技術解説

射出成形の納期はどこで決まるのか - 射出成形の体系的理解 コストと納期編-2 

射出成形の納期はどこで決まるのか - 射出成形の体系的理解 コストと納期編-2 

射出成形部品の発注や量産立ち上げにおいて、「納期」はコストと並んで重要な判断軸になります。ただ実務では、提示されたリードタイムどおりに進まず、「思ったより時間がかかる」「なぜこんなに延びるのか」と感じる場面が少なくありません。 
こうした場面では、成形加工の段取りや金型製作の遅れが原因として語られがちです。
ただ、それだけで納期を説明できるケースは多くありません。射出成形における納期は、単に成形機で製品を作る時間や、金型を製作する期間だけで決まるものではありません。むしろ、製品を安定して量産できる状態に至るまでに、どれだけの前提条件を整える必要があるかによって、大きく左右されます。 
本記事では、射出成形の納期を「加工時間」や「工程日数」の話としてではなく、設計・材料・金型・成形条件が成立するまでの時間軸の構造として整理します。納期を短縮する方法を列挙するのではなく、どこで時間が固定され、どこに余地が残されているのかを見極めるための考え方を提示することを目的とします。 

射出成形の納期は「加工時間」ではない 

射出成形の納期を考える際、多くの場合、成形機での加工時間や金型製作期間が真っ先に思い浮かびます。確かに、これらは納期を構成する重要な要素です。しかし、射出成形の実務においては、それらは全体の一部に過ぎません。
射出成形では、金型が完成し、成形機にセットされたとしても、すぐに量産が始まるわけではありません。ペレット(プラスチック材料)を溶融し、金型内に充填し、冷却・固化させるという工程が、安定して繰り返せる条件を見つけ出す必要があります。この条件出しには、材料特性、金型構造、成形機の能力が複雑に関係しており、単純な作業時間として見積もることはできません。
さらに、条件が一度決まれば終わりというわけでもありません。初期条件で問題がなかったとしても、量産数量が増えた際や、外観要求や寸法要求が厳しい場合には、条件の再調整や追加検証が必要になることもあります。こうした工程を経て、初めて「安定して作れる状態」に到達します。
つまり、射出成形の納期とは、加工そのものに要する時間ではなく、工程が成立し、再現性を持って回る状態になるまでに必要な時間を含めたものなのです。 

射出成形の納期は、成形加工や金型製作の話だけではなく、設計・材料・工程がどのような前提条件で成立するかという構造の結果として現れます。こうした考え方を、コストの視点も含めて全体像として整理した内容は、以下の記事で解説しています。
射出成形のコストと納期 -トータルコストを左右する設計と生産の考え方

納期を構成する「時間軸」を分解する 

射出成形の納期が分かりにくくなる理由の一つは、複数の時間軸が同時に存在している点にあります。納期は単一の工程で決まるのではなく、いくつかの時間要素が積み重なった結果として現れます。
まず、金型設計・製作にかかる時間があります。製品形状や公差、想定数量に応じて金型構造が決まり、その設計と加工、組み立て、調整が必要です。ここで設計が固まっていなかったり、後から修正が入ったりすれば、その分だけ時間は延びます。
次に、成形条件を確立するための時間があります。材料の溶融温度、射出速度、保圧条件、冷却時間などは、材料や金型によって最適値が異なります。条件の許容幅が狭い製品ほど、安定条件を見つけるまでに時間がかかります。
さらに、評価や承認に要する時間も無視できません。試作品の測定、外観確認、社内外での承認プロセスが必要な場合、それらも納期に含まれます。これらの工程は多くの場合、直列で進むため、どこか一つが滞ると全体のスケジュールに影響します。
射出成形の納期は、こうした複数の時間軸が重なり合った結果として成立しており、単純な工程日数の合計では把握できない構造を持っています。 

材料調達も納期を支配する重要な要素 

射出成形の納期を語る際に見落とされがちなのが、材料調達の時間です。材料調達は、成形工程とは別の時間軸で動きます。
樹脂材料には、材料メーカーが常時在庫している標準グレードや標準カラーもあれば、特定用途向けに受注生産されるグレードやカラーも存在します。在庫品であれば比較的短期間で手配できますが、受注生産の場合には、コンパウンド工程や生産待ちが発生し、その分だけリードタイムは長くなります。
このように、材料仕様や供給形態の選択は、成形工程とは独立した時間軸を持ち、設計段階で納期の一部を固定してしまう要素となります。 

材料仕様の選択が納期を左右する理由 

射出成形の納期を考えるうえで、材料調達は単なる前段取りではありません。材料仕様の選択そのものが、納期の時間軸を大きく左右します。
樹脂材料には、材料メーカーが常時在庫している標準グレードや標準カラーがある一方で、用途や性能に応じて受注生産となるグレードやカラーも存在します。受注生産の場合、材料メーカー側でのコンパウンド工程や生産計画に依存するため、調達リードタイムは在庫品に比べて長くなります。
また、樹脂ペレットが海外で生産されている場合、輸送手段として船便を前提とするケースが一般的です。この場合、距離が長くなるほど調達リードタイムは長期化します。これは供給体制の良し悪しではなく、物理的な距離に起因する時間であり、成形側で短縮することはできません。
一方で、同等の物性や要求性能を満たす材料を、海外でもより近い地域で生産されているものや、国内生産の材料に切り替えることができれば、調達リードタイムは短縮されます。つまり、材料仕様の選択次第で、納期を動かせる余地はむしろ大きくなる場合もあります。重要なのは、こうした違いが成形工程ではなく、材料選定の段階で決まっているという点であり、設計段階、見積段階で、材料選定の妥当性を確認するということです。 

材料メーカー側の原材料調達も納期に影響する 

さらに見落とされがちなのが、材料メーカー自身が行っている原材料調達です。成形メーカーが手配するのは樹脂ペレットですが、その樹脂ペレットを製造するためには、難燃剤、難燃助剤、添加剤、顔料など、さまざまな原材料が必要になります。
材料メーカーが使用するこうした原材料は、市況や需給バランスの影響を受けやすく、安定的に調達できるとは限りません。近年では、臭素系難燃剤に用いられる難燃助剤の高騰や調達難が発生し、特定の難燃グレードについては、これまでの納期やコストでは調達できないケースも見られます。
このような場合、成形メーカー側では材料を「在庫品」として扱っていたとしても、材料メーカー側での原材料調達が滞れば、結果としてペレットの供給が遅れ、納期に影響が及びます。つまり、材料が在庫品か受注生産かという区分だけではなく、その材料がどの原材料に依存しているかも、納期リスクを左右する要因となります。
設計・見積もり段階で特殊な性能や規格対応を優先して材料を選定する場合、量産開始時点で織り込んでいい費用、納期は、将来的に追加で発生する可能性を考慮する必要があります。 

納期リスクは設計段階で整理できる 

ここまで見てきたように、射出成形の納期は、金型製作や成形条件だけでなく、材料仕様、供給形態、輸送距離、さらには材料メーカー側の原材料調達まで含めた複数の時間軸によって構成されています。
これらは量産が始まってから調整することが難しい要素であり、設計段階でどの前提条件を選ぶかによって、納期の現実性や柔軟性が大きく変わります。材料を変えることで納期短縮が可能な場合もあれば、逆に材料選定によって納期が長期化するリスクを内包してしまう場合もあります。
重要なのは、すべての要素を設計者や購買担当が単独で把握し、判断しなければならないわけではないという点です。これらの前提条件は情報量が多く、日常業務の中で網羅的に管理することは現実的ではありません。 

前提条件を共有することで納期は判断できる 

射出成形において納期を現実的に判断するためには、成形工程だけを見るのではなく、材料供給を含めたバリューチェーン全体を前提条件として共有することが重要になります。
府中プラでは、材料メーカー側の立場で原材料調達やグレード設計、需給変動に関わってきた経験を背景に、成形工程に閉じない視点から納期リスクを整理しています。材料仕様の選定段階から、どの要素が納期を固定し、どの要素で調整が可能かを事前に見立てることで、後工程での想定外の遅延を防ぐ支援を行っています。
納期を「短くする方法」を探すのではなく、「どこで納期が決まっているのか」を共有することが、結果として合理的な意思決定につながります。 

まとめ 

射出成形の納期は、成形加工や金型製作の問題だけで決まるものではありません。材料仕様、供給形態、輸送距離、材料メーカー側の原材料調達といった複数の前提条件が重なり合い、その結果として現れます。
これらの前提条件は、量産が始まってから調整することが難しく、設計段階でどの選択をするかが納期の現実性を左右します。だからこそ、納期を感覚や経験則で判断するのではなく、前提条件を整理したうえで構造として捉えることが重要です。
射出成形の納期を正しく理解することで、設計・調達・生産の間で共通認識を持ち、無理のないスケジュールと現実的な判断が可能になります。 

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