成形実績一覧

PAアロイとは

PAアロイとは、ポリアミド(ナイロン)樹脂と他の樹脂を組み合わせて作られたポリマーアロイのことです​。異なる高分子材料同士を混合して互いの長所を活かし、短所を補うことで、新たな高性能樹脂を創出する手法です​。金属の合金になぞらえてこのような樹脂のブレンドを「アロイ」と呼びます。例えば、PA樹脂は単体でも優れたエンプラですが、その特性をさらに高めたり、欠点を改善するために、他の樹脂とのアロイ化が広く行われています。

代表的なPA樹脂(PA6、PA66など)は、軽量で強度・剛性が高く、耐熱性や耐油・耐薬品性にも優れるため、自動車部品をはじめ工業用途で幅広く使用されています​。しかし、一方でポリアミドは吸水しやすい性質があり、湿度や水分を吸収すると寸法変化や機械的強度の低下を招く欠点があります​。実際、ナイロンは乾燥した状態や低温(0℃以下)では衝撃に対する靱性が低下し脆くなる傾向が知られています​。また成形収縮が大きく、成形後の寸法安定性や精度確保が課題となる場合もあります。こうしたPA単体の弱点を克服し、用途の要求特性に適合させるために開発されたのが「PAアロイ」です。以下、代表的なPAアロイについて解説します。

PA/ABS
PA/ABSは、結晶性樹脂であるポリアミド(主にPA6)に、ゴム強化型の汎用樹脂ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)をブレンドした材料です​。一見性質の異なる組み合わせですが、相溶化剤の助けを借りて微細な二相構造を形成しており、ナイロンマトリックス中に微小なABS相(ブタジエン系ゴム粒子を含む)が分散した構造を持つことが一般的です。この構造により、ナイロン単体では得られない高い靱性と成形安定性を示します。

特徴
1. 優れた耐衝撃性:ABS由来の特性により、低温でも高い耐衝撃性を維持します。
2. 良好な表面外観:ABSの特性を活かし、光沢のある美しい表面仕上がりが得られます。
3. 高い疲労強度:PAの特性により、繰り返し応力に対する耐久性が向上しています。
4. 優れた耐油性と摺動性:PAの特性を活かし、油環境下での使用や摺動部品に適しています。
5. 優れた塗装性:ABSの特性により、塗装が容易で、意匠性の高い部品製造が可能です。

主な製品例
– ノバセル ノバロイ®A
– 東レ TOYOLAC™ PA/ABS
– BASF Terblend® N

PA/ABSは自動車部品(インパネ、ドアハンドルなど)、電子機器筐体、工具ハウジングなどに広く使用されています。特に、機械的強度と耐衝撃性のバランスが求められる部品に適しており、金属代替材料としても注目されています。

PA/PPE
PA/PPEアロイは、ポリアミド(主にPA6またはPA66)と変性PPE(ポリフェニレンエーテル)を組み合わせたポリマーアロイです。PPEは高耐熱・難燃性を持つエンプラですが、単体では非常に成形しにくく、通常はポリスチレンなどとブレンドしたm-PPE(ノリル™などの商品名)として流通しています​。このPPEをナイロンとアロイ化したのがPA/PPEで、結晶性のナイロン相と非晶性のPPE相からなる二相系のポリマーアロイです。一般にPPEとナイロンは直接混合すると相容れない組み合わせですが、相溶化剤(エポキシ基を有するスチレン系樹脂や変性オレフィン系樹脂など)を用いることで互いに強く結合した微細相構造を実現しています​。

特徴
1. 高い耐熱性:PPEの特性により、高温環境下での使用が可能です。連続使用温度は150℃以上に達します。
2. 優れた寸法安定性:PPEの低吸水性により、湿度変化による寸法変化が抑制されています。
3. 低吸水性:PAの吸水性をPPEにより抑制し、機械的特性の安定性が向上しています。
4. 優れた耐油性:PAの特性により、各種油類に対する耐性が高くなっています。
5. 高い剛性:PAとPPEの特性を組み合わせることで、広い温度範囲で高い剛性を維持します。

主な製品例
– 旭化成 Xyron™ PA/PPEアロイ
– SABIC NORYL GTX™

PA/PPEは自動車エンジン周辺部品、電子部品、高温環境下で使用される精密部品などに広く採用されています。特に、高温・高湿環境下での使用や、寸法安定性が求められる精密部品に適しています。

PA/PC
PA/PCは、ポリアミドとポリカーボネートという、それぞれ汎用エンプとして広範囲の用途で実績のある材料同士を組み合わせたポリマーアロイです。PCは高い耐熱性と耐衝撃性を持つ透明樹脂ですが、粘度が高く流動性が悪いため射出成形で厚肉品や複雑形状を作りにくいという欠点があります​。一方、ポリアミドは流動性に優れますが、乾燥状態での脆さや吸水による寸法変化があります。PA/PCアロイはこの両者を組み合わせ、PCの剛性・耐熱性とポリアミドの加工性・耐薬品性を両立させる狙いで開発されました​。しかし、ポリアミドとPCは化学構造上、直接ブレンドすると成形中に縮合交換反応が起きて互いの分子量を低下させてしまう難しい組み合わせです​。そのため、PA/PCでは特殊な相溶化技術が鍵となっており、PC側にエポキシ基を持たせた相溶化剤や両者とそれぞれ反応できる架橋剤を用いることで安定な共存相を作り出しています。生成する相構造は組成比により様々ですが、適切に相容化されたものではPA相とPC相が微細に分散した複雑な多相構造となります。

特徴
1. 高い耐衝撃性:PCの特性により、広い温度範囲で優れた耐衝撃性を実現しています。
2. 優れた耐熱性:PCの特性により、高温環境下での使用が可能です。熱変形温度は170℃以上に達します。
3. 良好な耐薬品性:PAの特性により、多くの化学物質に対して安定性を示します。
4. 優れた寸法安定性:PCの特性により、温度変化や湿度変化による寸法変化が抑制されています。
5. 高い透明性(グレードによる):PCの特性を活かし、一部のグレードでは高い透明性を実現しています。

主な製品例
– コベストロ Makroblend®

PA/PCは自動車外装部品、電子機器筐体、安全器具(ヘルメット、ゴーグルなど)に広く使用されています。特に、高い耐衝撃性と耐熱性が求められる部品に適しており、金属代替材料としても注目されています。

PAアロイを推奨する用途・ニーズ

01 PA/ABS

PA/ABS

当社は、PA/ABSアロイの優れた特性を活かし、スポーツ・レジャー用品分野での活用を強くお勧めしています。特に、スノーボードやサーフボードの製造に最適な材料です。PA/ABSは、高い耐衝撃性と優れた表面外観を兼ね備えており、過酷な使用環境に耐えつつ、美しい仕上がりを実現します。

例えば、スノーボードのトップシートやサイドウォールにPA/ABSを使用することで、雪面との接触や転倒時の衝撃に強い耐久性を確保しつつ、鮮やかなデザインや光沢のある表面仕上げが可能となります。また、サーフボードのデッキ部分やフィン取り付け部にも適しており、海水や紫外線に対する耐性と高い強度を両立させます。

さらに、PA/ABSの優れた成形性により、複雑な形状や薄肉部品の製造が容易になり、軽量化と高強度を同時に実現できます。これは、ボードの操作性向上やパフォーマンス向上に直結します。当社は、お客様のニーズに合わせて最適なPA/ABSグレードを提案し、製品の高付加価値化と差別化をサポートいたします。

02 PA/PPE

PA/PPE

当社は、PA/PPEアロイの優れた特性を活かし、高性能な電子機器筐体への応用をお勧めしています。特に、5G通信機器やサーバー機器のハウジングに最適な材料です。PA/PPEは、高い耐熱性、優れた寸法安定性、低吸水性を兼ね備えており、高温環境下での安定した性能と長期信頼性を実現します。

例えば、5G基地局の屋外設置用筐体にPA/PPEを使用することで、高温多湿環境下でも変形や劣化が少なく、内部の精密機器を確実に保護します。また、データセンターのサーバーラックやスイッチングハブのケーシングにも適しており、高い放熱性と電気絶縁性を両立させます。

さらに、PA/PPEの優れた耐薬品性により、清掃や消毒作業による劣化を防ぎ、長期間にわたって美観を維持できます。また、難燃性グレードを選択することで、UL規格に準拠した安全性の高い製品設計が可能となります。当社は、お客様の製品仕様や使用環境に応じて最適なPA/PPEグレードを提案し、高性能電子機器の信頼性向上と長寿命化をサポートいたします。

03 PA/PC

PA/PC

当社は、PA/PCアロイの優れた特性を活かし、高機能な医療機器部品への応用をお勧めしています。特に、内視鏡やカテーテルなどの精密医療機器の構造部品に最適な材料です。PA/PCは、高い耐衝撃性、優れた耐熱性、良好な耐薬品性を兼ね備えており、厳しい滅菌処理や繰り返しの使用に耐える信頼性の高い医療機器の製造を可能にします。

例えば、内視鏡の操作部ハンドルやカメラヘッド部分にPA/PCを使用することで、高い剛性と耐衝撃性を確保しつつ、複雑な形状の成形が可能となります。また、カテーテルのハブやコネクタ部分にも適しており、化学的安定性と生体適合性を両立させます。

さらに、PA/PCの優れた寸法安定性により、高精度な部品製造が可能となり、医療機器の性能と安全性の向上に貢献します。また、透明性の高いグレードを選択することで、医療従事者が内部の状態を視認できる部品設計も可能です。当社は、お客様の製品仕様や規制要件に応じて最適なPA/PCグレードを提案し、高機能医療機器の開発と製造をトータルにサポートいたします。

当社のPAアロイ成形における強み

01 製品デザイン、金型デザインに関するノウハウ

製品デザイン、金型デザインに関するノウハウ

PAアロイの製品設計と金型設計では、各アロイの特性を考慮した最適化が重要です。PA/ABSでは、ABSの特性を活かした表面品質の向上と、PAの機械的強度を両立させるため、金型表面処理や冷却回路の最適化を行います。PA/PPEに関しては、高い耐熱性を考慮し、金型材料の選定や構造設計を最適化します。PA/PCでは、PAの耐薬品性とPCの機械的強度を両立させるための金型設計を行い、特にゲート位置や冷却回路の最適化に注力します。

全てのPAアロイにおいて、吸湿による寸法変化を最小限に抑えるため、均一な肉厚設計やリブ配置の最適化を行います。また、ゲート位置や冷却回路の設計を工夫し、成形収縮率の差による反りや歪みを防止します。特に、ガラス繊維強化グレードを使用する際は、繊維配向による異方性を考慮した金型設計を行い、寸法安定性を向上させます。

02 最適な成形条件の設定

 最適な成形条件の設定

PAアロイの成形には、各アロイの特性に応じた適切な温度管理と成形圧力の調整が不可欠です。全てのPAアロイに共通して、吸湿による成形不良を防ぐため、成形前の十分な乾燥(80~120℃で4~6時間)を徹底します。
PA/ABSの成形時には、ABSの流動性とPAの結晶化度を考慮し、金型温度を60~80℃に設定します。PA/PPEに関しては、高い耐熱性を活かすため、金型温度を100℃以上に設定し、結晶化を促進させます。PA/PCの成形では、PAの機械的強度とPCの耐衝撃性を最適なバランスで引き出すため、射出速度と保圧を適切に設定します。

ガラス繊維強化グレードを使用する際は、繊維配向による異方性を考慮し、射出速度や保圧条件を調整します。さらに、薄肉成形や複雑形状の成形にも対応するため、流動解析技術を活用し、最適な充填バランスを確保します。これにより、ウェルドラインの低減やボイドの発生を抑制し、高品質な成形品を安定して生産します。

PAアロイの技術コラム