技術解説

多数個取り金型の寸法検査は全キャビティ測定が必要か ─ キャビティ間差の管理

多数個取り金型の寸法検査は全キャビティ測定が必要か ─ キャビティ間差の管理

射出成形品の寸法がなぜばらつくのか、また実現可能な公差をどう設計するかについては、射出成形品の寸法はなぜバラつくのか?:金属加工とは異なる公差設計の視点 | 射出成形の駆け込み寺.comおよび射出成形で公差を実現するために:材料・金型・設計で整える精度管理の実践 | 射出成形の駆け込み寺.comで解説しています。本コラムでは公差そのものの考え方には踏み込まず、多数個取り金型において、どのキャビティを測るのかという検査範囲の決め方に絞ってご説明します。

多数個取り金型でキャビティ間の寸法は揃うのか

結論から申し上げますと、完全に揃えることは困難です。

同じ金型から同じショットで出た製品であっても、キャビティごとに寸法には差が生じます。各キャビティへの樹脂の到達時間と圧力が完全に均一にはならないこと、冷却回路の効き方が金型内の位置によって異なること、キャビティ自体に加工差があること、型内圧の分布に偏りがあることなどが要因です。

重要なのは、このキャビティ間差が、時間の経過とともに生じるショット間のばらつきとは性質が違うという点です。ショット間差は成形条件や材料の状態に起因し、条件管理で縮められます。一方のキャビティ間差は金型構造の影響が大きく、成形条件の調整だけでは解消できない場合があります。両者を分けて捉えることが、検査範囲を考える出発点になります。

測定するキャビティの範囲は2通り ─ 全キャビティ・代表のみ

キャビティという軸で見たとき、測定範囲の取り方は大きく2通りです。

全キャビティを測る方法は、どのキャビティも公差内であることを直接確認できます。ただし取り数が多い金型では現実的でない場面もあります。

代表キャビティだけを測る方法は、工数は軽くなります。ただし、代表以外のキャビティが公差内かどうかは、この方法では保証できません。ここを曖昧にしたまま量産に入ると、後から「検査には合格していたが、特定キャビティの製品だけ組み付かない」という事態が起こり得ます。

なお、1つのキャビティから何個抜き取るかという抜取数の設計は、別の論点です。ここでは、どのキャビティから取るかという選択に限定してお話しします。

初品・量産・金型修理後で測定範囲をどう変えるか

型トライと初品検査の段階では、全キャビティを測るのが原則です。この時点でキャビティ間差の大きさを把握しておかなければ、量産中に出た差が元からあったものか、途中で生じたものかを判別できなくなります。

量産が安定したあとは、代表キャビティから1個ずつの定点観測に移行するのが一般的です。全キャビティを測り続けるよりも、傾向の変化を見るほうが実効性があります。

見落とされやすいのは、全キャビティ測定に戻すタイミングです。金型を修理したとき、入れ子を交換したとき、金型を長期休止から立ち上げたとき。これらは、キャビティ間差の分布そのものが変わり得る場面です。定点観測のまま流すと、変化した1キャビティを見逃します。

府中プラでも、お客様のご要望に応じて、量産中もキャビティごとに寸法を記録・管理しているケースがあります。工数は増えますが、傾向が数字で残るため、金型のメンテナンス時期の判断にも使えています。

寸法データをキャビティごとに分けて集計すべき理由

測ってはいるものの、全キャビティのデータを一つにまとめて集計している。この状態が、実務では問題が生じます。

キャビティ間に差がある製品群を混ぜて集計すると、分布が二山、三山になります。見かけ上のばらつきは実態より大きく出ますし、平均値は、どのキャビティの実態も表していない数字になります。

この混ざったデータを見て、ばらつきが大きいから成形条件が不安定だと判断し、条件を振り始めるという流れがよく起こります。しかし原因が特定キャビティの冷却や加工差にあるのなら、成形条件の調整だけで収束させることは困難です。本来は、そのキャビティ1つの修正で済む話です。

データをキャビティごとに分けるには、製品がどのキャビティから出たかを識別できる必要があります。キャビティ番号の付け方と運用については、別のコラムで解説しています。番号が入っていても検査記録に記入する欄がなければ、分けて集計することはできません。

発注側が品質取り決めで決めておく4つのこと

図面または品質取り決めの段階で、次の点を明確にしておくと、後の解釈違いを防げます。

まず、測定対象とするキャビティの範囲と、その頻度です。初品、ロット頭、定期のそれぞれで範囲が変わりますので、分けて指定します。

次に、成績書にキャビティ番号を記載させるかどうかです。記載がなければ、受け取った側で傾向を追うことはできません。

そして最も重要なのが、合否の判定基準です。全キャビティが公差内であることを求めるのか、測定した代表値が公差内であればよいのか。ここを決めずに進めると、不具合が出たときに解釈が割れます。

あわせて、量産開始後に取り数を増やす場合、追加したキャビティについては初品と同等の評価が必要になる点も、取り決めに含めておくとよいと思います。

多数個取り金型の寸法検査チェックリスト

・多数個取り金型であることを把握し、取り数を確認しているか

・初品検査の段階で全キャビティの寸法データを取得しているか

・量産中の測定対象キャビティと頻度を指定しているか

・金型修理・長期休止明けに、全キャビティ測定へ戻す条件を決めているか

・検査成績書にキャビティ番号の記入欄があるか

・寸法データをキャビティごとに分けて集計しているか

・合否判定を全キャビティで見るのか代表値で見るのかを取り決めているか

まとめ

多数個取り金型では、キャビティ間の寸法差は構造上避けられません。問題になるのは差があること自体ではなく、その差を把握しないまま量産を続けることです。どのキャビティを、どの頻度で測り、データをどう分けて見るか。この3点を量産移行前に決めておけば、不具合が起きたときの切り分けは格段に速くなります。

関連コラム

関連情報