技術解説

PA(ポリアミド)って何? ナイロン材料群の基礎知識 

PA(ポリアミド)って何? ナイロン材料群の基礎知識 
「ポリアミド」シリーズコラム第1回

皆様は「ナイロン」という言葉を聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか?衣料品や釣り糸、歯ブラシの毛など、身の回りにあふれる素材として広く知られています。しかし、工業製品の設計や開発に携わる方々にとっては、「ナイロン」という一言では片付けられない、奥深い世界が広がっています。 
一般的に「ナイロン」と呼ばれる材料は、化学の分野では「ポリアミド(略称:PA)」という樹脂のグループに属します。なぜ呼び方が複数あるのかというと、アメリカのデュポン社が世界で初めて合成に成功したポリアミド樹脂に「ナイロン」という商標名を付けたことに由来します。その後、様々な種類のポリアミドが開発され、現在では広範な「ポリアミド(PA)」材料群として認識されています。このコラムでは、部品設計者の皆様に向けて、このポリアミド材料群の基礎知識を平易な言葉で解説します。 

ポリアミドの基本構造 

ポリアミドは、その名の通り「アミド結合」という特別な化学結合を持つ樹脂です。このアミド結合が、ポリアミドが持つ優れた特性の源となっています。
例えるならば、アミド結合は分子と分子を非常に丈夫な接着剤のようにしっかりと繋ぎ止める役割を果たします。この強固な結合が網の目のように連なることで、分子全体が非常に頑丈なネットワークを作り上げます。このネットワークこそが、ポリアミドが優れた「強度」や「耐摩耗性」を発揮する理由です。また、この強い結合は熱に対しても安定しているため、「耐熱性」にも優れるという特性を生み出します。さらに、分子同士が規則正しく並びやすい性質を持つため、結晶構造を形成しやすく、これがさらに材料全体の強度を高める要因となっています。 

代表的なポリアミド 

ポリアミドと一口に言っても、その種類は多岐にわたります。ここでは、主要なポリアミドとその特徴をいくつかご紹介します。 

PA6(ポリアミド6):最も一般的、バランス型 

PA6は、ポリアミドの中でも最も広く使われているタイプの一つです。優れた機械的強度、靭性(粘り強さ)、耐摩耗性、耐疲労性を持ち、成形加工性も良好です。これらの特性がバランスよく備わっているため、様々な用途で活躍しています。 

用途例: 自動車のエンジンカバー、電動工具のハウジング、キャスターの車輪など。 

PA66(ポリアミド66):高強度・高耐熱の標準材 

PA66は、PA6と比較してさらに高い強度と耐熱性を持つポリアミドです。特に高温下での機械的特性の維持に優れるため、より厳しい条件下で使用される部品に適しています。 
結晶化度が高く、剛性も高い傾向があります。 

用途例: 自動車のラジエータータンク、ギア、コネクター部品など。 

PA11・PA12(ポリアミド11・12):低吸水性で寸法安定・柔軟性が高い 

PA11やPA12は、PA6やPA66に比べて吸水性が非常に低いという特徴があります。これにより、湿度による寸法変化が少なく、高い寸法安定性が求められる用途で重宝されます。また、柔軟性も高く、低温環境下でも優れた靭性を保持します。耐薬品性にも優れています。 

用途例: 自動車の燃料チューブ、空圧チューブ、ケーブルタイ、医療用カテーテルなど。 

PA46(ポリアミド46):高結晶性で耐熱特化 

PA46は、非常に高い結晶性を持つポリアミドであり、特に高温での機械的強度維持能力に優れています。高い融点と優れた耐熱クリープ性(高温での変形しにくさ)を併せ持つため、高性能な部品に利用されます。 

用途例: 自動車のエンジンルーム内部品(ギア、センサーハウジング)、電気・電子部品など。 

どう使い分ける? 

多様な特性を持つポリアミド材料群の中から、設計要件に最適な材料を選ぶことが重要です。主要な特性と使い分けの指針をまとめます。 

特性項目 PA6 PA66 PA11/PA12 PA46 
強度・剛性 バランスが良い 高い 中程度、柔軟性に優れる 非常に高い
(特に高温時) 
耐熱性 中程度 高い 中程度 非常に高い 
寸法安定性 吸水により変化しやすい 吸水により変化しやすい 非常に優れる
(低吸水性) 
優れた耐熱寸法安定性 
耐薬品性 良好 良好 非常に優れる
(特に炭化水素系) 
良好 
靭性・柔軟性 良好 良好 非常に優れる
(低温でも維持) 
高温で硬さを維持 
コスト 安価、汎用性が高い PA6よりやや高価 比較的高価 高価 
選定の目安 汎用的な強度とバランスが必要な場合 高強度・高耐熱が求められる場合 寸法安定性、柔軟性、耐薬品性を重視する場合 高温での機械強度維持が最重要視される場合 

簡潔にまとめると、「強度や耐熱性を重視するならPA66」、「寸法安定性や薬液耐性が重要で柔軟性も欲しいならPA12」、「さらに高温で機械強度を維持する必要があるならPA46」といった使い分けができます。そして、最も一般的な用途で性能とコストのバランスが良いのがPA6と言えるでしょう。 

まとめ 

府中プラは、本コラムを通じて、「ナイロン」と一括りにされがちなポリアミド(PA)が、実は多種多様なバリエーションを持ち、それぞれが異なる特性と得意分野を持っていることをご理解いただけたならば幸いです。単に「ナイロン」と呼ぶだけでなく、PA6、PA66、PA12といった具体的な種類を意識することで、設計の自由度は格段に広がります。
設計を行う際には、求められる強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、そしてコストといった様々な要件を総合的に考慮し、それぞれのポリアミドの特性を理解した上で、最も適した材料を「適材適所」で選ぶことが、製品の性能と信頼性を高める鍵となります。この入門コラムが、皆様の材料選定の一助となれば光栄です。 

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