射出成形の工程監査対応 ─ 確認項目とデジタル化で支える工程管理
射出成形の品質は、材料の受け入れ、乾燥、成形条件、金型のメンテナンスといった個々の管理の積み重ねで決まります。それぞれの管理の中身については、乾燥を制する者は成形を制す:エンプラ射出成形における乾燥の重要性 | 射出成形の駆け込み寺.comをはじめ各コラムで解説しています。本コラムでは、顧客の工程監査でどのような点が確認されるのかという全体像と、それに対する当社の工程管理の取り組みをご紹介します。
工程監査とは何か
受入検査が、納入された製品そのものを見るのに対し、工程監査は、その製品がどのようにつくられているかを見ます。実施のタイミングは、取引の開始前、量産への移行前、不具合の発生後、そして定期的な確認です。目的は、不良を出さない仕組みがあるか、そして不良が出たときに原因を追える仕組みがあるかを確かめることにあります。
監査の形式には、質問票への回答や書類の提出で確認する書面監査と、工場を訪問して現場を確認する実地監査があります。近年は、映像や共有画面を使って現場や記録を確認するリモート監査も広がっています。
ISO 9001などの認証審査が、品質マネジメントの仕組みが規格に適合しているかを確認するのに対し、顧客の工程監査は、発注する特定の製品について、その仕組みが現場で実際に機能しているかを具体的に確かめます。
射出成形の工程監査で確認される項目
射出成形の工程監査では、主に次の点が確認されます。
・成形条件と生産の管理:条件書と成形機の設定値の一致、条件変更の記録、成形開始時の捨てショットの基準
・材料・金型・検査の管理:材料の受入と乾燥、再生材や粉砕材の扱い(【再生材・粉砕材の使用可否をどう決める?混合率と品質管理】)、金型のメンテナンスとショット数、判定基準と検査記録
・記録とトレーサビリティ:ロットや日付・キャビティの識別(【樹脂材料のロットトレーサビリティとは?材料ロットから製品までのつなぎ方】)、不適合品の処置、人・設備・材料・方法の4M変更の連絡手順
管理文書と現場オペレーションのずれ
管理文書に定められた規定内容と現場オペレーションのずれは工程管理上、望ましくありません。条件書の値と成形機の設定値が違う、記録に空欄や後からまとめて書いた形跡がある、乾燥の記録が残っていない、不適合品の置き場が決まっていない、測定器の校正期限が切れている、といった例です。いずれも、仕組みとしては存在していても、現場で運用されていないことを示すものです。
こうしたずれの多くは、条件や記録を人の手で書き写す過程で生じます。当社では、この書き写しの過程そのものを減らすことを工程管理の基本に据え、製造現場のデジタル化を進めてきました。以下、当社の工程管理をご紹介します。
当社の工程管理の基盤 ─ 自社開発の基幹システム
当社は1967年の設立以来、3,000型を超える金型の起工と射出成形の実績を積み重ねてきました。その過程で、品質を安定させるには現場の情報を正確に把握し続けることが欠かせないと考え、2000年代初頭からDXへの投資を進めてきました。
その中核が、業界に先駆けて導入した生産管理システム「MICS」です。受注、工程、生産計画の管理を一元化し、それまで個々の担当者が把握していた受注状況や工程の進捗、設備の稼働状況を、全社で共有できる環境を整えています。
さらに、MICSと連携する独自の基幹システムを開発し、稼働させています。当社の企業規模でオリジナルの基幹システムを開発・運用している例は、業界内でも極めて少なく、このシステムが当社の工程管理の根幹を支えています。
DXの推進は、経営の意思決定と一体で進めています。DX戦略は代表取締役が推進の最終責任者を務めるとともに、製造現場の側にもDX推進責任者を任命しています。社内勉強会を通じて、社員のデジタル活用の力も継続的に高めています。DX戦略の詳細は、コーポレートサイトのDX戦略ページでご紹介しています。
成形機のIoT連携による成形条件と生産の管理
成形現場では、成形機と基幹システムをIoTで連携させ、各成形機の稼働状況、ショット数、成形条件をリアルタイムで収集・可視化しています。成形条件は成形機横の端末で確認できる状態になっています。
これにより、熟練作業者の経験と感覚に頼っていた現場の管理を、データに基づく判断へと移行しつつあります。成形条件の標準化と最適化が進むことで、成形の難しい案件でも品質の再現性を高めています。当社の成形機は、すべて400℃に対応する高温仕様です。PEEKやPPSなど、高い成形温度を必要とするスーパーエンプラも、こうした管理のもとで安定して量産しています。
生産計画の作成や修正、各種データの集計も、システムの連携によって自動化しています。これらの作業を社員の手作業から切り離したことで、省人化と生産オペレーションのスピードアップを実現しました。業界では3交代制での稼働が一般的な中、当社が2交代制での生産を維持できているのも、こうした取り組みの成果の一つです。
当社の材料・金型・検査の管理
材料は材料メーカーのロット番号で識別しています。粉砕材は、お客様に使用を承認いただき、品質上の問題がないことを確認できた場合に限って使用しています。
金型の日常のメンテナンスは、金型の構造を深く理解した自社の社員が社内で行っています。金型修理で金型メーカーに返送すると、コンディションがよいと評価されることが多くあります。お預かりしている金型は、大型のものを除き、自動倉庫で防錆対策を施して保管しています。
検査では、外観の判定基準を画像で保存し、成形オペレーターが量産中に端末で確認できるようにしています。判定基準を現場で常に参照できるため、担当者による判断のばらつきを抑えられます。寸法は、お客様ご指定の測定条件で測定し、ご要望に応じて量産中もキャビティごとに管理しています【多数個取り金型の寸法検査は全キャビティ測定が必要か ─ キャビティ間差の管理】。
当社の記録とトレーサビリティの管理
成形ロットは、1回の連続生産を1つのロットとしてシステムで採番し、成形ロットごとに使用した材料ロットを記録しています。製品仕様、成形条件、生産実績も基幹システムで記録・管理しているため、過去のロットを指定されれば、材料ロットや成形条件まで速やかに遡れます。不具合の際の原因の特定と再発防止も、このデータによって迅速に行えます。
蓄積したデータは、材料・形状ごとに参照できる形で整理し、新規案件の検討にも活用しています。特定の個人の経験に頼っていた技術知見を、組織として引き継げる資産に変える取り組みです。
ISO文書は電子化を完了し、製品仕様や成形条件、重要管理ポイントをデジタルで運用しています。作業記録をリアルタイムで共有でき、過去のデータにもすぐにアクセスできるため、転記ミスや情報更新の漏れといった人為的な誤りを減らせます。監査の場で求められた記録をすぐに提示でき、リモート監査にも対応しやすくなっています。
作業指示書など一部の帳票は電子化の途上にあり、製造現場の完全なペーパーレス化を目標に取り組んでいます。あわせて、蓄積される現場のデータを生産管理と品質管理の高度化につなげる基盤の整備も進めています。
お預かりする図面などの情報については、秘密保持契約の締結を徹底するとともに、情報管理の社内ルールを整備しています。
射出成形の工程監査チェックリスト
・成形条件書の値と、成形機の実際の設定値が一致しているか
・成形条件やショット数が、人の転記に頼らず記録されているか
・材料の乾燥条件と記録が残っているか
・金型のメンテナンス記録とショット数が管理されているか
・外観や寸法の判定基準が、現場で参照できる状態にあるか
・過去のロットを指定して、材料ロットや成形条件まで遡れるか
・4M変更を顧客に連絡し、承認を得る手順があるか
まとめ
工程監査の要点は、書類と現場が一致しているか、そして不具合が起きたときに遡れるかの2点に集約されます。当社では、2000年代初頭から続けてきたDX投資とオ独自の基幹システムによって、この2点を日常の運用の中で満たす体制を整えています。
本コラムでご紹介できたのは、当社の工程管理のごく一部にすぎません。工場にご来社いただいた際には、当社の担当者が実際の現場とあわせてご説明させていただきます。お客様に安心してお取引いただけるよう、当社はこれからも最善の努力を続けてまいります。





