技術解説

ウェルドライン強度はなぜ下がるのか? - 融着・配向・応力集中のメカニズムを完全解説 -

ウェルドライン強度はなぜ下がるのか? - 融着・配向・応力集中のメカニズムを完全解説 -

射出成形品の設計において、ウェルドラインは避けて通れない課題です。「ウェルドライン部分は強度が落ちる」「衝撃で割れやすい」ということは広く知られていますが、具体的に「なぜ、どのようなメカニズムで強度が低下するのか」を体系的に理解している設計者は多くありません。

府中プラではこれまで、ウェルドラインに関するコラムを通じて、破断モードの違いや外観不良への対策、現場で生じやすい誤解などを実務的な視点で解説してきました。本コラムでは、これらの知見をベースにしながら、もう一歩踏み込んで「ウェルド強度とは物理的に何で決まるのか」という理論を整理します。

ウェルドライン強度の本質は「界面がどれだけ一体化したか」

フローフロントが合流するとき何が起きているのか

射出成形では、キャビティ内で溶融樹脂が分岐し、障害物を回り込んだ後に再び合流します。この合流部がウェルドラインとなります。問題となるのは、合流する時点での樹脂先端(フローフロント)の状態です。高温のシリンダーから射出された樹脂は、金型内を流動する過程で冷却され続けています。そのため、フローフロントの表面には、温度が低下し粘度が高くなった「スキン層(固化層)」が形成されつつあります。

ウェルドラインとは、金型内で分岐した溶融樹脂が再び合流する際に形成される境界線のことです。強度低下の原因は、合流時の「冷えて固まりかけた表層同士(スキン層)」の接触にあります。内部の溶融層が完全に融合すれば一体化して強度が保たれますが、表層の温度が低いと、接触面が十分に融合せず、微細な境界(界面)が残ります。この界面が構造的な欠陥となり、応力集中が発生する起点となるのです。

「分子鎖の絡み合い」は難しい話ではない

樹脂が融合し、強度が発現するメカニズムは、高分子鎖の挙動で説明できます。樹脂をミクロな視点で見ると、長い鎖状の分子が複雑に絡み合っている状態です。これを「糸の集まり」としてイメージすると理解しやすくなります。

樹脂温度が十分に高く、時間が確保されている場合、合流した界面を越えて分子鎖同士が活発に熱運動し、互いに深く入り込んで絡み合います。この「絡み合い」が十分に形成されれば、ウェルド部は周囲と同等の強度を持ちます。

しかし、合流時の温度が低い、あるいは冷却が速すぎて時間がない場合、分子鎖は界面を越えて移動することができません。結果として、表面同士が単に接触しているだけの「弱い結合」にとどまります。設計者が理解すべき重要な点は、「温度 × 時間」こそが分子鎖の絡み合いを決定し、ウェルド強度の基礎となるパラメータであるということです。

結晶性樹脂がウェルドに厳しい理由

一般的に、非晶性樹脂(PC、ABSなど)よりも結晶性樹脂(PBT、PA、PPSなど)の方がウェルドライン強度の低下が著しい傾向にあります。これには明確な理由があります。

結晶性樹脂は、融点以下になると急速に分子が規則正しく配列し、結晶化しようとします。結晶化が始まると分子鎖の自由な動きが制限され、流動性が急激に低下します。つまり、合流部において分子鎖が界面を越えて絡み合うための「猶予時間」が極めて短いのです。

その結果、合流部には結晶化が進んだ「固い層」同士の界面が形成されやすく、十分な融着が得られにくくなります。結晶性樹脂を使用する際は、非晶性樹脂以上に合流条件がシビアであることを認識しておく必要があります。

フローフロントの温度履歴がウェルド強度を決める

合流点の温度が“そのまま強度”に直結する

ウェルド強度の理論において最も支配的な因子は、合流点におけるフローフロントの樹脂温度です。フローフロントは流動中、常に冷たい金型壁面に接触しながら進みます。ゲートから合流点までの距離が長いほど、あるいは製品肉厚が薄いほど、熱が奪われやすく、合流時の温度は低下します。この「合流時の温度」が高ければ高いほど、分子拡散が促進され、強度は高くなります。つまり、ウェルド強度は「ゲートから合流点に至るまでの温度履歴」の結果として決まります。

“温度だけで決まらない”と誤解されがちな理由

「それなら成形温度を高く設定すれば解決する」と考えがちですが、実務では必ずしもそう単純ではありません。樹脂温度や金型温度を上げれば、確かに合流部の融着性は向上します。しかし、温度上昇は樹脂の熱分解によるガス発生を招きやすくなります。発生したガスがウェルド部に滞留すると、樹脂同士の接触が物理的に阻害され、逆に強度が著しく低下する「ガス焼けウェルド」を引き起こします。

また、過度な低粘度化によって射出速度が不安定になり、フローフロントが乱れて空気を巻き込むケースもあります。温度は重要ですが、それはあくまで「清浄な界面同士が接触する」という前提の上での話です。

結局、合流部で確保すべきは「十分な樹脂状態(溶融性)」

ウェルド強度を決定づける要素は、温度、圧力、流動速度など多岐にわたりますが、理論的に集約すると「合流部において、樹脂が溶融状態(流動性)をどれだけ保てているか」という一点に尽きます。

保圧が十分に伝わることも重要ですが、そもそも固化が進行してしまっていれば、いくら圧力をかけても分子鎖は絡み合いません。設計者は、樹脂が金型内を走り、合流地点に到達したその瞬間に、まだ「生きている(溶融している)」状態を維持できるかどうかを想像する必要があります。

ガラス繊維入り樹脂がウェルドに弱くなる“構造的理由”

GFが横方向に寝ると、そこが“割れ目”になる

ガラス繊維(GF)強化樹脂の場合、ウェルドラインの強度低下はさらに深刻です。これは「繊維配向」の問題が加わるためです。通常、樹脂中のガラス繊維は流動方向に沿って配向する性質があり、これが引張荷重に対する補強効果を生みます。しかし、ウェルドラインが形成される合流部では、フローフロント同士が正面衝突したり、並走して接したりするため、流動方向が複雑になります。

特に正面衝突型のウェルドでは、合流界面においてガラス繊維が界面と平行に並ぶ傾向があります。これでは繊維が界面をまたいで「橋渡し」をする補強効果が得られません。結果として、樹脂マトリックスのみの強度、あるいはそれ以下の強度しか発揮できず、そこが明確な「割れ目」となります。この繊維配向による異方性の問題は、「金属代替」カテゴリでも詳しく解説している通り、樹脂化設計における最大の注意点の一つです。

融着と繊維配向が同時に悪化する二重の要因

GF強化グレードのウェルド強度が低いのは、以下の2つの要因が重なるためです。

  1. マトリックス樹脂の融着不足: GF強化グレードは熱伝導率の関係や流動抵抗の高さから、フローフロントの温度低下が起きやすく、樹脂成分自体の融着が弱くなりやすい。
  2. 繊維による補強効果の喪失: 前述の通り、界面における繊維配向が強度に寄与しない向きになる。

この「二重弱点」により、GF強化グレードであっても、ウェルド部の強度は非強化グレードと同等、あるいはそれ以下になるケースさえあります。

“繊維が多い方が強い”とは限らない

一般部の強度は、GF含有率が高いほど向上しますが、ウェルド強度に関しては、この常識が通用しない場合があります。

GF含有率が高くなると、相対的に接着剤の役割を果たす樹脂成分の量が減少し、界面における樹脂同士の結合面積が減ります。さらに、大量の繊維が界面で乱れることで欠陥が増加します。そのため、高充填グレードほどウェルド強度保持率(一般部強度に対する比率)が著しく低下し、絶対的な強度においても逆転現象が起きることがあります。

ウェルドが“割れやすい”設計形状と応力の溜まり方

ウェルド角度が鋭いと負荷に耐えられない

ウェルドラインの強度は、樹脂流動の「合流角度」によっても変化します。

  • 合流角度が小さい(並走に近い)場合: 流れが合流した後もスムーズに流れ続けるため、界面が引き伸ばされ、分子配向が揃いやすく、比較的強度が保たれます(メルドライン)。
  • 合流角度が大きい(正面衝突に近い)場合: フローフロント同士が真正面からぶつかり、その場で流れが止まる、あるいはよどみが発生します。この場合、融合が不十分になりやすく、明確なウェルドラインが形成されます。

また、物理的な形状としてウェルド部が鋭角な「V字ノッチ」のような形状になると、そこに応力が集中しやすくなります。設計上、合流角度が大きくなる箇所は、構造的な弱点になりやすいと認識すべきです。

応力がウェルド部に集中する形状例

最も避けるべき設計は、「応力が集中する部位」に「ウェルドライン」を重ねることです。以下のような形状はリスクが高まります。

  • ボスの周辺: 穴が開いているため必ずウェルドが発生しますが、ボスはネジ締めや圧入によって常に広がる力がかかる場所です。ここに弱いウェルドがあると、容易にクラックが入ります。
  • リブの付け根: 荷重を受けた際、リブの根元には曲げモーメントによる応力が集中します。
  • 肉厚変化の境界部: 剛性が急変する場所に応力が溜まりやすく、そこにウェルドがあると破壊の起点になります。

強度が出ないときに設計者が考えるべきチェックポイント

ウェルド強度の問題に直面した場合、以下の視点で設計を見直す必要があります。

  1. ウェルド位置の制御: ゲート位置を変更することで、ウェルドラインを応力の低い場所、あるいは衝撃が加わらない場所に移動できないか。
  2. 荷重方向との関係: 引張荷重や曲げ荷重がかかる方向に対して、ウェルドラインが直交していないか(直交すると開口モードで力がかかり、最も弱い)。
  3. 冷却バランス: 肉厚変化によって流動が不均一になり、局所的に冷えた樹脂が合流していないか。
  4. ウェルド強度を高めるための実務的アプローチ

ウェルド強度を高めるための実務的アプローチ

「温度を上げる」は万能ではない

前述の通り、成形温度や金型温度を上げることは融着改善の基本ですが、それだけでは解決しない、あるいは副作用が生じることがあります。

重要なのは「金型全体の温度を上げること」そのものではなく、「合流部での樹脂温度が必要十分であること」です。全体を上げすぎてサイクルタイムが延びたり、ガス焼けが発生したりしては本末転倒です。局所的な金型温調や、高速充填によってせん断発熱を利用し、合流部の温度を確保するといったテクニックが求められます。

流れをスムーズにする“フローフロント制御”

樹脂の流れ方を設計的にコントロールすることで、強度改善が可能です。例えば、合流部付近の肉厚を意図的に厚くすることで流動抵抗を下げ、フローフロントの速度を維持して合流させる手法があります。また、ボス周辺では、ウェルドが発生する位置に「捨てボス」を設け、合流後の冷えた樹脂やガスを製品外へ押し出すことで、製品部分の融着強度を高める方法も有効です。

材料側の視点

材料選定の段階でリスクを低減することも可能です。

  • 高流動グレード: 同一樹脂でも流動性が高いグレードは、圧力伝達が良く、合流部での分子拡散が進みやすいため、ウェルド強度が向上する傾向があります。
  • 耐熱性・結晶性の考慮: 結晶性樹脂を使用する場合、金型温度を高めに設定して結晶化を遅らせ、融着時間を稼ぐことが必須となります。
  • GFグレードの選定: 強度が最優先される場合、あえてGF含有率を下げてマトリックスの融着性を優先するか、長繊維グレードを使用して絡み合い効果を狙うといった選択肢も検討します。

まとめ

ウェルドライン強度は、「分子レベルの融着」、「合流時のフローフロント温度」、「繊維配向」、「製品形状による応力集中」という複数の要因が絡み合って決定されます。

これら全てを厳密な理論で計算することは困難ですが、設計者が押さえておくべき本質はシンプルです。それは「合流部において樹脂が十分に溶融し、分子同士が絡み合うための時間を確保すること」です。

この原理原則に基づき、設計(形状・ゲート位置)、金型(ガス抜き・温調)、成形(充填速度・圧力)、材料(グレード選定)の視点を統合することで、ウェルドラインによる強度低下のリスクを最小限に抑えることが可能となります。本コラムで解説した理論体系を、既存の実務対策と合わせて活用し、より信頼性の高い製品設計にお役立てください。的な対策となります。成形品の品質でお困りのことがございましたら、ぜひ一度、府中プラの技術相談窓口までお問い合わせください。金型診断から解析まで、トータルでサポートします。

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