材料選定の手引き-安全規格/法規制、環境特性編-

製品の設計において、樹脂材料の選定は前コラムでご説明した機械的強度や熱特性だけでなく、安全規格や環境特性といった規制や外部環境に対する耐性を考慮する必要があります。
特に、電気・電子、機械、流体制御機器、医療機器などの分野では、各種規制への適合や長期間の使用に耐えうる信頼性の確保が求められます。
当社では、材料選定の際に考慮すべき主要な特性を整理し、5つの視点から解説する「材料選定の手引き」を作成しました。
本コラムでは、「材料選定の手引き」のPart-4「安全規格、法規制編」およびPart-5「環境特性編」の内容をご紹介し、適切な樹脂選定のためのポイントを解説します。
Part-4 「安全規格、法規制編」
樹脂成形品は、さまざまな安全規格や法規制に適合する必要があります。
特に電気・電子機器や食品・医療用途では、難燃性や化学物質規制など、厳しい基準が適用されます。
1.難燃性規格(UL94)
UL94はプラスチックの燃焼性を評価する国際的な規格であり、電気・電子機器や機械部品において重要な選定基準となります。
• HB(水平燃焼試験): 一定速度以下で燃焼する場合に合格。
• V-0, V-1, V-2(垂直燃焼試験): 燃焼時間や滴下物の有無によって分類され、V-0が最も難燃性が高い。
• 5V試験: より厳しい難燃基準で、発電設備や制御盤などの用途向け。
これらの試験結果は「イエローカード」として登録され、材料選定の際の基準となります。
2.酸素指数(LOI)
酸素指数(LOI)は、材料が燃焼を維持するために必要な最小酸素濃度を示します。
• 21以下: 燃えやすい(例:PS、PE、PP)
• 21~27: 標準的な耐燃性(例:PC、PA66)
• 28以上: 高い難燃性(例:PPS、PEEK)
高い酸素指数を持つ材料は、火災リスクを低減できるため、特定の用途では必須条件となります。
3.食品・医療関連規格(FDA、NSF、食品衛生法)
食品や医療機器に使用されるプラスチック材料は、以下の基準を満たす必要があります。
• FDA(アメリカ食品医薬品局): 食品と接触する材料の安全基準
• NSF(National Sanitation Foundation): 飲料水供給システムの材料安全基準
• 日本の食品衛生法: 食品容器や調理器具の安全基準。2020年よりポジティブリスト制度が導入
4.化学物質規制(RoHS、REACH、TSCA)
製品に含まれる化学物質は、国際的な規制に適合する必要があります。
• RoHS指令(EU): 電気・電子機器の有害物質(鉛、水銀、カドミウムなど)を制限
• REACH規則(EU): 化学物質の登録・評価・認可・制限を規定
• TSCA(アメリカ): 新規化学物質の安全性評価
これらの規制に適合するため、材料調達時にサプライヤーからの証明書取得や試験が求められます。
Part-5 「環境特性編」
環境特性は、樹脂成形品の長期的な耐久性や外部環境への適応性を決定する重要な要素です。
1.耐候性(紫外線・湿度・温度変化への耐性)
耐候性は、製品の寿命や外観維持に関わる重要な要素です。
• 促進耐候性試験(UV試験): 紫外線・湿度・温度の影響を評価(ASTM G154)
• キセノンアーク試験: 自然光に近い条件での耐候性評価(ASTM G155)
• 天然暴露試験: 実環境での耐久性評価(ISO 877)
耐候性の高い材料例
• ASA(アクリルスチレンアクリロニトリル樹脂)
• AES(アクリルエラストマースチレン共重合樹脂)
• PMMA(ポリメチルメタクリレート)
耐候性の低い材料例
• ABS(ブタジエン成分が酸化しやすい)
• PC(紫外線で黄変しやすい)
• PA(吸湿性が高く変色しやすい)
2.耐薬品性(化学物質への耐性)
薬品と樹脂の相互作用によって、材料の劣化が発生する可能性があります。
化学反応による劣化
• 加水分解(PET、PBT、PC)
• 酸化反応(PE、PP)
• アルカリ分解(PA6、PA66)
物理的影響による劣化
• 溶解・膨潤(PC、PMMA)
• 応力腐食割れ(PC、PS)
• 吸水・寸法変化(PA6、PA66)
耐薬品性の高い材料例
• PPS(耐酸・耐アルカリ・耐油性が高い)
• PEEK(ほぼ全ての化学薬品に対して高い耐性)
• PSU/PES(耐酸・耐薬品性が高いが、強酸には注意)
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まとめ
「材料選定の手引き」Part-4では、安全規格や法規制の適合性を重視し、難燃性、食品・医療規格、化学物質規制の観点から適切な材料を選定する重要性を解説しました。
「材料選定の手引き」Part-5では、環境特性として耐候性や耐薬品性の評価基準を示し、製品の長期的な信頼性向上のための指針を提供しました。
適切な材料選定には、これらの要素を総合的に考慮し、用途や環境条件に最適な樹脂を選ぶことが求められます。
2回にわたってお届けした技術コラム「材料選定の手引き」はいかがでしたでょうか。本手引きが、皆様の製品設計における材料選定において一助となれば幸いです。