技術解説

キャビティ番号を成形品に表示する理由 ─ 多数個取り金型の不良追跡と表示位置の決め方

キャビティ番号を成形品に表示する理由 ─ 多数個取り金型の不良追跡と表示位置の決め方

キャビティ番号は、多数個取り金型のどのキャビティで成形された製品かを示す識別記号です。製品の機能には関係しませんが、不具合が起きたときに原因を絞り込み、回収範囲を限定するための手がかりになります。多数個取り金型では、1回の成形で複数の製品が同時に取り出されます。金型構造については、射出成形部品設計者のための金型完全解説(第1回):これだけは押さえる!金型の基本構造と品質への影響 | 射出成形の駆け込み寺.com)で解説しています。本コラムでは構造の話ではなく、成形品に刻まれたキャビティ番号を、発注側がどう使い、どう指定するかという運用面に絞ってご説明します。

キャビティ番号とは

多数個取り金型の各キャビティに1、2、3…と識別記号を割り当て、その記号を製品表面に転写したものがキャビティ番号です。成形品を1個手に取れば、それが金型のどの位置から出たものかが分かります。

表記方法は、数字、アルファベット、ドット(点の数)などがあります。金型側は彫り込みで形成する場合と、番号入りの入れ子やピンを組み込む場合があり、後者は番号の変更や追加に対応しやすい構造です。

なお、キャビティ番号は成形品の機能には一切寄与しません。あくまで、品質管理のために意図的に付与する情報です。

キャビティ番号が不良の切り分けに効く場面

キャビティ番号の価値は、問題が起きたときに最もはっきり表れます。

不良の切り分けが最大の用途です。寸法が外れた、バリが出た、充填不足が出たというとき、番号があれば「特定のキャビティだけの問題か、全キャビティ共通の問題か」を製品を見るだけで判別できます。前者なら金型のその部位、後者なら成形条件や材料を疑う、と初動が分かれます。番号がなければ、この切り分けに何ショットもの検証が必要になります。

金型のメンテナンス対象の特定にも直結します。特定キャビティだけ冷えにくい、離型が重い、バリが出やすいという傾向が数字で見えるため、型全体を触るのではなく、該当部位だけを修正できます。

市場不具合の遡及では、回収や選別の範囲を狭める効果があります。原因が1キャビティに限定できれば、対象は出荷数の一部で済みます。

初品検査や工程能力の評価でも、キャビティごとのデータを取ることで、ばらつきがキャビティ間差なのかショット間差なのかを分離できます。

当社では、PPSやレニーなどを使用し、高い寸法精度を要求される成形が多く、キャビティ管理は意識的に厳しく行っています。

キャビティ番号の表示位置と書式の決め方

位置決めの原則は、製品の機能に影響せず、かつ検査時に読める場所であることです。

意匠面、嵌合面、シール面、摺動面は避けます。わずかな凹凸でも、これらの面では外観や機能に影響するおそれがあるためです。一方で、組立後に完全に隠れてしまう面に置くと、工程内では読めても、市場から戻ってきた製品では確認できません。

製品側を凸にするか凹にするかも判断が要ります。金型に文字を彫り込む方法は加工がしやすく、この場合、製品側の番号は凸になります。多くの製品で採用されているのはこの形です。ただし、凸の番号は、搬送や積み重ねで擦れたり、相手部品に干渉したりすることがあります。そうした心配がある場合は、表示する部分の座面を一段下げ、その中に凸の番号を収めて、周囲の面より出ないようにする方法があります。製品側を凹にしたい場合は、金型側を凸にする必要があるため、番号入りの入れ子やピンを使う方法が一般的です。

文字の大きさと深さ(または高さ)は、読みやすさと転写性の両立で決まります。小さすぎる文字や浅すぎる彫り込みは、材料や成形条件によっては十分に転写されません。検査員が拡大鏡なしで読めるかどうかが、実用上の目安になります。

表示の位置、凹凸の別、書式、大きさを図面や仕様書でご指定いただけると、金型の設計段階から反映でき、量産に入ってからの金型修正を避けられます。

キャビティ番号を表示できない製品の識別方法

すべての製品に番号を入れられるわけではありません。微小部品で面積が足りない、全面が意匠面、シール面しかない、異物や付着物を嫌う用途、といったケースがあります。

この場合、代替手段はいくつかあります。エジェクタピン跡やゲート形状をキャビティごとに変える、リブ先端の点の数で区別する、といった形状差による識別です。また、ランナー側に番号を刻印し、切り離す前に仕分ける方法も考えられます。

キャビティ番号の運用でつまずきやすい点

キャビティ番号は、入れさえすれば機能するものではありません。

最も多いのが、番号は入っているが記録されていないという状態です。検査記録にキャビティ番号の欄がなければ、後から傾向を追うことはできません。

金型修理による不整合も起こります。入れ子を交換した際に番号が変わる、または番号のない入れ子が入ってしまい、以降の製品が追えなくなるケースです。修理記録と番号の対応を残しておく必要があります。

番号と金型図面上の配置が一致していないという問題もあります。番号3の製品に不具合が出たとき、型のどの位置が3なのかが分からなければ、切り分けの意味がありません。配置図は金型と一緒に管理すべき情報です。

そのほか、刻印が浅く読み取れない、工程内で混ざって袋詰めされ番号の意味が消える、図面改訂で位置を変えたが旧仕様品が在庫に残っているといった点が、実際につまずきやすい箇所です。

発注前の発注前のキャビティ番号のチェックリスト

・キャビティ番号の表示有無を図面または仕様書で指定しているか

・表示位置が、意匠面・嵌合面・シール面を避けているか

・検査時に拡大鏡なしで読める書式・サイズになっているか

・キャビティ番号と金型内の配置を示す図が共有されているか

・検査記録や成績書に、キャビティ番号を記入する欄があるか

・表示できない製品の場合、代替の識別方法と分別ルールが決まっているか

まとめ

キャビティ番号は、製品の機能には関係しない情報です。しかし、不具合が起きたときに原因を絞り込み、回収範囲を限定し、金型の改善対象を特定するための手がかりになります。図面に指定がないまま量産に入り、問題が起きてから「番号を入れておけばよかった」となる例は少なくありません。表示の有無と位置は、量産移行前に決めておくべき項目です。

府中プラでは、製品形状と成形条件を踏まえた金型仕様の検討・起工管理から、量産、キャビティ単位の品質管理まで一貫して対応しています。

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