技術解説

PE(ポリエチレン)の特性と設計・射出成形でのポイント

PE(ポリエチレン)の特性と設計・射出成形でのポイント

PE(ポリエチレン)は汎用プラスチックの中で最も生産量が多い材料の一つであり、その軽量性、優れた耐薬品性、そして柔軟性は、射出成形用途においても重要な役割を果たしています。特に、寸法精度への要求がそれほど厳しくなく、一方で確実な耐薬品性や耐水性が求められる部品において、PEは採用されやすい材料です。本稿では、射出成形用途に限定して、PEの特性と使いどころ、そして材料選定・設計・成形における実務的な注意点について、府中プラの視点から整理・解説します。 

PE の種類と基本特性 

代表的な種類(HDPE・LDPE)と射出成形での使われ方 

PEは密度の違いによっていくつかの種類に分類されますが、射出成形で主に使用されるのはHDPE(高密度ポリエチレン)とLDPE(低密度ポリエチレン)です。HDPEは、PEの中では結晶化度が高く、比較的硬くて剛性があるため、射出成形用途の中心となるグレードです。構造部品や容器、キャップなど幅広い製品に使われます。一方、LDPEは分子鎖の分岐が多く結晶化度が低いため、非常に柔らかく、伸びが大きいのが特徴です。柔軟性が特に求められるキャップやパッキン的な役割を持つ部品など、使用用途は限定的です。 
また、MDPE(中密度ポリエチレン)も存在しますが、これは特殊な物性が求められる用途で必要に応じて採用される程度であり、一般的ではありません。 

分子構造から見た特徴(結晶性・高柔軟性・低比重) 

PEは単純な化学構造を持つ結晶性樹脂です。その比重は0.91〜0.96程度と、PP(ポリプロピレン)と並んでプラスチック材料の中で最軽量クラスに位置します。部品の軽量化に大きく寄与する特性です。また、結晶性が高いため、薬品が内部に浸透しにくく、優れた耐薬品性を発揮します。同時に、ガラス転移点が非常に低いため、常温ではゴムのような柔軟性を持ち、衝撃に対して粘り強い性質を示します。 

PEの物性の“強み”と“弱み”の概要 

PEの最大の強みは、酸やアルカリに対する高い「耐薬品性」、割れにくい「柔軟性」、そして水をほとんど吸わない「耐水性」です。これらに加え、安価であることも大きなメリットです。一方で弱みとしては、「耐熱性の低さ」が挙げられます。汎用プラスチックの中でも比較的低い温度で軟化します。また、結晶化による収縮が非常に大きいため、「寸法精度の出しにくさ」や、成形後の「大きな収縮・変形」が設計上の課題となります。 

機械的特性の特徴と設計上の注意点 

柔軟性・靱性のメリット 

PEは剛性が低い反面、柔軟性と靱性(粘り強さ)に優れています。硬い樹脂のように衝撃でパリーンと割れることが少なく、打撃を受けても変形してエネルギーを吸収する特性があります。この性質を利用して、無理な力がかかっても破損を防ぎたい部品や、繰り返しの着脱が必要な簡易的なスナップフィット(嵌合)部分などに適しているケースがあります。ただし、保持力は弱いため設計には工夫が必要です。 

剛性不足による設計制約 

機械的強度の面では、同じ汎用樹脂であるPPよりもさらに剛性(曲げ弾性率)が低くなります。そのため、しっかりとした剛性が求められる精密機器のケースや、荷重を支えるフレーム系の部品には不向きです。もしPEで構造部品を作る場合は、肉厚を十分に厚くするか、リブを多用して形状剛性を高める必要がありますが、それでもエンプラのような剛性は得られません。 

クリープ変形への注意 

PEは、一定の荷重がかかり続けると時間とともに変形が進む「クリープ現象」が顕著に現れる材料です。PP以上にこの傾向が強いため、長期間応力がかかるボルト締結部や、常にバネ圧がかかるような部品には適していません。治具類として使用する場合も、長時間ワークを固定したままにすると寸法が狂う可能性があるため注意が必要です。 

耐薬品性・耐環境性の特徴 

多くの薬品への高い耐性 

PEは化学的に安定した構造を持ち、酸、アルカリ、塩類水溶液に対して非常に強い耐性を示します。高濃度の酸やアルカリにも耐えるため、洗剤容器のキャップ、薬液を使用する装置の部品、水回りの配管部材などに最適です。この耐薬品性は、高価なエンプラを凌駕することもあり、コスト対効果の高い材料選定が可能になります。 

有機溶剤への耐性(PPとの比較) 

有機溶剤に対しては、PPと同様に無極性の材料であるため、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)やハロゲン化炭化水素には膨潤・溶解しやすい傾向があります。 
しかし、一般的なアルコール類やエステル類、ケトン類に対しては比較的良好な耐性を示します。溶剤に常時浸漬するような過酷な環境でなければ、多くの場面で安定して使用可能です。 

耐水性と吸水率ゼロに近い特性 

PEの吸水率はほぼゼロに近く、プラスチックの中で最も吸水しにくい材料の一つです。吸水による寸法変化や物性低下(加水分解など)が一切発生しないため、水や湿気にさらされる環境でも初期の性能を維持できます。この特性により、流体関連部品や屋外で使用される部品において、安定した寸法と機能を提供できます。 

熱的特性と射出成形への影響 

PEの熱変形温度(HDT)は、HDPEであっても低荷重下で60〜80℃程度です。LDPEではさらに低くなります。これはプラスチック材料の中でもかなり低い部類に入ります。 
したがって、80℃を超えるような高温環境や、高温下で荷重がかかる用途には使用できません。煮沸消毒や高温洗浄が必要な部品の場合、変形するリスクが高いため、温度条件には特に敏感になる必要があります。 

射出成形性と金型設計のポイント 

流動性の特徴 

溶融したPEは粘度が低く、非常によく流れます。そのため、薄肉製品や複雑な形状の金型でも樹脂を充填しやすく、成形機への負荷も比較的小さいです。ただし、粘弾性が強いため、ゲート部分や突出しピン周辺で「糸引き」が発生しやすい傾向があります。糸引きは自動生産の妨げになるため、成形条件(ノズル温度やサックバック)の調整や、金型ゲート部の温度制御が重要になります。 

離型性が良いが収縮が大きい 

PEは金型からの離型性が良く、無理なく取り出すことができます。金型表面の摩耗も少なく、金型寿命には優しい材料です。しかし、成形収縮率は20/1000〜50/1000(2〜5%)にも達することがあり、これは他の樹脂と比べても極めて大きい数値です。そのため、精密な寸法公差を出すことは非常に難しく、金型製作時の寸法補正も困難を極めます。寸法精度が±0.1mm単位で求められるような部品には不向きです。 

ヒケ・反り・結晶化不良への対策 

収縮量が大きいため、肉厚部では表面が窪む「ヒケ」が顕著に発生します。また、製品の部位による冷却速度の差が収縮差を生み、大きな「反り」となって現れます。これらを防ぐには、成形条件での調整には限界があるため、設計段階での対策が必須です。具体的には、肉厚を可能な限り均一にする、肉盗みを行って厚肉部をなくす、リブを適切に配置して反りを抑制するといった工夫が求められます。 

射出成形での主な用途 

流体機器・薬液接触部品(軽度) 

優れた耐水性と耐薬品性を活かし、ポンプのハウジングやインペラー、配管継手、容器のキャップ類に多用されます。特に水や一般的な薬液を扱う部品としては、コストパフォーマンスに優れた選択肢です。ただし、高濃度の酸化性酸や特定の溶剤など、強薬品環境では劣化する場合があるため、より上位の材料が必要になることがあります。 

産業機器の一般用途 

工場内で使用される部品搬送用のトレイやホルダー、保護カバーなど、直接大きな荷重がかからない一般用途で使用されます。治具類として使用する場合は、短期的な使用に限るか、寸法精度を問わないスペーサー的な役割に適しています。 

家電・日用品の内部部品 

家電製品の水タンクやドレンパン、あるいは衝撃を吸収するバンパー的な役割を持つ内部部品に使用されます。軽量で割れにくい特性が活かされる分野です。 

PEから上位材料へ置換する判断基準 

剛性不足・寸法精度不足が課題の場合 

PEでは柔らかすぎて機能しない、あるいは収縮が大きすぎて嵌合できない場合は、まずPP(ポリプロピレン)への変更を検討します。PPはPEよりも剛性が高く、寸法精度も出しやすいため、多くのケースで解決策となります。さらに高い剛性や精度が必要な場合は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)や、タルク・GF(ガラス繊維)で強化されたPPを選定します。 

耐熱性の不足が課題の場合 

使用環境温度が70℃〜80℃に達する場合、PEでは剛性が著しく低下し変形するリスクがあります。このような場合は、耐熱性に優れるPBTやPA(ポリアミド)への切り替えが必要です。これらは100℃以上の環境でも使用可能なグレードが多く存在します。 

薬品接触が厳しい場合の上位材料の選択 

PEの耐薬品性でも対応できない場合、あるいは耐薬品性と同時に剛性や精度も求められる場合は、POM(ポリアセタール)やPBTが候補となります。さらに過酷な強薬品環境で使用する場合は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の採用を検討します。PPSUやPEIなどのスーパーエンプラは、性能は高いもののコストが非常に高いため、通常は選択肢に入りませんが、代替が効かない極めて厳しい要件の場合のみ例外的に検討します。 

まとめ 

PEは、その軽量性、卓越した耐薬品性、そして完全な耐水性により、射出成形において特定の用途で確固たる地位を築いている材料です。薬液に触れる部品や、衝撃に耐える柔軟な部品には最適ですが、剛性、耐熱性、寸法精度の面では明確な限界があります。 
PEを採用する際は、これらの特性を十分に理解し、用途に適しているかを慎重に見極める必要があります。府中プラでは、PEを用いた成形品の製造実績が多数あり、材料選定から、PE特有の収縮を考慮した金型設計、最適な成形条件の確立まで、一貫した支援が可能です。PE製品の立ち上げや品質改善でお困りの際は、ぜひ府中プラへご相談ください。 

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