PA9T(ポリアミド9T)とは
PA9T(ポリアミド9T)は、結晶性のスーパーエンプラであり、ポリアミド(ナイロン)系樹脂の中でも特に優れた耐熱性、耐薬品性、寸法安定性を持つ高性能材料です。PA9Tの「9T」は、主鎖に9個のメチレン基を持つ分子構造を示し、他のポリアミドと比較して高い結晶性と低吸水性を持つことが特徴です。このため、高いガラス転移温度を有し、吸水による寸法変化が少ないことから、電子部品や自動車部品、精密機械部品など、厳しい環境条件下での使用に適しています。また、融点は306℃、ガラス転移温度は125℃と、ポリアミド系樹脂の中でも高い耐熱性を誇ります。
他のPA樹脂と比較すると、PA6、PA66と比べて吸水率が低く、寸法安定性に優れるため、高精度な部品に適しています。また、耐熱性も高く、長期的な使用においても安定した物性を維持します。PA12Tも低吸水性で知られていますが、PA9Tはさらに耐熱性に優れており、特にはんだリフロー耐性の観点から電子部品用途で多く採用されています。PA46は高温環境に強いポリアミドですが、PA9Tはさらに寸法安定性に優れ、吸水による物性変化が少ないため、精密成形部品に適しています。
1. 優れた耐熱性
PA9Tは、ポリアミド系樹脂の中でも特に高い耐熱性を持ち、耐熱変形温度(HDT)は200℃以上、連続使用温度も150℃程度に達します。この特性により、高温環境下での長時間使用が求められる部品に適しています。また、はんだリフロー耐性にも優れ、電子部品用途でも高い信頼性を発揮します。
2. 優れた寸法安定性
一般的なポリアミド(PA6、PA66)は吸水により膨潤し、寸法変化を引き起こしますが、PA9Tは低吸水性であり、吸水による寸法変化が少ないため、高精度が求められる部品に適しています。このため、電子機器のコネクタや機械部品など、厳密な公差管理が必要な用途に採用されています。
3. 優れた耐薬品性
PA9Tは、酸、アルカリ、各種有機溶剤に対して高い耐薬品性を示します。特に、高温・高湿環境下でも加水分解しにくい特性を持ち、従来のポリアミドよりも耐加水分解性に優れています。この特性により、耐薬品性が求められる自動車エンジン周辺部品や産業用機械部品などの用途で使用されます。
4. 高い機械的特性
PA9Tは、高い引張強度、剛性、耐摩耗性を持ち、機械的負荷のかかる部品に適しています。特に、ガラス繊維や炭素繊維で強化したグレードは、金属代替材料としての利用も可能であり、軽量化と高強度の両立が求められる部品に使用されています。
5. 優れた電気的特性
PA9Tは、高い絶縁性と低誘電率を持ち、電子・電気部品に適した材料です。特に、高周波特性に優れているため、5G通信機器や精密電子機器の絶縁材料としても活用されています。また、難燃性グレードも存在し、安全性が求められる電気電子用途に適しています。
6. 成形加工性
PA9Tは、流動性が良好で射出成形性に優れているため、複雑な形状の成形が可能です。ただし、結晶化速度が速いため、適切な成形条件の設定が重要となります。また、高温成形が必要なため、金型の耐熱性や成形設備の温度管理に注意が必要です。
PA9T(ポリアミド9T)を推奨する用途・ニーズ
01 SMT関連用途

PA9Tは、耐熱性と寸法安定性に優れており、はんだリフロー工程を経るSMT(表面実装)部品に最適な材料です。吸水率が低いため、高温環境下での寸法変化が少なく、実装時の歪みやクラック発生リスクを抑えることができます。また、耐薬品性にも優れており、フラックスや洗浄剤に対する耐性を持つため、プリント基板上の電子部品ハウジング、センサーボディ、ICソケットなどの用途に適しています。 当社では、微細形状の成形に対応可能な精密金型技術を駆使し、高品質なSMT実装部品の量産が可能です。特に、電子機器向けの厳しい品質基準を満たす管理体制を整えており、小型・高精度な成形品の製造に対応しています。
02 EE(電気電子)

PA9Tは、優れた電気的特性と寸法安定性を兼ね備えており、微細形状が求められるコネクタ用途に適した材料です。低吸水性により環境変化による寸法変動が少なく、高密度実装が求められる電子機器や産業用コネクタに最適です。また、高耐熱性を持ち、はんだリフロー工程に耐えうる性能を有しているため、通信機器の精密コネクタにも広く使用されています。 さらに、ヒューズカバー などの電気部品としても実績がある材料です。当社では、高精度金型技術と射出成形プロセスの最適化により、PA9Tを用いた微細コネクタ部品の量産対応が可能です。これまでの高耐熱材の取扱いや電気電子部品用途の成形で培った技術を活かし、設計から量産まで一貫したサポートを提供します。
03 高摺動・高寸法部品

PA9Tは、その優れた耐熱性から、高耐熱性が要求される部品に目が行きがちですが、優れた摺動特性と高精度な寸法安定性を兼ね備えたスーパーエンプラでもあります。低吸水性により湿度変化による膨張・収縮が少なく、長期にわたり安定した形状精度を維持できます。また、耐摩耗性に優れ、低摩擦係数を持つことから、高摺動が求められる部品に適しています。当社では、高精度成形を実現する金型技術と独自の成形条件最適化により、PA9Tを用いた精密摺動部品の量産を得意としています。産業機械、医療機器など、多様な用途で実績があり、安定した品質の製品供給を実現します。
当社のPA9T(ポリアミド9T)成形における強み
01 製品デザイン、金型デザインに関するノウハウ

当社は、PA9Tの低吸水性や高耐熱性を考慮した形状設計について助言をさせて頂き、成形後の歪みやクラックのリスクを低減します。特に、エッジを極力避けた形状とすることで製品の信頼性を向上させます。また、高精度な金型設計により、PA9Tの特性を最大限に引き出すことが可能です。複雑な形状の成形にも対応し、顧客のニーズに応じた製品を提供させて頂きます。
02 最適な成形条件の設定

PA9Tの成形には高温成形が必要です。当社は、金型の耐熱性や成形設備の温度管理に注意を払い、製品形状に合わせた適切な成形条件を設定します。特に、PA9Tは結晶化速度が速いため、適切な成形条件の設定が重要です。金型温度を135~160℃に設定し、樹脂温度は310~340℃で管理することで、成形時の残留応力を最小限に抑え、安定した品質の製品を提供致します。
PA9T(ポリアミド9T)の成形実績
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トラック エアブレーキの配管継手
本製品は、トラックのエアブレーキに使用される部品で、月間10万個の生産に対応するため8個取りの金型を採用しています。複雑な形状に加え、寸法精度±0.05mm、バリ0.05mm以下という厳しい要求を満たすため、金型構造を最適化しました。
これにより、精密な寸法管理とバリ抑制を実現し、量産性と高品質の両立を可能にしています。
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住宅用スライドドア 鍵部のカバー
本製品は住宅用スライドドアの鍵部カバーで、従来の成形品に発生していた変形やクラックの問題を解決するために開発しました。
初期設計では金型からの取り出しが困難だったため、肉抜きの設置変更を検討しましたが、代わりに片側の勾配調整を提案し採用されました。
試作後のクラック対策として固定側にプッシャー機構を追加し、安定した量産体制を実現しています。
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エアブレーキの配管継手 偏肉部品
本製品はトラックのエアブレーキに使用され、寸法精度±0.05mmとバリ0.05mm以下という厳しい基準を満たす必要があります。さらに、偏肉形状のため薄肉部でのショートやガス焼けが発生しやすく、高度な成形技術が求められました。
当社では金型設計を最適化し、ベント構造を工夫することで樹脂の流動を精密に管理することで、高品質を維持しながら安定した量産を実現しています。
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