透過性と低ヘイズ性を備えており、内容物の目視確認や液体レベルの検知が必要な容器に適しています。PCは耐衝撃性に優れる一方で、アルカリや一部薬品によるストレスクラックに注意が必要です。COCは極めて高い光学性能を持ちますが、耐熱性や耐薬品性に課題があり、成形時の寸法安定性にも制約があります。これに対し、PENは透明性、耐薬品性、寸法精度のバランスが良く、射出成形にも適した素材として、薬品容器に最適な選択肢となります。
具体的な用途としては、医療・分析機器用のサンプルチューブ、液体クロマトグラフィーの薬液カートリッジ、消毒液容器、試薬ボトル、薬液ポンプの透明ハウジングなどが挙げられます。これらの用途では、内容物の視認性だけでなく、長期的な化学的安定性と、繰返し使用・滅菌による劣化の少なさが重要視されます。
PENはこれらの条件を高次元で満たすため、耐薬品性が要求される透明成形品において、設計自由度と信頼性を両立できる素材です。薬品との接触がある構造部品で、かつ透明性が必要な設計においては、PENの使用を推奨いたします。
当社のPEN成形における強み
01 製品デザイン、金型デザインに関するノウハウ

当社は、PEN樹脂の特性を最大限に活かした製品設計と金型設計のノウハウを有しています。PEN樹脂は優れた耐薬品性、気密性、低吸着性を持つため、これらの特性を考慮した形状設計を行います。特に、医薬品容器や精密部品などの用途に適した設計を提案します。
金型設計においては、PEN樹脂の特性に合わせた最適化を行います。例えば、PEN樹脂は成形時に寸法変化が大きいため、金型設計時にはこの点を考慮し、適切な抜き勾配や肉厚設計を行います。また、PEN樹脂の流動性を考慮し、ゲート位置や樹脂の流れを最適化することで、ウェルドラインやガスベントなどの成形不良を防止します。
当社の金型設計ノウハウにより、複雑な形状や薄肉部品の成形にも対応可能です。必要に応じて流動解析や試作金型を活用し、製品の品質と生産性を両立させます。特に、医療用途での要求される高い品質基準を満たすため、金型設計段階から綿密な検討を行います。
02 最適な成形条件の設定

PEN樹脂の成形には、材料特性に合わせた適切な成形条件の設定が不可欠です。当社は、PEN樹脂の成形に最適な条件を確立しています。
まず、材料の乾燥条件として、140〜160℃で5〜8時間の乾燥を推奨しています。これにより、成形時の水分による不具合を防止します。乾燥が不十分な場合、加水分解や熱分解による樹脂劣化が起こる可能性があるため、予備乾燥は十分に行います。
成形温度については、シリンダー温度を280〜310℃に設定し、金型温度を40〜90℃に管理します。これらの温度設定により、PEN樹脂の流動性を最適化し、成形品の品質を向上させます。
射出条件においては、射出圧力を60〜140MPaに設定し、背圧は10〜20MPa程度かけて空気の巻き込みを最小限に抑えます。スクリュー回転数はできるだけ低く設定し、冷却完了時間の2〜3秒前に計量が完了するよう調整します。
当社は、これらの成形条件を製品形状や要求品質に応じて微調整し、最適化を図ります。また、成形中はシリンダー内での樹脂の滞留を防ぎ、長時間の休止時には適切な温度管理と再起動時のパージを行うなど、細心の注意を払って成形を行います。
当社のPEN樹脂成形における強みは、材料特性を深く理解し、製品設計から金型設計、成形条件の最適化まで一貫したノウハウを持つことにあります。これにより、高品質で安定したPEN樹脂製品の生産を実現し、特に医療分野などの厳しい要求に応える製品を提供しています。